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第16話 馬車の中で
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校舎裏の出来事の後、カトリーヌ嬢らは先生に突き出された。
本来なら多勢に無勢のはずだけれども、あっさりと数人の男子生徒を取り押さえた護衛官には勝てないと悟ったのか、ジェラルド様に伸された後は大人しく彼に従った。
もちろん王家専属の護衛官という肩書きも余計にそうさせたのだろう。だから何度も警告してさしあげたのに。人の警告は素直にきちんと耳を傾けるべきだ。
特にカトリーヌ嬢らは殿下が私に迎えを寄越し、直属の護衛官が私を助けたことに何よりも衝撃を受けて膝から崩れ落ちたようだ。さすがは王家の力と言ったところか。
とはいえ、私に言わせると助けが遅すぎる無能殿下である。助けを寄越すならもっと早くしろと。
白い花が生けられた花瓶を持つ両手に思わず力が入る。
そう。ちゃんと学校から持ってきたのだ。くれるっていうものはちゃんともらいますよ、なかなか趣味の良い花瓶ごと!
「無能ですか」
ぼそりと呟いた護衛官のジェラルド様の低い声に私ははっと顔を上げた。
突き出された主犯格のカトリーヌ嬢らと男子生徒らと一緒に事情聴取を受けた後に解放され、今は王宮に向かう馬車の中だ。ジェラルド様とは向かい合って座っている。馬車は相変わらず乗り心地が良い。
「あ、い、いえ」
また憤りが理性をいとも簡単に押しのけて口から言葉を発していたらしい。私もまだまだ未熟者だ。
「その通りですね。助けに駆けつけるのが遅れて大変失礼いたしました。非力な女性一人に対し数人の男に取り囲まれ、さぞかし恐ろしい思いをされたことでしょう。誠に申し訳ございませんでした」
「い、いえ!」
ジェラルド様は殿下の命を本日受けて、忠実に指示の通り迎えに来てくれただけだ。しかも教室にカバンだけ残してどこかに消えた私を探し回るのは大変だっただろう。
「幸い怪我もありませんでしたし、ジェラルド様が謝られることは何一つございません。悪いのは他ならぬ指示を下す側の殿下です! もっと迅速に動いてくださっていたら、このような事は起こりませんでした。わたくしが恨んでいるのはただただ殿下のみにございます!」
拳を握って力説すると、ジェラルド様は殿下を恨んでいる、と少し呆気に取られたように口にした後、小さく笑った。
「真っ直ぐなお方ですね」
「ええ。それが唯一の長所ですが、この正直すぎるお口が災いを呼んでおります。ただし自分の身を守るのもこの口一つと自負しておりますが」
「諸刃の剣というわけですね」
私が唇に指を当て、片目を伏せて笑うと、ジェラルド様はまた微笑んだ。
私はあらためて彼を見る。瞳の色は薄い緑色で、髪の毛色は栗色だ。前髪を眉より少し上に切っているためか、とても清潔感があって真面目で誠実そうに見える。
最初見た時は笑わない人なのかと思っていたけれど、そうではないらしい。微笑ながらも笑顔になると、近寄りがたそうな威圧感が一気に霧散する。そのため、護衛官としての職務を果たしている時は笑わないようにしているのかもしれない。
今は緊張で固まっている私のためにそれを解いてくださっているのだろうと思う。それにジェラルド様はかなり優秀な方なのだろう。迎えの馬車の馬が私(に憑く獣)を見て怯えたけれど、瞬く間になだめ収めたのだから。
「あ、そういえば。ジェラルド様がお迎えに上がってくださったということは、もうわたくしの父に王命が下されたのでしょうか」
今回の事で、少しくらい父に優遇措置があればいいなと期待して尋ねてみる。
「申し訳ございません。私はエルベルト殿下のご指示のみ拝命している身ですので、詳細は分かりかねます」
「そうなのですね。失礼いたしました」
「いいえ。お役に立てず申し訳ございません」
「あ、いえ」
なるほど。だとしたら私がなぜ殿下に召し上げられたのか、詳細は聞いていない可能性が高い。では、私もあまり話しすぎて口を滑らせるのは良くないな。うん、大丈夫。私は内密にすべきことはちゃんと弁えられるデキる子なのですから。
……それにしても王宮での職務はきっちりと分けられているということね。黒い陰謀が渦巻く王宮(私の独断と偏見)において、情報と指示に従う人間の分散は大切なのかもしれない。
一人勝手に納得して頷いた頃。
「そろそろ王宮に到着いたします」
ジェラルド様の声に馬車の窓から外へと覗くと、立派な王宮の姿が視界に入ってきた。
本来なら多勢に無勢のはずだけれども、あっさりと数人の男子生徒を取り押さえた護衛官には勝てないと悟ったのか、ジェラルド様に伸された後は大人しく彼に従った。
もちろん王家専属の護衛官という肩書きも余計にそうさせたのだろう。だから何度も警告してさしあげたのに。人の警告は素直にきちんと耳を傾けるべきだ。
特にカトリーヌ嬢らは殿下が私に迎えを寄越し、直属の護衛官が私を助けたことに何よりも衝撃を受けて膝から崩れ落ちたようだ。さすがは王家の力と言ったところか。
とはいえ、私に言わせると助けが遅すぎる無能殿下である。助けを寄越すならもっと早くしろと。
白い花が生けられた花瓶を持つ両手に思わず力が入る。
そう。ちゃんと学校から持ってきたのだ。くれるっていうものはちゃんともらいますよ、なかなか趣味の良い花瓶ごと!
「無能ですか」
ぼそりと呟いた護衛官のジェラルド様の低い声に私ははっと顔を上げた。
突き出された主犯格のカトリーヌ嬢らと男子生徒らと一緒に事情聴取を受けた後に解放され、今は王宮に向かう馬車の中だ。ジェラルド様とは向かい合って座っている。馬車は相変わらず乗り心地が良い。
「あ、い、いえ」
また憤りが理性をいとも簡単に押しのけて口から言葉を発していたらしい。私もまだまだ未熟者だ。
「その通りですね。助けに駆けつけるのが遅れて大変失礼いたしました。非力な女性一人に対し数人の男に取り囲まれ、さぞかし恐ろしい思いをされたことでしょう。誠に申し訳ございませんでした」
「い、いえ!」
ジェラルド様は殿下の命を本日受けて、忠実に指示の通り迎えに来てくれただけだ。しかも教室にカバンだけ残してどこかに消えた私を探し回るのは大変だっただろう。
「幸い怪我もありませんでしたし、ジェラルド様が謝られることは何一つございません。悪いのは他ならぬ指示を下す側の殿下です! もっと迅速に動いてくださっていたら、このような事は起こりませんでした。わたくしが恨んでいるのはただただ殿下のみにございます!」
拳を握って力説すると、ジェラルド様は殿下を恨んでいる、と少し呆気に取られたように口にした後、小さく笑った。
「真っ直ぐなお方ですね」
「ええ。それが唯一の長所ですが、この正直すぎるお口が災いを呼んでおります。ただし自分の身を守るのもこの口一つと自負しておりますが」
「諸刃の剣というわけですね」
私が唇に指を当て、片目を伏せて笑うと、ジェラルド様はまた微笑んだ。
私はあらためて彼を見る。瞳の色は薄い緑色で、髪の毛色は栗色だ。前髪を眉より少し上に切っているためか、とても清潔感があって真面目で誠実そうに見える。
最初見た時は笑わない人なのかと思っていたけれど、そうではないらしい。微笑ながらも笑顔になると、近寄りがたそうな威圧感が一気に霧散する。そのため、護衛官としての職務を果たしている時は笑わないようにしているのかもしれない。
今は緊張で固まっている私のためにそれを解いてくださっているのだろうと思う。それにジェラルド様はかなり優秀な方なのだろう。迎えの馬車の馬が私(に憑く獣)を見て怯えたけれど、瞬く間になだめ収めたのだから。
「あ、そういえば。ジェラルド様がお迎えに上がってくださったということは、もうわたくしの父に王命が下されたのでしょうか」
今回の事で、少しくらい父に優遇措置があればいいなと期待して尋ねてみる。
「申し訳ございません。私はエルベルト殿下のご指示のみ拝命している身ですので、詳細は分かりかねます」
「そうなのですね。失礼いたしました」
「いいえ。お役に立てず申し訳ございません」
「あ、いえ」
なるほど。だとしたら私がなぜ殿下に召し上げられたのか、詳細は聞いていない可能性が高い。では、私もあまり話しすぎて口を滑らせるのは良くないな。うん、大丈夫。私は内密にすべきことはちゃんと弁えられるデキる子なのですから。
……それにしても王宮での職務はきっちりと分けられているということね。黒い陰謀が渦巻く王宮(私の独断と偏見)において、情報と指示に従う人間の分散は大切なのかもしれない。
一人勝手に納得して頷いた頃。
「そろそろ王宮に到着いたします」
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