103 / 315
第103話 最強なのは
しおりを挟む
「はぁぁぁ。良かった。ユリア勝った……」
胸がドキドキして破れるかと思った。
一つ息をつくと緊張から解放され、体からは力が抜けて崩れかけた。
殿下は咄嗟に手を伸ばそうとしてくださったけれども、瞬く間に手を引っ込める。
「悪いが触れられない。自立してくれ」
現実的な殿下のお言葉に目が覚めて、私はしゃんと体を立たせた。
「もちろんです。わたくしは大丈夫ですとも!」
「そ、そうか。ともかく良かったな」
しらっとした私の目に殿下は言葉で取り繕う。
仕方なく、はいと頷こうとした時。
「ま、待て!」
焦ったような男性の叫び声が聞こえてきて視線を鍛錬場へと戻す。
「い、今のは少し油断しただけだ。もう一度だ! もう一度俺と戦え!」
アラン騎士がユリアに指をびしりと突きつけているのが見えた。周りもそんな彼を煽るような声と野次る声、咎める声で溢れている。
ユリアと言えば当然、彼を黙って見ているだけだ。
「ま、負けたくせに言い訳して往生際が悪いわ!」
私はまだ組んでいた手をぎゅっと握りしめる。
「どうする。止めに入るか?」
「ええ、もちろ――」
殿下に問われて答えようとしたけれど、ユリアはジェラルドさんに振り返る。再戦する気でいるようだ。お伺いを立てている。すると彼から渋々了解を得たらしい。
ユリアは身を屈め、アラン騎士の手から落ちた木剣を取ると彼に投げ寄越した。
「ユリアはやる気みたいです……。それならばわたくしは彼女の意志に任せます」
「分かった」
頷く殿下を確認して、ユリアに視線を送った。
すでに二人はまた剣を手に対峙している。両隣で行われていた試合も気づけば中断しており、二人に注目していた。
「始め!」
審判が声をかけるが、アラン騎士は先ほどの試合で警戒したのか、隙を突こうと考えているのか、じりじりと動くだけで踏み込んで来ようとしない。同様にユリアも彼に合わせてわずかに移動するだけで、両者睨み合ったままだ。
二人の気迫が伝わるのだろう。周りは野次の声や応援の声すらなく、ただ固唾を呑んで見守っているばかりだ。
最初に動いたのはユリアだった。一息に距離を詰めると剣を振り下げた。しかし女性の力はやはり軽いのだろう。易々と受け止められて剣を押し下げられる。
身を崩して隙ができてしまった瞬間、アラン騎士はにっと笑ってユリアに剣を振りかぶった。
振り下ろされる!
――と思った瞬間。
ユリアは上へと斜めに構えた剣でアラン騎士の剣を受け流した。すると今度は彼に隙ができ、ユリアは上げていた剣を切り返すとそのまま振り下ろして切っ先を彼に突きつけた。
ぶれることのない剣先だ。
「そ、そこま――」
審判がユリアの勝利を告げようとした瞬間、アラン騎士は彼女に向かって足蹴りを仕掛ける。――が、一瞬早く気付いたユリアは後ろへと飛び下がり、すんででかわした。
「アラン、いいぞ!」
「やれやれーっ!」
「いや。あれはないだろ!」
「ちょっと!? 何あれ!」
「酷ーい!」
「男らしくなくないっ!?」
アラン騎士に声援を送る同僚、呆れた同僚や苛立った女性の声を交えて辺りがざわめく。
私は振り返って殿下を見る。
「殿下、あれは!」
「実践だと許される行為だな。騎士の職務とは命がけなのだから」
きっと睨み付けると、殿下は咳払いした。
「まあ、剣の試合という意味では良くはないだろう」
「当たり前です! ユリアは、彼女はそんな……あー」
再び視線を変えてユリアを見ると、私は引きつり笑いをした。
試合を止めようとするジェラルドさんを、腕一本伸ばして制止している。
ユリアのあの顔……少々苛立っていますね。彼女は怒れば怒るほど表情が無くなっていくので、周りには気付かれないだろうけれども。
さしずめ、こっちが下手に出ていたらつけ上がって、というところだろうか。
ユリアは体勢を立て直して足を一歩踏み込むと、空気を冷たく切り裂く音を立てながら前後左右と剣を巧みに回し、最後はアラン騎士に向かって真顔で突きつけた。
そのパフォーマンスに観衆は沸き、アラン騎士は少し怯んだようだけれど、すぐに余裕の笑みを浮かべて、かかって来いよと仕草を見せる。
お望み通りとばかりに間を置かずにユリアは地を蹴ると、バンッと叩きつけるような音だけ残して一瞬のうちに身を屈めた状態で彼の背後に回っていた。
何が起こったのか分からず誰もが沈黙し、近くにいるはずの審判までが茫然としていると、ジェラルドさんが立ち上がる。
「そこまで。ユリア・ラドロさんの勝利です」
ジェラルドさんが宣言するや、アラン騎士は軽い音を立てて剣を落とした後、自らはぐらりと体を崩してばたりと倒れた。
「うーん。これは自力では立てそうにありませんね。君たち、彼を医務室に。胴に強い一撃入りました」
「は、はい!? はいっ!」
動揺もせず冷静な判断をして、テキパキと的確に指示をするジェラルドさんこそ最強なのだと悟った。
胸がドキドキして破れるかと思った。
一つ息をつくと緊張から解放され、体からは力が抜けて崩れかけた。
殿下は咄嗟に手を伸ばそうとしてくださったけれども、瞬く間に手を引っ込める。
「悪いが触れられない。自立してくれ」
現実的な殿下のお言葉に目が覚めて、私はしゃんと体を立たせた。
「もちろんです。わたくしは大丈夫ですとも!」
「そ、そうか。ともかく良かったな」
しらっとした私の目に殿下は言葉で取り繕う。
仕方なく、はいと頷こうとした時。
「ま、待て!」
焦ったような男性の叫び声が聞こえてきて視線を鍛錬場へと戻す。
「い、今のは少し油断しただけだ。もう一度だ! もう一度俺と戦え!」
アラン騎士がユリアに指をびしりと突きつけているのが見えた。周りもそんな彼を煽るような声と野次る声、咎める声で溢れている。
ユリアと言えば当然、彼を黙って見ているだけだ。
「ま、負けたくせに言い訳して往生際が悪いわ!」
私はまだ組んでいた手をぎゅっと握りしめる。
「どうする。止めに入るか?」
「ええ、もちろ――」
殿下に問われて答えようとしたけれど、ユリアはジェラルドさんに振り返る。再戦する気でいるようだ。お伺いを立てている。すると彼から渋々了解を得たらしい。
ユリアは身を屈め、アラン騎士の手から落ちた木剣を取ると彼に投げ寄越した。
「ユリアはやる気みたいです……。それならばわたくしは彼女の意志に任せます」
「分かった」
頷く殿下を確認して、ユリアに視線を送った。
すでに二人はまた剣を手に対峙している。両隣で行われていた試合も気づけば中断しており、二人に注目していた。
「始め!」
審判が声をかけるが、アラン騎士は先ほどの試合で警戒したのか、隙を突こうと考えているのか、じりじりと動くだけで踏み込んで来ようとしない。同様にユリアも彼に合わせてわずかに移動するだけで、両者睨み合ったままだ。
二人の気迫が伝わるのだろう。周りは野次の声や応援の声すらなく、ただ固唾を呑んで見守っているばかりだ。
最初に動いたのはユリアだった。一息に距離を詰めると剣を振り下げた。しかし女性の力はやはり軽いのだろう。易々と受け止められて剣を押し下げられる。
身を崩して隙ができてしまった瞬間、アラン騎士はにっと笑ってユリアに剣を振りかぶった。
振り下ろされる!
――と思った瞬間。
ユリアは上へと斜めに構えた剣でアラン騎士の剣を受け流した。すると今度は彼に隙ができ、ユリアは上げていた剣を切り返すとそのまま振り下ろして切っ先を彼に突きつけた。
ぶれることのない剣先だ。
「そ、そこま――」
審判がユリアの勝利を告げようとした瞬間、アラン騎士は彼女に向かって足蹴りを仕掛ける。――が、一瞬早く気付いたユリアは後ろへと飛び下がり、すんででかわした。
「アラン、いいぞ!」
「やれやれーっ!」
「いや。あれはないだろ!」
「ちょっと!? 何あれ!」
「酷ーい!」
「男らしくなくないっ!?」
アラン騎士に声援を送る同僚、呆れた同僚や苛立った女性の声を交えて辺りがざわめく。
私は振り返って殿下を見る。
「殿下、あれは!」
「実践だと許される行為だな。騎士の職務とは命がけなのだから」
きっと睨み付けると、殿下は咳払いした。
「まあ、剣の試合という意味では良くはないだろう」
「当たり前です! ユリアは、彼女はそんな……あー」
再び視線を変えてユリアを見ると、私は引きつり笑いをした。
試合を止めようとするジェラルドさんを、腕一本伸ばして制止している。
ユリアのあの顔……少々苛立っていますね。彼女は怒れば怒るほど表情が無くなっていくので、周りには気付かれないだろうけれども。
さしずめ、こっちが下手に出ていたらつけ上がって、というところだろうか。
ユリアは体勢を立て直して足を一歩踏み込むと、空気を冷たく切り裂く音を立てながら前後左右と剣を巧みに回し、最後はアラン騎士に向かって真顔で突きつけた。
そのパフォーマンスに観衆は沸き、アラン騎士は少し怯んだようだけれど、すぐに余裕の笑みを浮かべて、かかって来いよと仕草を見せる。
お望み通りとばかりに間を置かずにユリアは地を蹴ると、バンッと叩きつけるような音だけ残して一瞬のうちに身を屈めた状態で彼の背後に回っていた。
何が起こったのか分からず誰もが沈黙し、近くにいるはずの審判までが茫然としていると、ジェラルドさんが立ち上がる。
「そこまで。ユリア・ラドロさんの勝利です」
ジェラルドさんが宣言するや、アラン騎士は軽い音を立てて剣を落とした後、自らはぐらりと体を崩してばたりと倒れた。
「うーん。これは自力では立てそうにありませんね。君たち、彼を医務室に。胴に強い一撃入りました」
「は、はい!? はいっ!」
動揺もせず冷静な判断をして、テキパキと的確に指示をするジェラルドさんこそ最強なのだと悟った。
35
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる