つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
71 / 315

第71話 はいの威力

しおりを挟む
「あ、えっと」

 ジェラルドさんは私の話を受けて、また戸惑ったように笑い、ユリアを見る。

「ユリアさんが体を鍛えたいのでしょうか」
「はい」
「なぜ体を鍛えたいのでしょうか」
「最近、体が鈍ってきたからです」
「あ。そ、そうですか」

 ユリアは淡々と答えているけれど、恐らくジェラルドさんが聞きたいことはそういう答えではない。ないけれど、ユリアに翻弄されているジェラルドさんが何だか可愛らしいので口出しせずにそのまま様子見をする。

「騎士たちの鍛錬場は私の許可で一部をお貸しすることは可能なのですが、騎士たちは威勢のいい荒くれ者も多いのです。女性には少々威圧感があって、お見苦しいかもしれません」
「はい」
「え? えっと。そうですね。何と言ったらいいのかな」

 ユリア! はい、じゃない。はいじゃ!
 だから止めた方がいいと遠回しにおっしゃってくれているんでしょう。ほら、見てよ。ますます困っているジェラルドさんを!
 私は笑いをこらえるのに必死だ。

 ユリアが小首を傾げつつ黙ってジェラルドさんを見ているので、彼はごほんと咳払いした。

「そ、それではですね、ユリアさんはどんな事をしたいのですか?」
「騎士の方々はどのような鍛錬をなさっているのですか」

 質問を質問で返すユリア。

「例えば王城周りの走り込み、室内での腹筋、背筋などの基礎体力作りを始め、木剣の素振り、体術、剣術の練習、手合わせなどでしょうか」

 やばい。ユリアの目に光が灯った。余計に興味を持ってしまったようですよ。

「では、それに参加させていただきたく思います」
「普段の練習メニューですと、王城周り十周とか、腹筋、背筋、何百回と少々ハードですので、ユリアさんの場合は少し数を減らしたメニューを考えましょうか」

 ジェラルドさんがご親切にも提案してくださる。――が。

「いえ。同じメニューで構いません。女が単身乗り込んで、横で軽いメニューなどをこなしていたら不愉快に思われるでしょうから」
「し、しかし。女性にとってあまりにも厳しいかと思います。私は本日、エルベルト殿下の護衛に当たりますので、ユリアさんに何かあった時にすぐに対応できませんし」

 いや、ユリアならできるかもしれないけれど、仮にできたらできたで、女性が男性と同じメニューをこなしている方が不愉快に思われるのでは……?

 敵は増やすべきではない。
 私もさすがにユリアを止めにかかる。

「そうよ。ジェラルド様のおっしゃる通りよ。それに鈍っていた体にいきなり鞭を打っては駄目よ多分きっと絶対駄目」
「大丈夫です。無理だと思ったら止めます」

 嘘だ。止めないでしょう。ユリアは頑固者ですからね!

「じゃあ。ジェラルド様が鍛練場にいらっしゃる時に始めることにして、今日は見学だけさせていただいたら?」
「使用許可だけ頂けたら、あとは一人で大丈夫です。自己責任で行いますからお気遣いなく」

 ああ、やっぱり頑固だ。誰に似たのか。
 私は頭を抱えたくなった。

「あのね、ユリア。あなたがお気遣いなくと言ってもね、周りはお気遣う・・・・に決まっているでしょう」

 私がユリアをたしなめていると、今まで黙っていた殿下が口を開いた。

「ジェラルド。私は王宮散策するだけだから、今日の君の任務は解くことにする。彼女に付いてやってくれ」
「え? ですが」
「私の方は大丈夫だ。ロザンヌ嬢がいるし」

 ジェラルドさんからしたら、どういうことだってばよ、というお話だろう。殿下の身を守るのがジェラルドさんではなく、私で大丈夫というのだから。私としても荷が重いです。

「あの。殿下にそこまでしていただかなくても」
「はい。次の機会にさせていただきます。ご迷惑をおかけしました」

 さすがに殿下の護衛の任務を解いてまで、自分の我を押し通すことはできなかったのだろう。ユリアも続いて謝罪した。

「いや、問題ない。君としても私に巻き込まれた側だからな。できるだけ君たちの希望に沿いたいと思っている。だからジェラルド、君は彼女に付いてくれ」

 ジェラルドさんは一瞬迷ったようだけれども、殿下の命だと思い直されたのか、承知いたしましたと答える。

 本当にいいのかしら。
 言っておきますけど、刺客とか現れた時は我先に逃げさせていただきますからねー。
 と思いつつ。

「殿下、ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 私とユリアは殿下に礼を取った。そして私はジェラルドさんの方に視線を向ける。

「ジェラルド様。多大なるご迷惑をおかけするかもしれませんが、何とぞ。何とぞ! ユリアのこと、よろしくお願い申し上げます」
「はい。承知いたしました」

 力拳を作る私にジェラルドさんは笑みで応えてくれた。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...