つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
100 / 315

第100話 謎が増えていく

しおりを挟む
「ね、眠ろうとしていたわけではありません。目を伏せて考えをまとめようとしまして」

 眠りかけていた私だったけれど、ちゃんと言い訳してみた。

「で。まとまったか?」

 殿下は即座に答えを求めてくる困ったお方だ。
 私は笑って誤魔化しながら話してみる。

「ええっと。そういえば、過去にネロのような影祓いする存在はありましたか?」
「いや。調べた範囲では無かったな。だからこそ君の存在に驚いたわけだが」
「そうですか」

 これまでの王族がそういった人物に出会っていなかっただけなのか。そもそも存在しなかったのか。

「でしたら、これまでの王族の方は大変でしたでしょうね。呪術師様による影祓いはつらいと殿下はおっしゃっておりましたし」
「そうだな。自分である程度避けるにしても、どうしても近距離で接触しなければならない時は取り憑かれてしまうからな」

 ある程度避ける、避けるかぁ……。影が見られることも一概に悪いわけではな――あれ。

「殿下、影を見慣れたとおっしゃっていましたね」
「ああ。それが?」
「恐怖で精神がおかしくなったりはしないのですか?」
「……ご覧の通りだが?」

 おかしく見えるかと殿下は手を広げて笑ってみせる。

「失礼いたしました。では、過去にそういう方はいらっしゃいましたか?」
「精神が崩壊した人間か? いや、そんな記録は無いな。肉体が病に侵されて精神を病んだ者はいるようだが、恐怖でということはない。皆、幼少期からで慣れてしまっているのだろう。私も幼い頃は怖かったが、今じゃ慣れた」

 まあ、ネロは驚いたがと殿下は気まずそうに付け加えた。
 私もいつもなら突っ込むところを本日は突っ込まない。今浮かんできた考えをまとめることに必死だからだ。

「そうですか。だとしたら呪う対象者が慣れてしまっては、復讐にはならないのでは?」
「何が言いたい?」

 私の真剣な様子に殿下もまた眉をひそめた。

「呪われた者の共通点として、皆一様に影が見えるのですよね。おそらくこの能力も呪いと共に引き継いでいるのでしょう。ですが、ルイス王太子殿下の恋人であった魔術師様は、果たして呪いの中に影を見せる能力を付加させる必要があったのでしょうか」

 原因不明の病として発症させる方が、余程恐ろしいのではないだろうか。

「確かにそうだが、彼女の呪いだと思い知らせるためにそうしたのでは?」

 ああ、そっか。なるほど。少々考えが先走りしすぎていたかな。でも一応考えを伝えよう。

「そうですね。そういう考えもありましたね。しかし、その視覚能力で原因が影によるものだと判明した場合、その影を避けるよう行動することができてしまいます。それだと――あ! そ、そうだわ」

 今、急激にふっとある考えが思いつき、私は自分の左手首内側を指してみせる。

「呪いだと分からせるためなら、殿下もお持ちの星紋だけでも十分では?」

 星紋のことは殿下から聞いたではないか。確かこれも共通点だったはず。

「……そうだな。呪いを受けた者に共通している点ではある」
「でしょう! 前回でも書物の絵を指してわたくしにおっしゃったではありませんか」

 もちろん影が見えることありきで調べていく内に、呪いを掛けられた者には星紋が出るというところに辿り着いた事実も否定はできないけれども。

「だとしたらなぜ彼女は呪いに影が見える能力を付加した?」
「それはですね」

 私は生唾をごくんと飲み込んだ。

「それは?」
「それは……」

 真剣な表情の殿下に、私もまた硬い表情を作ってみせる。

「それは――わ」
「分かりません、だな?」
「……ええ。その通りです。分かりません。申し訳ございません」

 諦めてしおらしく謝ると殿下は笑った。

「いや。これまで何年も何百年も関わってきた私たち王族ですら分からなかったことだ。君に答えを求めるのは間違っている」

 私は気が抜けたようにため息を吐く。

「わたくしが謎を解こうと関われば関わるほど、かえって増えていきますね」

 それとも私が勝手に難しくしているだけで、この事実を事実として受け入れるべきなのだろうか。

「確かに謎は増える一方だ。しかし客観的な目が入ることで、物の見方が変わるのはいいことだと思う」
「ありがとうございます、殿下」
「いや。こちらこそありがとう。――とにかく疲れたし、今日はここまでにしよう」

 というわけで、本日はこれにてお開きとなった。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...