33 / 315
第33話 吸引力の変わらない殿下
しおりを挟む
バルド副大臣が話を終えて退席するや否や、殿下はソファーの背に身を任せて息をついた。
もしかして憑かれたかな。
「殿下。お身体はいかがですか? 取り憑かれませんでしたか」
私は殿下に近付いてお声がけする。
「いや。憑かれた。頼む」
今日も私が戻ってくるまでに憑かれて祓ったばかりなのに、また憑かれるとは。本当に吸引力の変わらない人だな。
「はい。かしこまりました。どうぞ」
立ったままでは失礼かと思い、私は身を屈めて姿勢を低くすると殿下へと手を伸ばした。
殿下はすぐに私の手を取って目を伏せるので、集中しているのかなと私も黙ったままじっとしている。
ああ。まったくもって暇です。可視化されるといいのに。――いや、おどろおどろしいものは見たくないのに、影祓いだけ見たいなんて都合が良すぎるかもしれない。
などと呑気な事を考えると、急にばっと手を離された。
だから振り払うようなその離し方を止めなさーい。失礼ですよ!
その思いが顔に出ていたのか、殿下は悪いと少し笑った。
「殿下は以前、影祓いの時は光になって空に溶け込むとおっしゃっていましたよね。目を開けていれば祓えた瞬間が確認できるのではないのですか」
「確かにそうだが、強い光のせいで眩しくてな。つい目を伏せてしまう」
集中していたからではなく、単に眩しいから目を伏せていたのね。そう言えばあの時、目を細めていたような。
「では、目の前に光を感じたら手を離してはいかがですか?」
「その場合は完全に祓えたか分からないからな。結局のところは手の感覚の方が確かだ」
「手の感覚ってどんな感じですか?」
「びりっと手が痺れるような痛みだ。そのまま触れたままにすると、脱力感が襲ってくる」
弾かれたように手を離すのはそういうことね。私だって同じ立場なら、痛いのは嫌だから振り払ってしまうでしょう。
「そういうことなら仕方ありません。少々不本意ですけれども、分かりました」
「悪いな」
殿下は謝った後、前のソファーに座るよう促したので、私は回って向かいのソファーに腰を下ろした。
「さっきの彼だが、彼を見て、話を聞いてどう思った?」
殿下の問いに私は拳を顎に当てて、うぅんと唸る。
「正直なところ、お話の半分も理解できませんでした」
「そうか。では、彼の印象は?」
殿下は特にがっかりはしていない。私が政治の話を理解することには、期待していないからだろう。むしろ理解できない方がありがたいと考えているかもしれない。
「そうですね。何と言いますか。言葉の端々に野心みたいなものが見え隠れしている。そんな印象を受けました」
「そうだな。彼みたいなタイプに影は取り憑きやすい」
「ですが、殿下は今、副大臣からの影を引き寄せてしまわれたのですよね。あのお方は体形はがっしりとされていましたし、体調も悪いようには見えませんでしたよ」
欲深そう(失礼)だったから取り憑きそうなのは分かるけれども、影が取り憑くと体調が悪くなるのではなかったか。
「取り憑かれるとすぐに体調を崩すわけではない。生きている人間にも抵抗力があるからな。ただ元々弱っている人間には急速に悪化させることがある。それに影が人間の悪意や欲望と共鳴する場合、人間側もより精力的になったりすることがあるようだ」
「精力的に?」
「ああ。これはあくまでも私の推論だが、影は人間のエネルギーを奪い取って自身の力を増そうとするタイプと、影が取り憑いた人物を使って欲望、無念を果たそうとするタイプがあるのかもしれない」
私は思わずへぇと感心の息を吐いた。
「影も奥深いのですね」
「そうだな。まだまだ分からない事がある。一度離れたからと言って、二度と憑かないということもないしな。さっきの副大臣もまたどこかでもらってくることだろう」
殿下は私とは違う意味で息を吐く。
権力を持つ殿下の周りの人間は、常日頃からそういう人間で溢れかえっているのだろうか。それに加えて取り憑かれやすい体質ときている。だとしたらこれは本当に大変そうだ。
憎まれ口ばかり叩かないで、殿下を労ってあげてもいいかもしれない。
ほんの少しだけ、同情してみた。
もしかして憑かれたかな。
「殿下。お身体はいかがですか? 取り憑かれませんでしたか」
私は殿下に近付いてお声がけする。
「いや。憑かれた。頼む」
今日も私が戻ってくるまでに憑かれて祓ったばかりなのに、また憑かれるとは。本当に吸引力の変わらない人だな。
「はい。かしこまりました。どうぞ」
立ったままでは失礼かと思い、私は身を屈めて姿勢を低くすると殿下へと手を伸ばした。
殿下はすぐに私の手を取って目を伏せるので、集中しているのかなと私も黙ったままじっとしている。
ああ。まったくもって暇です。可視化されるといいのに。――いや、おどろおどろしいものは見たくないのに、影祓いだけ見たいなんて都合が良すぎるかもしれない。
などと呑気な事を考えると、急にばっと手を離された。
だから振り払うようなその離し方を止めなさーい。失礼ですよ!
その思いが顔に出ていたのか、殿下は悪いと少し笑った。
「殿下は以前、影祓いの時は光になって空に溶け込むとおっしゃっていましたよね。目を開けていれば祓えた瞬間が確認できるのではないのですか」
「確かにそうだが、強い光のせいで眩しくてな。つい目を伏せてしまう」
集中していたからではなく、単に眩しいから目を伏せていたのね。そう言えばあの時、目を細めていたような。
「では、目の前に光を感じたら手を離してはいかがですか?」
「その場合は完全に祓えたか分からないからな。結局のところは手の感覚の方が確かだ」
「手の感覚ってどんな感じですか?」
「びりっと手が痺れるような痛みだ。そのまま触れたままにすると、脱力感が襲ってくる」
弾かれたように手を離すのはそういうことね。私だって同じ立場なら、痛いのは嫌だから振り払ってしまうでしょう。
「そういうことなら仕方ありません。少々不本意ですけれども、分かりました」
「悪いな」
殿下は謝った後、前のソファーに座るよう促したので、私は回って向かいのソファーに腰を下ろした。
「さっきの彼だが、彼を見て、話を聞いてどう思った?」
殿下の問いに私は拳を顎に当てて、うぅんと唸る。
「正直なところ、お話の半分も理解できませんでした」
「そうか。では、彼の印象は?」
殿下は特にがっかりはしていない。私が政治の話を理解することには、期待していないからだろう。むしろ理解できない方がありがたいと考えているかもしれない。
「そうですね。何と言いますか。言葉の端々に野心みたいなものが見え隠れしている。そんな印象を受けました」
「そうだな。彼みたいなタイプに影は取り憑きやすい」
「ですが、殿下は今、副大臣からの影を引き寄せてしまわれたのですよね。あのお方は体形はがっしりとされていましたし、体調も悪いようには見えませんでしたよ」
欲深そう(失礼)だったから取り憑きそうなのは分かるけれども、影が取り憑くと体調が悪くなるのではなかったか。
「取り憑かれるとすぐに体調を崩すわけではない。生きている人間にも抵抗力があるからな。ただ元々弱っている人間には急速に悪化させることがある。それに影が人間の悪意や欲望と共鳴する場合、人間側もより精力的になったりすることがあるようだ」
「精力的に?」
「ああ。これはあくまでも私の推論だが、影は人間のエネルギーを奪い取って自身の力を増そうとするタイプと、影が取り憑いた人物を使って欲望、無念を果たそうとするタイプがあるのかもしれない」
私は思わずへぇと感心の息を吐いた。
「影も奥深いのですね」
「そうだな。まだまだ分からない事がある。一度離れたからと言って、二度と憑かないということもないしな。さっきの副大臣もまたどこかでもらってくることだろう」
殿下は私とは違う意味で息を吐く。
権力を持つ殿下の周りの人間は、常日頃からそういう人間で溢れかえっているのだろうか。それに加えて取り憑かれやすい体質ときている。だとしたらこれは本当に大変そうだ。
憎まれ口ばかり叩かないで、殿下を労ってあげてもいいかもしれない。
ほんの少しだけ、同情してみた。
64
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる