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第108話 あなたにエールを
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「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
送迎の馬車前でジェラルドさんがいつものように待ってくださっていた。
「おはようございます、ジェラルド様」
「おはようございます」
今朝、学校に行く前に一応、殿下の部屋にもご挨拶に訪れてみたけれど、本日は既に姿がなかった。もう執務室に向かっていたようだ。部屋にいなければそのまま行って良いと言われていたので、そのお言葉に甘えてご挨拶もせずに出てきた。でも、やはり気になる。
「あの、ジェラルド様。殿下とはお会いになりましたか。今朝はご挨拶しないままこちらに来てしまったのですが、お元気にされていましたか」
「ええ。お元気でいらっしゃいました。ロザンヌ様によろしくとおっしゃっておりました」
「そうですか」
今朝はお部屋にいなくて、正直ほっとした。昨日、あんな別れ方をしていて、今日はどういった顔を見せればいいか分からなかったから。……まあ、学校から帰ってきたらどのみち顔を合わせることにはなるけれども。
「ではロザンヌ様、参りましょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
私は今日も今日とて相変わらずジェラルドさんとユリアの手を借りて、馬車に乗り込んだ。
また同じような平凡な一日が過ぎていくのだろうと、窓から重暗い曇り空をぼんやりと見ていたところ。
「ジェラルド様、手をお貸しいただいてよろしいでしょうか」
――ん? え? い、今の声、ユリア!?
私は思わず勢いよくぐりんと首を回して振り返ると、ユリアが真顔でジェラルドさんを見つめていた。
そ、空耳?
一瞬自分の耳を疑ったけれど、ジェラルドさんも面食らった表情を浮かべているので、ユリアの言葉で間違いないようだ。
「え、ええ。もちろんです。どうぞ」
ジェラルドさんはすぐに笑顔を作って手を差し伸べると、ユリアはありがとうございますと彼の手を取って乗り込み、私の横に体を滑り込ませてくる。
私がユリアの顔を見ると、なぜか彼女はしたり顔の表情を含んでいた。
「あの、ユリア。また体の調子が悪い? 昨日鍛錬したものね」
それにしたって、自分から手を貸して欲しいと他人に頼むだなんて、前代未聞じゃないかしら。
「至って絶好調です」
「そ、そう? だったらいいけれど」
ジェラルドさんが乗り込み、向かいの席に座って合図を送ると馬車がゆっくりと動き出す。
こちらに振り返ると、ジェラルドさんは微笑みくださった。
「今朝はまだ大丈夫ですが、午後から天気が崩れてくるかもしれませんね。もしお迎えの時間に雨が降っていましたら、校舎の入り口までお迎えしますね」
「ありがとうございます」
二人で他愛ない会話をし、それがふっと途切れた時に。
「ジェラルド様」
またまたユリアからジェラルドさんに声をかけた。
「は、はい!」
ユリアからの声かけにジェラルドさんは過剰に反応した。
気持ちはまあ、分かります。今朝から変ですものね。
「昨日はありがとうございました」
「あ。い、いえ」
相変わらず淡々としているユリアに対して、ご自分でも少し過剰に反応しすぎていたことに気付かれたようで、ジェラルドさんはいつもの笑顔を取り戻す。
「お疲れではありませんか。お体に痛みなどは」
「今朝は大丈夫です」
「そうですか。良かったです」
「ありがとうございます。ジェラルド様は、お昼はいつもどこで食べておられますか」
「は、はい!?」
脈絡のない突飛なユリアの質問に、私もジェラルドさんもまた動揺する。
そこで私は、はっと気付いた。
――自分の間合いを知り、相手の間合いを知ること。すなわち総じて相手のことをよく知ることが重要なのです――
ユリアは今朝、そんな事を言っていた。まさかジェラルドさん相手に早速、実践しているとか?
な、何か違うような……。いや、間違っていないのかな? だけど、ジェラルドさんがご指導したかったのは多分、練習や試合から相手の癖や間合いを研究するように、という意味なのだと私は思うのだけれど。まあ、ユリアが人に興味を持つことはいいことかな。
それにしても、荒くれ者たちをも難なく統括するジェラルドさんがユリアに翻弄されているのが……可笑しい。騎士はどんな事態が起こっても決して動揺してはならぬものですよ、ジェラルドさん!
私は二人のやり取りを前に、笑いを堪えるのに必死だった。
「では、行って参ります」
「はい。お気を付けて」
「行ってらっしゃいませ」
私は二人に見送られて校舎へと向かう。
その際、もちろんのこと振り返ってみると、やはりユリアはジェラルドさんの手をしっかりと取っている姿が見えた。
……ジェラルドさん、頑張ってくださいね。
私はニマニマしつつ、心の中でジェラルドさんにエールを送った。
送迎の馬車前でジェラルドさんがいつものように待ってくださっていた。
「おはようございます、ジェラルド様」
「おはようございます」
今朝、学校に行く前に一応、殿下の部屋にもご挨拶に訪れてみたけれど、本日は既に姿がなかった。もう執務室に向かっていたようだ。部屋にいなければそのまま行って良いと言われていたので、そのお言葉に甘えてご挨拶もせずに出てきた。でも、やはり気になる。
「あの、ジェラルド様。殿下とはお会いになりましたか。今朝はご挨拶しないままこちらに来てしまったのですが、お元気にされていましたか」
「ええ。お元気でいらっしゃいました。ロザンヌ様によろしくとおっしゃっておりました」
「そうですか」
今朝はお部屋にいなくて、正直ほっとした。昨日、あんな別れ方をしていて、今日はどういった顔を見せればいいか分からなかったから。……まあ、学校から帰ってきたらどのみち顔を合わせることにはなるけれども。
「ではロザンヌ様、参りましょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
私は今日も今日とて相変わらずジェラルドさんとユリアの手を借りて、馬車に乗り込んだ。
また同じような平凡な一日が過ぎていくのだろうと、窓から重暗い曇り空をぼんやりと見ていたところ。
「ジェラルド様、手をお貸しいただいてよろしいでしょうか」
――ん? え? い、今の声、ユリア!?
私は思わず勢いよくぐりんと首を回して振り返ると、ユリアが真顔でジェラルドさんを見つめていた。
そ、空耳?
一瞬自分の耳を疑ったけれど、ジェラルドさんも面食らった表情を浮かべているので、ユリアの言葉で間違いないようだ。
「え、ええ。もちろんです。どうぞ」
ジェラルドさんはすぐに笑顔を作って手を差し伸べると、ユリアはありがとうございますと彼の手を取って乗り込み、私の横に体を滑り込ませてくる。
私がユリアの顔を見ると、なぜか彼女はしたり顔の表情を含んでいた。
「あの、ユリア。また体の調子が悪い? 昨日鍛錬したものね」
それにしたって、自分から手を貸して欲しいと他人に頼むだなんて、前代未聞じゃないかしら。
「至って絶好調です」
「そ、そう? だったらいいけれど」
ジェラルドさんが乗り込み、向かいの席に座って合図を送ると馬車がゆっくりと動き出す。
こちらに振り返ると、ジェラルドさんは微笑みくださった。
「今朝はまだ大丈夫ですが、午後から天気が崩れてくるかもしれませんね。もしお迎えの時間に雨が降っていましたら、校舎の入り口までお迎えしますね」
「ありがとうございます」
二人で他愛ない会話をし、それがふっと途切れた時に。
「ジェラルド様」
またまたユリアからジェラルドさんに声をかけた。
「は、はい!」
ユリアからの声かけにジェラルドさんは過剰に反応した。
気持ちはまあ、分かります。今朝から変ですものね。
「昨日はありがとうございました」
「あ。い、いえ」
相変わらず淡々としているユリアに対して、ご自分でも少し過剰に反応しすぎていたことに気付かれたようで、ジェラルドさんはいつもの笑顔を取り戻す。
「お疲れではありませんか。お体に痛みなどは」
「今朝は大丈夫です」
「そうですか。良かったです」
「ありがとうございます。ジェラルド様は、お昼はいつもどこで食べておられますか」
「は、はい!?」
脈絡のない突飛なユリアの質問に、私もジェラルドさんもまた動揺する。
そこで私は、はっと気付いた。
――自分の間合いを知り、相手の間合いを知ること。すなわち総じて相手のことをよく知ることが重要なのです――
ユリアは今朝、そんな事を言っていた。まさかジェラルドさん相手に早速、実践しているとか?
な、何か違うような……。いや、間違っていないのかな? だけど、ジェラルドさんがご指導したかったのは多分、練習や試合から相手の癖や間合いを研究するように、という意味なのだと私は思うのだけれど。まあ、ユリアが人に興味を持つことはいいことかな。
それにしても、荒くれ者たちをも難なく統括するジェラルドさんがユリアに翻弄されているのが……可笑しい。騎士はどんな事態が起こっても決して動揺してはならぬものですよ、ジェラルドさん!
私は二人のやり取りを前に、笑いを堪えるのに必死だった。
「では、行って参ります」
「はい。お気を付けて」
「行ってらっしゃいませ」
私は二人に見送られて校舎へと向かう。
その際、もちろんのこと振り返ってみると、やはりユリアはジェラルドさんの手をしっかりと取っている姿が見えた。
……ジェラルドさん、頑張ってくださいね。
私はニマニマしつつ、心の中でジェラルドさんにエールを送った。
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