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第78話 書庫室への入室条件
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先ほどの扉を通って入ると辺り一面、書物だらけの棚で占められている光景が目に飛び込んで来る。
「うわぁ……」
私は感嘆の声を上げた。
書物に興味がある人は、その蔵書数に感嘆の声を上げるのだろうが、私は単純に室内の広さと歴史を感じさせるような本棚の色合いや装飾、年代物の書物の背表紙に感動している。さらに視線を動かすと、部屋の一画にはテーブルと椅子が配置されているのが見えた。
それにしても何だろう、この匂い。
「この部屋の匂いは本の匂いなのですか?」
古い本独特の匂いだけじゃない、何か別の匂いが混じっているような。それとも本の匂いとはこんなものだっただろうか。私の人生において、図書館というものとはほとんど縁が無いので私の単なる覚え間違いかもしれない。
「それは羊皮紙製の書物があるからだろう。紙製は寿命が短いから長期保管に適さず、公文書や歴史書、文献は羊皮紙が使われていることが多い。この部屋は特にそういう書物ばかりだからな」
「そうだったのですか。わたくし、お恥ずかしながら王立図書館に初めて入りましたもので、全く存じませんでした。それにとても広いのですね。さすがは王立図書館です」
殿下へと振り返ってそう言うと、なぜか殿下は眉をひそめた。
「そこまで広くもないと思うが。それにここは王立図書館ではない」
「え? ん?」
では、ここはどこ? 私は誰?
「王立図書館は王宮に隣接していて一般人にも開放されている。ここの十倍以上の大きさはあるな」
「ええっ!? ――ああ、そう言えば。学校の授業で王立図書館が王宮近くにあると、どこか上の空で聞いたことがあるのですが、そんなに大きいとは初耳です」
「いや。授業中、上の空で聞いているのはどうなんだ……」
呆れたような視線を送ってくる殿下。
その視線が結構痛いです。
「あ。考えてみますと今は宮廷から外に出ていませんでしたし、そもそもここは王族専用書庫室でしたね」
私はごほんと咳払いして話を濁すと、殿下は一つため息をついた。
「ここは王族専用の書庫室と言ったが、正確には王族とごく一部の関係者だ」
「ごく一部の関係者ですか?」
「ああ。呪術師一族、つまりベルモンテ侯爵家の人間だ。ここは呪いを解くことができるかもしれない歴史資料や文献が保管されているからな。ただし門外不出の書物ばかりなので、王族の人間でもこの部屋から持ち出すことは禁じられている」
他にも入るのに条件が色々あるとのこと。まず王族関係者でも一度に三人までの同伴までが可。ベルモンテ侯爵家は前もって予定を伝えた上で、一人のみ入室許可が下りるらしい。そして誰かが入室している場合、たとえ王族と言えども入室することができない。
要するに、先に入室した者が貸し切り状態にできるとのことだ。ただし時間制限はある。
「デレクは元騎士なんだ」
「え?」
「書物をこっそりと持ち出そうとする人間がいないか、目を光らせている」
なるほど。デレクさんの体つきががっしりしているのは、不届き者を見張るために退役騎士様を採用しているからなのね。もちろん日々の管理もなさっているのだろうけれども。
「さっきの扉も、本を持ち出して勢いよく飛び出して行かないように設置されているものだ」
確かに出入りするのに何となく一手間かかるなとは思っていたけれど、そういう理由だったとは。
「王族の方でも部屋から持ち出すことができないだなんて、厳しいのですね」
「黒歴史も書かれている書物があるせいだろうな。何かの拍子にそれが表に出ては、王家の信頼が失墜するからだ。特に昔は王位争いが激しい時代があり、王族同士で足の引っ張り合いもあったのだろう」
この国の過去の黒歴史が漏れて失墜するような王家ならば、最初からその王政では駄目ということでは。
「相変わらず君は手厳しいな」
殿下は苦笑いするので、私は手の平で口を押さえるポーズを取る。
「あ。うっかり口に出していましたか。失礼いたしました」
「いや。普通にわざとだろ……。まあ、でも君の言うことは間違っていないか」
そうでしょう。そうでしょうとも。今の治世に皆が満足しているのならば、過去に自分たちの国に黒歴史があっても王家に対して反乱など起こさないだろうから。
「それで、その黒歴史書はどの辺りでしょうか!? ええ、ええ! 大丈夫ですとも。わたくしは今の王家に心より、それはもう心の奥底より忠誠を誓っておりますので!」
目をキラキラさせてお尋ねすると殿下は頭が痛そうに額を押さえ、特大のため息を落とした。
「しまった。私は人生において一番大事な、人を見る目がなかったらしい。どうやら信用できない人間を招き入れてしまったようだな」
失礼ですね!
「うわぁ……」
私は感嘆の声を上げた。
書物に興味がある人は、その蔵書数に感嘆の声を上げるのだろうが、私は単純に室内の広さと歴史を感じさせるような本棚の色合いや装飾、年代物の書物の背表紙に感動している。さらに視線を動かすと、部屋の一画にはテーブルと椅子が配置されているのが見えた。
それにしても何だろう、この匂い。
「この部屋の匂いは本の匂いなのですか?」
古い本独特の匂いだけじゃない、何か別の匂いが混じっているような。それとも本の匂いとはこんなものだっただろうか。私の人生において、図書館というものとはほとんど縁が無いので私の単なる覚え間違いかもしれない。
「それは羊皮紙製の書物があるからだろう。紙製は寿命が短いから長期保管に適さず、公文書や歴史書、文献は羊皮紙が使われていることが多い。この部屋は特にそういう書物ばかりだからな」
「そうだったのですか。わたくし、お恥ずかしながら王立図書館に初めて入りましたもので、全く存じませんでした。それにとても広いのですね。さすがは王立図書館です」
殿下へと振り返ってそう言うと、なぜか殿下は眉をひそめた。
「そこまで広くもないと思うが。それにここは王立図書館ではない」
「え? ん?」
では、ここはどこ? 私は誰?
「王立図書館は王宮に隣接していて一般人にも開放されている。ここの十倍以上の大きさはあるな」
「ええっ!? ――ああ、そう言えば。学校の授業で王立図書館が王宮近くにあると、どこか上の空で聞いたことがあるのですが、そんなに大きいとは初耳です」
「いや。授業中、上の空で聞いているのはどうなんだ……」
呆れたような視線を送ってくる殿下。
その視線が結構痛いです。
「あ。考えてみますと今は宮廷から外に出ていませんでしたし、そもそもここは王族専用書庫室でしたね」
私はごほんと咳払いして話を濁すと、殿下は一つため息をついた。
「ここは王族専用の書庫室と言ったが、正確には王族とごく一部の関係者だ」
「ごく一部の関係者ですか?」
「ああ。呪術師一族、つまりベルモンテ侯爵家の人間だ。ここは呪いを解くことができるかもしれない歴史資料や文献が保管されているからな。ただし門外不出の書物ばかりなので、王族の人間でもこの部屋から持ち出すことは禁じられている」
他にも入るのに条件が色々あるとのこと。まず王族関係者でも一度に三人までの同伴までが可。ベルモンテ侯爵家は前もって予定を伝えた上で、一人のみ入室許可が下りるらしい。そして誰かが入室している場合、たとえ王族と言えども入室することができない。
要するに、先に入室した者が貸し切り状態にできるとのことだ。ただし時間制限はある。
「デレクは元騎士なんだ」
「え?」
「書物をこっそりと持ち出そうとする人間がいないか、目を光らせている」
なるほど。デレクさんの体つきががっしりしているのは、不届き者を見張るために退役騎士様を採用しているからなのね。もちろん日々の管理もなさっているのだろうけれども。
「さっきの扉も、本を持ち出して勢いよく飛び出して行かないように設置されているものだ」
確かに出入りするのに何となく一手間かかるなとは思っていたけれど、そういう理由だったとは。
「王族の方でも部屋から持ち出すことができないだなんて、厳しいのですね」
「黒歴史も書かれている書物があるせいだろうな。何かの拍子にそれが表に出ては、王家の信頼が失墜するからだ。特に昔は王位争いが激しい時代があり、王族同士で足の引っ張り合いもあったのだろう」
この国の過去の黒歴史が漏れて失墜するような王家ならば、最初からその王政では駄目ということでは。
「相変わらず君は手厳しいな」
殿下は苦笑いするので、私は手の平で口を押さえるポーズを取る。
「あ。うっかり口に出していましたか。失礼いたしました」
「いや。普通にわざとだろ……。まあ、でも君の言うことは間違っていないか」
そうでしょう。そうでしょうとも。今の治世に皆が満足しているのならば、過去に自分たちの国に黒歴史があっても王家に対して反乱など起こさないだろうから。
「それで、その黒歴史書はどの辺りでしょうか!? ええ、ええ! 大丈夫ですとも。わたくしは今の王家に心より、それはもう心の奥底より忠誠を誓っておりますので!」
目をキラキラさせてお尋ねすると殿下は頭が痛そうに額を押さえ、特大のため息を落とした。
「しまった。私は人生において一番大事な、人を見る目がなかったらしい。どうやら信用できない人間を招き入れてしまったようだな」
失礼ですね!
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