つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第3話 麗しの殿下登場

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「じゃあ、行って参ります」

 さすがに王宮に一人で向くのは心許ないので、父も一緒に付いて来てほしいところだけれど、私一人でとのお話だ。
 意味深にも思えるが、第一王子ともあろう者が内密で貴族の人間と会うのも良からぬ勘ぐりをされては困るというところだろうか。

「気をつけてな」
「まずは丁寧にご挨拶するのよ! そしてくれぐれも余計な事は言わないのよ! ただにっこりと笑っているだけにしなさい。余計な口は開かないこと!」

 父と母と兄二人に見送られながら、馬車へと向かう。
 お忍びで使う用なのかもしれない。想像していた王室御用達の煌びやかな馬車はではなく、上質なのだろうけれど至って控えめな外装だった。
 私としても派手な馬車で登城したいわけではない。

 そんな事を考えながら馬車に近付いた時。
 突如、馬二頭が前足を上げ、大きく嘶いた。

「ど、どうどう。落ち着け。一体どうしたんだ? いつもは大人しいのに」

 使者は馬をなだめる御者を一瞥すると、私にどうぞと馬車の中へ誘導した。


 結構な速度が出ている割に馬車の中はさすが快適だ。
 うちは子爵として領地を持っているとは言っても、他の貴族と比べて田舎町で道路を王都ほど綺麗に整備できる程の資産家ではないので、馬車は揺れが激しくていつも酔いそうになるし、突き上げられては落とされるためにお尻も痛い。けれど王家御用達のこの馬車は揺れが少ない設計になっているようで、揺れがあったとしても厚みのあるクッションでお尻が痛くなるということはない。
 うっかりするとうたた寝すらできるかもしれない。王家からの使者を前にさすがにしないけど。

 使者は時折、こちらを気遣う言葉をかけてはくださるけれど、二人の間に会話はほぼ無く、私は王宮までの行程のほとんどを外を眺めて静かに過ごした。


 そして王宮に到着したわけですが。

「こちらでお待ちくださいませ」

 大きなお部屋に一人ぽつんと残された。
 これから殿下を呼びに行くのだろうけれど、謝る体で私を呼びつけているのだから、そもそも私が到着する前にこの部屋でスタンバイしておけというお話である。

 それにしても、この部屋は応接間の一つなのだろうか。大きなお部屋に対してソファーとテーブル、それと部屋を彩る花が生けられた花瓶のみで余計なものが無い。
 ごてごて飾り付けられた内装よりも上品さがあって、趣味の良さが窺えるな、などと謎の上から目線をしてしまう。

 暇な時間を持てあまし、辺りの観察を行っていた私だったけれど、控えめに来客を知らせるノックで思わず飛び上がった。
 殿下のご登場といったところだろう。

「失礼する」

 軽い一言と共に現れた殿下は、太陽が地を照らすお時間もやはり麗しの殿下だった。
 長身ですらりとした体躯に洗練さが加わった佇まいに一瞬見惚れてしまいそうになったが、目をつり上げた母が瞬時に脳裏に浮かび、慌てて挨拶をする。

「ほ、本日はご機嫌麗しく」
「ああ。堅苦しい挨拶はいい。座ってくれ」

 手を振って私の挨拶を早々に遮ると、自身もまた私の向かい側のソファーに腰を下ろした。

「は、はい。それでは失礼いたします」

 着座することで目線の高さは近くなったのだけれど、一向に視線が絡み合わない。なぜなら殿下は横に視線を流しているからだ。
 何かあるのだろうかと釣られて見てみるも、特に興味を引くようなものはない。私は仕方なく顔を正面に戻す。

「昨日のことだが」
「あ、はい!」
「失礼した」

 短い言葉とそっぽを向いているせいで、親に怒られたから仕方なく謝っている少年のように見える。
 謝罪というものはだね。真摯な態度で向き合って、心から謝るべきであって、嫌々謝られたって何の意味もないのであり。
 と、心の中で思っていると、慌てた表情で私を見た。

「すまない。悪気はなかったんだ」

 それだけ言うとすぐにまた視線を逸らした。

 何とな!? こやつ、私の心を読んだ!?
 と、心の中で思うと同時に口に出た。

「……いや。普通に口から文句が出ていたが。と言うか、一応私はこの国の第一王位継承者だぞ。こやつはないだろう、こやつは」

 私の失礼さに対しても意外と寛容に苦笑いする殿下に、私は張っていた肩の力を抜いた。
 なお、抜くな抜くなと頭の中で響く母のツッコミは私の独断で無視させていただく。

「失礼いたしました。それと無礼ついでにあらためて申し上げます。先ほどのわたくしに対する謝罪は、謝罪する側が呼びつけた割には、謝る態度ではなかったと思うのですが。そして今も」

 未だ私と目を合わせようとしないのはどういう了見か。

「君が対する相手は王家の人間なのに、なかなか辛辣な言葉だな」
「お褒めいただき光栄にございます」
「うん。褒めてはないかな」

 殿下は再び苦笑いする。

「そうだな。こちらも無礼に不作法を重ねるわけにはいかない。あらためて謝罪させていただこう」

 意を決したようにこちらに向いた。
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