つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第116話 齢十六歳の私が思うこと

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「――ヌ様」

 これからクラウディア嬢が何度ユリアに呪いをかけてこようとしたって、その度に私がこうやって影祓いしてやるんだから。私は絶対にユリアを守る。守ってみせるんだから。

 私はますます力強くユリアの手を握りしめると、突如、額にゴツンと音を立てて何かが当たった。

「痛っ、な、何!?」

 目を開けると、ユリアの顔が迫っていた。
 額がじんじんする。どうやら頭突きされたようだ。私は額に右手をやって、ユリアを睨み付ける。

「ユリア! 今、頭突きしたでしょう!」
「はい」
「はい、じゃないわよ。何するの。痛かったわ」
「そうですか。気付いて良かったです」

 文句を言ってみても、ユリアからは謝罪の言葉はない。

「気付くって?」
「もう影祓いは終了でいいそうです。何度もお呼びしたのですが、ロザンヌ様は眉間に皺を寄せてムンムンおっしゃっていましたので、聞こえなかったのでしょう。痛みを伴う呼びかけが有効かと思い、実行に移させていただきました」
「あ、そ、そう。そうだったの。ごめんね」
 
 私はもう片方の左手もユリアの手から離し、殿下に視線を向ける。

「殿下もお待たせしまして、申し訳ございません」
「いや。ロザンヌ嬢、朝食はまだだと言っただろう?」
「あ、はい」
「私もまだなんだ。一緒に取ろう」

 私が早く殿下の部屋を訪れたせいだ。

「はい。申し訳ありません。では、お願いいたします」


 クロエさんとユリアで、殿下の部屋に朝食を二人分用意してもらった。
 ユリアたちはもっと早起きして、いつも使用人の食堂で取っているそうだ。

「じゃあ、ユリアさん。後はお願いね」
「かしこまりました」
「それでは、殿下。ロザンヌ様、失礼いたします」

 クロエさんは一通りの仕事を済ませると、部屋を出て行った。
 いつもユリアが側についてくれているとは言え、やはり家族と食事をしていた私としては誰かとテーブルを一緒にして食事するのは嬉しいし、安心感がある。

「殿下、お食事中に申し訳ありませんが、クラウディア様の事で少しお尋ねしたいことがあります」
「何だ?」
「よく王宮でお見かけするのですが、王宮にお勤めなのですか」

 上級貴族の令嬢が王宮勤めというのは分かるような、分からないような。お勤めなどしなくても悠々自適に暮らせるはずだろうし。

「ああ、そうだ。助言役という形で」

 かなり地位が高い役職ということかな。それなら納得。下を従えたい性分っぽいものね。

「そうですか」

 だとしたら、今後も出会うことになるのか。ユリア、絡まれなきゃいいけど。

「クラウディア様は、いえ、ベルモンテ家は私用で呪術を使われることはあったのですか?」

 殿下は難しい顔を浮かべる。

「一応、王家は足をすくわれてはたまらないから、爵位を与える代わりに私用で使うことを禁じてきたし、表向きは無いとされてきた」

 表向きは、ね。
 殿下も以前から何かしら思うことはあったのだろう。

「だが実際のところは先ほども言った通り、彼らが秘密にしておけば誰にも分からない事だった。今回のことで確信を得ることになったが、彼らは今も内密に行っているのだろう。……もっとも君の存在を隠しておきたい今、これを表沙汰にして問題にするわけにもいかないのは悩ましいところだ」

 私を経由しなければ、殿下とユリアを繋げるものは何も無いものね。

「それともう一つ気になった事がありまして、以前、殿下はベルモンテ家は王宮お抱えの占術師様の分家だとおっしゃいましたね」
「ああ」
「現在、この国にはお抱えの占術師様はおられませんよね。今は本家の占術師様はどうなさっているのですか」

 こういう事態を予見してくれてはいなかったのだろうか。
 尋ねると殿下はため息をついた。

「占術師はルイス王以前より、徐々に廃れていっていた。今や家筋は絶えたはず」
「え?」

 本家の方が廃れて途絶えてしまった?

「占術師は王家に良い道を助言する穏健派、呪術師は敵対するものを排除する強硬派とされていた。ルイス王の時代は王族同士がたった一つの王位の椅子を巡って争う血なまぐさい時代だった。どちらが重用されるか分かるだろう?」

 なるほど。助言により、正しい道を歩もうと生やさしい考えをするよりも、相手を蹴落とす者の方が勝ち上がるのだろう。心正しき者が必ずしも勝利するわけではない。それは歴史が証明する通り、本家であるはずの占術師が敗れて、分家の呪術師が勝って成り上がった。

 もちろん呪術師側が悪だとは言わないが、人に危害を加えることができる能力を持つ以上、抑止する存在も必要なはずで、それが穏健派の占術師だっただろうにと思う。
 時代の波に呑まれてしまったということなのだろうか。あるいは人は常に誰かを蹴落とし、自分がのし上がりたいという欲望が表面化された結果なのだろうか。

 どちらにしろ世知辛い世の中だと、齢十六歳の私は思った。
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