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第11話 世界は一日でひっくり返る
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うちの馬車に乗りながら学校へと向かっていると、相変わらず揺れが激しくて酔いそうになるし、お尻は痛くて学校に到着する頃には一日の半分くらいの体力は削られているように思う。
しかし今後、王宮から王家御用達の馬車で通うことになるのならば、それが無くなるかと思うと、ほんの少しだけ利点が見いだせる気がする。
その代わりに、慣れぬ王宮での生活は大変に違いないけれど。
そもそも本気で王宮に呼んでくれるのでしょうね、あの殿下。
学校が始まるまでには段取りをつけるという約束も既に破られているし、本当に信用していいのか疑心になる。呼ばないなら呼ばないでいいけれど、私のことはともかく父の立場だけは絶対守ってくださいよね。
そんな事を考えていると、馬車は到着したらしい。
「ロザンヌ様、どうぞお気を付けて」
「ありがとう。行ってきます」
付き添ってくれたユリアに挨拶を残して、いざ戦地に向かわん。
さあ気合いを入れて行くぞ!
周りからの痛いほどの視線を受けながら、母に見られたら怒られそうなほど勇ましく歩いていると。
「ロザンヌ様!」
背後から声がかかり振り返る。そこにいたのは友人のマリエル・ロンド子爵令嬢だった。
可愛らしく線が細くてその容姿のごとく、しとやかで品があるご令嬢だ。
「おはようございます、マリエル様。今日も天気いいですね」
「おはようございます。あの。社交パーティーでのお話を耳にしたのですけれども」
傘を右手に持つ私を見て不思議そうに首を傾げつつも、マリエル嬢はすぐにあの話題を切り出した。
彼女はあの日、熱を出して出席できなかったけれど、話だけは入ってきたらしい。
「噂ではロザンヌ様が殿下に何か暴言を吐いて、お怒りを買ったと」
「暴言だなんて。殿下のご気分が優れなかったのですよ。謝罪のお言葉を頂いたくらいで。それに仮に何かされたとしても、殿下相手に暴言を吐くほど馬鹿ではな……」
ないとは言い切れない自分が怖い。
言葉を途切れさせた私に、マリエル嬢は困ったように笑った。
「とにかくね。マリエル様も事が解決するまでわたくしに近付かない方がいいですわ。嫌がらせをしてくる人間が出て来そうな気がするから」
「そんな……。わたくしは大丈夫です」
彼女は表情に陰を落とし、きゅっと手を握る。
その姿は見るからに華奢で、ほんの少しの刺激でも心と身体が簡単に壊れてしまいそうだ。
「ありがとうございます。でも酷な事を言うようだけれど、できれば離れていてくれる方がいいの。自分一人くらいなら自分で守ることができます。でも巻き込んでしまった人まで守りきる自信がないの」
捉え方によっては足手まといだと、そう聞こえてしまうかもしれない。
しかし彼女は反論しようにも、実際、自分にそれだけの力はないと思ったのか、視線を落としてぐっと押し黙った。けれどすぐにきっと顔を上げる。
「せめて。せめて教室まではご一緒していいですか」
友人としての彼女のせめてもの勇気と心配りなのだろう。私はその気持ちをありがたく頂くことにした。
「……ええ。もちろん。ありがとうございます、マリエル様」
教室の前に到着し、おはようございますと誰とはなしに挨拶をしながら入ると、がやがやと騒がしかった教室内が私の姿を認めた瞬間、息を詰めたように静まり返った。直後、またひそひそ話が始まる。それからはニヤニヤと好奇の目を向けられたり、逆に腫れ物に触れぬよう視線を逸らされたりといつもと違う日常がそこにあった。
世界とは一日でひっくり返るものだなと、どこか冷めた目でそれらを眺める。
皆、本当に噂好きよね。
我知らずため息をつく。
立場が違えば、自身も彼らと同じできっと話の種にしてしまうのだろう。いや、私もまたそうしてきたのかもしれない。だから私が誰かを責める権利などない。しかしまさか地味な自分が噂される身になるとは思いもしなかった。
自嘲しながら自分の席へと向かうと、私は驚きで大きく目を見開く。
なぜならば、私の机の上には白い花が生けられた細長い花瓶が置かれていたからだった。
しかし今後、王宮から王家御用達の馬車で通うことになるのならば、それが無くなるかと思うと、ほんの少しだけ利点が見いだせる気がする。
その代わりに、慣れぬ王宮での生活は大変に違いないけれど。
そもそも本気で王宮に呼んでくれるのでしょうね、あの殿下。
学校が始まるまでには段取りをつけるという約束も既に破られているし、本当に信用していいのか疑心になる。呼ばないなら呼ばないでいいけれど、私のことはともかく父の立場だけは絶対守ってくださいよね。
そんな事を考えていると、馬車は到着したらしい。
「ロザンヌ様、どうぞお気を付けて」
「ありがとう。行ってきます」
付き添ってくれたユリアに挨拶を残して、いざ戦地に向かわん。
さあ気合いを入れて行くぞ!
周りからの痛いほどの視線を受けながら、母に見られたら怒られそうなほど勇ましく歩いていると。
「ロザンヌ様!」
背後から声がかかり振り返る。そこにいたのは友人のマリエル・ロンド子爵令嬢だった。
可愛らしく線が細くてその容姿のごとく、しとやかで品があるご令嬢だ。
「おはようございます、マリエル様。今日も天気いいですね」
「おはようございます。あの。社交パーティーでのお話を耳にしたのですけれども」
傘を右手に持つ私を見て不思議そうに首を傾げつつも、マリエル嬢はすぐにあの話題を切り出した。
彼女はあの日、熱を出して出席できなかったけれど、話だけは入ってきたらしい。
「噂ではロザンヌ様が殿下に何か暴言を吐いて、お怒りを買ったと」
「暴言だなんて。殿下のご気分が優れなかったのですよ。謝罪のお言葉を頂いたくらいで。それに仮に何かされたとしても、殿下相手に暴言を吐くほど馬鹿ではな……」
ないとは言い切れない自分が怖い。
言葉を途切れさせた私に、マリエル嬢は困ったように笑った。
「とにかくね。マリエル様も事が解決するまでわたくしに近付かない方がいいですわ。嫌がらせをしてくる人間が出て来そうな気がするから」
「そんな……。わたくしは大丈夫です」
彼女は表情に陰を落とし、きゅっと手を握る。
その姿は見るからに華奢で、ほんの少しの刺激でも心と身体が簡単に壊れてしまいそうだ。
「ありがとうございます。でも酷な事を言うようだけれど、できれば離れていてくれる方がいいの。自分一人くらいなら自分で守ることができます。でも巻き込んでしまった人まで守りきる自信がないの」
捉え方によっては足手まといだと、そう聞こえてしまうかもしれない。
しかし彼女は反論しようにも、実際、自分にそれだけの力はないと思ったのか、視線を落としてぐっと押し黙った。けれどすぐにきっと顔を上げる。
「せめて。せめて教室まではご一緒していいですか」
友人としての彼女のせめてもの勇気と心配りなのだろう。私はその気持ちをありがたく頂くことにした。
「……ええ。もちろん。ありがとうございます、マリエル様」
教室の前に到着し、おはようございますと誰とはなしに挨拶をしながら入ると、がやがやと騒がしかった教室内が私の姿を認めた瞬間、息を詰めたように静まり返った。直後、またひそひそ話が始まる。それからはニヤニヤと好奇の目を向けられたり、逆に腫れ物に触れぬよう視線を逸らされたりといつもと違う日常がそこにあった。
世界とは一日でひっくり返るものだなと、どこか冷めた目でそれらを眺める。
皆、本当に噂好きよね。
我知らずため息をつく。
立場が違えば、自身も彼らと同じできっと話の種にしてしまうのだろう。いや、私もまたそうしてきたのかもしれない。だから私が誰かを責める権利などない。しかしまさか地味な自分が噂される身になるとは思いもしなかった。
自嘲しながら自分の席へと向かうと、私は驚きで大きく目を見開く。
なぜならば、私の机の上には白い花が生けられた細長い花瓶が置かれていたからだった。
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