27 / 50
三度目の人生
第27話 たった一つの方法
しおりを挟む
「何か方法があるのですか? どんな方法ですか?」
シメオン様は前のめりになる。
「わたくしがもう一度回帰すればいいのです。お茶会のその日に。こぼれたお茶に毒物が混入される前にわたくしが採取すればいいのです。それを検査していただければ、お茶に毒が入っていなかったことを証明できます」
「……え?」
私は牢屋に入る前に身ぐるみをはがされた。鞄も装飾品もドレスも、下着すらも全て取り上げられた。けれど唯一奪われなかった物がある。それは右腕の包帯だ。これに毒物が混入される前のお茶を染み込ませ、再び戻るであろうこの牢屋でシメオン様にお渡しすればいい。
「一度目の回帰と二度目とでは、戻った時間帯が異なっていました。もしかしたら何か転機となる行動があって、回帰する前と違ったその行動をした場合、それが確定されてしまい、そこより以前の時間までは戻れないようになっているのかもしれません」
おそらくその転機となる行動は、一度目は私が腕に包帯を巻いたこと、二度目はカップを入れ替えたことになるだろう。つまり次に戻れるとしたら、私がカップを入れ替えた後になるはずだ。
「王女殿下がお倒れになるまでには戻れると考えています。一方で、毒入りのお菓子をお食べになることはもう止められないでしょう。それでも応急処置が早ければ、回復も早まるはずです。ですからわたくしは次も必ず毒の名を叫びます」
「アリシア様」
「そうそう」
シメオン様が私に呼びかけたが、伝え忘れない内に彼の行動についても注意を促しておくことにする。
「それ以外に、わたくしが直接関わっていないこと、シメオン様の行動でも状況が変化していました。ですからシメオン様もこれ以上もう何もなさらないで、ただ静かにわたくしを見送ってくださいませ」
「――アリシア様、お待ちください。何をおっしゃっているのです」
先走りしてしまったようだ。私は改めて説明する。
「シメオン様はこれまでの回帰で、ここには二度訪れておりません。一度目はリーチェとシメオン様が鉢合わせし、私が不用意な言動を取ってしまったため、彼女が王太子殿下に頼んであなたの行動を制限させました。二度目は鉢合わせしていないのにもかかわらず、あなたの動きを察知して調査を妨害していたようです」
殿下はシメオン様を終日、護衛に就かせると言っていた。
「おそらくシメオン様の行動がそれまでと違っていたのでしょう。つまりわたくしだけではなく、周囲の人間の行動によっても状況が変わってしまうということです。ですからシメオン様には調査を控えていただきたいのです」
「私が調査を止めたら――っ。あなたは! あなたは今、何をおっしゃっているのか、本当に分かっているのですか!」
普段は冷静なシメオン様がこんなにも感情的に叱責する姿は、近くでは初めて見てたじろいだ。
「あなたは今、この世界にある可能性の芽さえご自分で摘み取ろうとしているのですよ! それに回帰されるということは、もう一度あなたは処刑される――死ぬということです。次の状況がさらにあなたを追い詰めることになるかもしれない。しかも戻れるという保証はどこにもありません。もしかしたらそのまま……」
拳を作って震わせ、険しい表情で語尾をぼかすシメオン様。
私はこくんと息を呑む。
「承知しております。ですが、もうそれしか方法がないのです。わたくしを犯人にしたい人間がいる以上、シメオン様が動いても妨害されるのみで、きっと私の無実を証明してくれるものが出てくることはないでしょう。それどころか、転機となる行動を取ってしまって、回帰したい時間まで戻ることができなくなる可能性だってあるのです。どうかご理解ください」
「ですが!」
「シメオン様。わたくしはこの世界ではなく、自分が動ける次の世界に可能性を見出したいのです」
シメオン様は唇をぐっと固く結び、目を細めて顔を強張らせた。
シメオン様は前のめりになる。
「わたくしがもう一度回帰すればいいのです。お茶会のその日に。こぼれたお茶に毒物が混入される前にわたくしが採取すればいいのです。それを検査していただければ、お茶に毒が入っていなかったことを証明できます」
「……え?」
私は牢屋に入る前に身ぐるみをはがされた。鞄も装飾品もドレスも、下着すらも全て取り上げられた。けれど唯一奪われなかった物がある。それは右腕の包帯だ。これに毒物が混入される前のお茶を染み込ませ、再び戻るであろうこの牢屋でシメオン様にお渡しすればいい。
「一度目の回帰と二度目とでは、戻った時間帯が異なっていました。もしかしたら何か転機となる行動があって、回帰する前と違ったその行動をした場合、それが確定されてしまい、そこより以前の時間までは戻れないようになっているのかもしれません」
おそらくその転機となる行動は、一度目は私が腕に包帯を巻いたこと、二度目はカップを入れ替えたことになるだろう。つまり次に戻れるとしたら、私がカップを入れ替えた後になるはずだ。
「王女殿下がお倒れになるまでには戻れると考えています。一方で、毒入りのお菓子をお食べになることはもう止められないでしょう。それでも応急処置が早ければ、回復も早まるはずです。ですからわたくしは次も必ず毒の名を叫びます」
「アリシア様」
「そうそう」
シメオン様が私に呼びかけたが、伝え忘れない内に彼の行動についても注意を促しておくことにする。
「それ以外に、わたくしが直接関わっていないこと、シメオン様の行動でも状況が変化していました。ですからシメオン様もこれ以上もう何もなさらないで、ただ静かにわたくしを見送ってくださいませ」
「――アリシア様、お待ちください。何をおっしゃっているのです」
先走りしてしまったようだ。私は改めて説明する。
「シメオン様はこれまでの回帰で、ここには二度訪れておりません。一度目はリーチェとシメオン様が鉢合わせし、私が不用意な言動を取ってしまったため、彼女が王太子殿下に頼んであなたの行動を制限させました。二度目は鉢合わせしていないのにもかかわらず、あなたの動きを察知して調査を妨害していたようです」
殿下はシメオン様を終日、護衛に就かせると言っていた。
「おそらくシメオン様の行動がそれまでと違っていたのでしょう。つまりわたくしだけではなく、周囲の人間の行動によっても状況が変わってしまうということです。ですからシメオン様には調査を控えていただきたいのです」
「私が調査を止めたら――っ。あなたは! あなたは今、何をおっしゃっているのか、本当に分かっているのですか!」
普段は冷静なシメオン様がこんなにも感情的に叱責する姿は、近くでは初めて見てたじろいだ。
「あなたは今、この世界にある可能性の芽さえご自分で摘み取ろうとしているのですよ! それに回帰されるということは、もう一度あなたは処刑される――死ぬということです。次の状況がさらにあなたを追い詰めることになるかもしれない。しかも戻れるという保証はどこにもありません。もしかしたらそのまま……」
拳を作って震わせ、険しい表情で語尾をぼかすシメオン様。
私はこくんと息を呑む。
「承知しております。ですが、もうそれしか方法がないのです。わたくしを犯人にしたい人間がいる以上、シメオン様が動いても妨害されるのみで、きっと私の無実を証明してくれるものが出てくることはないでしょう。それどころか、転機となる行動を取ってしまって、回帰したい時間まで戻ることができなくなる可能性だってあるのです。どうかご理解ください」
「ですが!」
「シメオン様。わたくしはこの世界ではなく、自分が動ける次の世界に可能性を見出したいのです」
シメオン様は唇をぐっと固く結び、目を細めて顔を強張らせた。
224
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
[完結]出来損ないと言われた令嬢、実は規格外でした!
青空一夏
恋愛
「おまえなど生まれてこなければ良かったのだ!」そうお父様に言われ続けた私。高位貴族の令嬢だったお母様は、お父様に深く愛され、使用人からも慕われていた。そのお母様の命を奪ってこの世に生まれた私。お母様を失ったお父様は、私を憎んだ。その後、お父様は平民の女性を屋敷に迎え入れ、その女性に子供ができる。後妻に屋敷の切り盛りを任せ、私の腹違いの妹を溺愛するお父様は、私を本邸から追い出し離れに住まわせた。私は、お父様からは無視されるか罵倒されるか、使用人からは見下されている。そんな私でも家庭教師から褒められたことは嬉しい出来事だった。この家庭教師は必ず前日に教えた内容を、翌日に試験する。しかし、その答案用紙さえも、妹のものとすり替えられる。それは間違いだらけの答案用紙で、「カーク侯爵家の恥さらし。やはりおまえは生まれてくるべきじゃなかったんだな」と言われた。カーク侯爵家の跡継ぎは妹だと言われたが、私は答案用紙をすり替えられたことのほうがショックだった。やがて学園に入学するのだがーー
これは父親から嫌われたヒロインが、後妻と腹違いの妹に虐げられたり、学園でも妹に嫌がらせされるなか、力に目覚め、紆余曲折ありながらも幸せになる、ラブストーリー。
※短編の予定ですが、長編になる可能性もあります。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私
青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。
中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。
(完)婚約解消からの愛は永遠に
青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。
両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・
5話プラスおまけで完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる