つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第30話 ロザンヌ様の侍女だから

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「ここがロザンヌ様のお部屋ですか」

 ユリアは私に割り当てられた部屋に入ると、辺りをしげしげと眺める。

「掃除のしがいがありますね」

 本気で言っているのか、嫌味で言っているのか。感情を見せないユリアの表情から読み取ることは難しい。

「では、早速お荷物を解いて直していきます」

 一通りの生活用品は揃えられているので、我が家から持ってきた私物は極めて少ないものの、カバンにして五つはある。それらを初めての場所にもかかわらず、ユリアは手際よく収納していく。
 私も手伝おうとするけれど、邪魔だから座っておくようにと遠回しせずに言われた。

「厨房はともかく、このお部屋だけで生活全てが賄えてしまいますね」
「……そうね」

 言われて気付いた。
 確かにこれならちょっとそこまでお花を摘みに、などとふらふら出歩かなくて済む。一方で用事を作ってふらふら出歩こうとする客人を押し込めておける部屋でもある。

 私は殿下付きの侍女という肩書きとは言え、実際の侍女のお仕事をするわけでもないし、侍女のくせになぜか二人も侍女がつく。特別感があるので、あまり他の使用人と接触がない方がいいと考えたのかもしれない。
 まあ、そこまで配慮してくれているのなら、出歩くつもりはないけれども。

「でもユリアは大丈夫かしら」

 私は他の侍女と接近する機会を減らしてもらっても、私付きの侍女をするユリアは他の侍女と同じような配膳であったり、生活用品の準備であったりするために、同じ場で顔を合わせることとなるだろう。私の代わりに新人のユリアに何か意地悪とかされないといいのだけれど。
 ユリアは手を止めると私を見た。

「私なら大丈夫です。何せ私はふてぶてく、気が強く、口の減らない正直者ですから」
「……確かにわたくしが言った言葉だけど、それのどこに安心要素があるのかしら」

 むしろ余計な軋轢を生みそうだ。
 呆れる私にユリアは続ける。

「それに、物怖じしない口調といい、態度といい、考え方といい、さすがロザンヌ様の侍女・・・・・・・・だと殿下からもお墨付きを賜っております」
「……なるほど。そうね。あなたはわたくしの侍女だものね」

 仮に何かされたとしても、黙ってやられているほど甘くないわね。

「でも何かあったら言ってね。後々の支障をきたしたりすることもあるし」
「はい。承知いたしました」

 これからの方針を話していると扉から入室許可を求めるノックがされた。

「ロザンヌ様、クロエでございます」

 殿下にお付けいただいた教育係の侍女様よとユリアに伝えると、屈んでいた彼女は立ち上がり、扉へと近づいて開放する。

「ロザ――あら。あなたは」

 クロエさんは扉を開けたユリアを見て呟いたので、私は彼女らに近付いた。

「クロエさん、こちらわたくしの侍女、ユリア・ラドロです」
「ユリア・ラドロと申します。ご指導よろしくお願いいたします」

 私が紹介するとユリア自身もすぐに挨拶を続ける。

「ああ。聞いているわ。ユリアさんね。こちらこそよろしくね。王宮での生活は勝手が違って覚えることがたくさんあると思いますけど、わたくしも補助いたしますので、頑張りましょうね」
「はい。よろしくお願いいたします」

 クロエさんはお母様以上に厳しいから覚悟しておいてねと、こそこそ小声でユリアに伝える。

「ロザンヌ様。何かおっしゃいまして?」

 にっこり笑うクロエさんに私は慌てて何でもないですと笑って誤魔化した。

「それではまず、ロザンヌ様のお荷物の整理をお手伝いいたしますわ」
「いえ。大丈夫です。もう終わりました」
「あら、もう!? 早いわね」

 ユリアは話しながらも手を動かしていたようだ。

「元々持ってきた荷物もあまり多くはなかったものですから」

 私はユリアの言葉を継いで伝える。

「そうですか。ではユリアさんにはこれから従事していただく場所を案内しましょう。使用人のお部屋とね」
「え!? このお部屋で一緒にというのは駄目ですか? こんなに広いお部屋ですし、ユリアも一緒に」

 私がそう提案すると、クロエさんは少し困った表情を浮かべた。

「ユリアさんはロザンヌ様付きとしましても、普通の侍女としてのお仕事もしていただきますので、使用人のお部屋を使っていただく方がよろしいかと」

 そっか。さっきも思ったけど、ユリアは他の使用人の人たちと接する機会が多いから特別扱いされない方がいいのね。
 私がユリアを見ると、彼女は真面目な顔をして頷いた。

「雷の夜はお駆けつけいたしますので」
「し、失礼ね! 雷なんて怖くないわ! ひ、一人で眠れるんだからね!」
「ロザンヌ様がおっしゃるのなら、そうなのでしょう。ロザンヌ様の中ではね」
「あのねー!」

 しらっとした表情でユリアに言われて憤るが、私たちのやり取りがおかしかったらしい。横でクロエさんが、お二人仲がよろしいのねとくすくすと笑った。
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