つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第123話 あなたと出会った町だから

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 というわけで、本日は学校が休み。つまり城下町へと繰り出す日だ、ひゃっほい。

 出発は午後からだけれど、朝の目覚めが早く、ユリアに起こされずに自力で起きた。
 久々のお出かけに気持ちが逸っているのが分かる。いつもこうだと良いのですがとユリアにぼそりと呟かれたって、全然気にしません!

 私は派手でもなく、でも地味過ぎるものでもない動きやすい服装に着替える。

「いいですね。どこからどう見ても、ただの町娘です」

 それって、いいのですか……?

 私は鏡を前にして自分の姿を確認する。
 髪型も後ろで緩く三つ編みをされているぐらいで、華やかでお洒落な少女とはかけ離れている。可もなく不可もなく、まあ、無難な姿ですねと言ったところか。

 うん。平凡顔を合わせれば最強のただの町娘に見える。殿下は町で私を見失ったが最後、見つけられなくなるかもしれないぐらい町に溶け込んでしまう姿だ。
 ……ああ。自分で考えていて胸が痛む。

 でもユリアがその服装にしてくださいと、珍しく強く主張したから仕方がない。

 着飾っていると、もちろん良からぬ人間から目をつけられやすいし、かと言って流行に乗れていないような田舎から出てきたばかりの娘も目をつけられやすいかららしい。
 元盗人の私が言うのだから、その服装で間違いなしですと胸を張るのはどうかと思うけれど。

 ユリアも私と同じく町娘の格好をしている。ただ私と違うのは彼女は美人だから、垢抜けた女性に見えることだ。

 ふっ。人間、やっぱり顔なのよね。

 ……まあ、落ち込むのはそこまでとして、気になることが一つある。

「ユリア。あなた、今日、本当にわたくしと一緒に城下町に……行くの?」
「はい。もちろんですが」
「でもあなた」

 この城下町が嫌いなのではないかなと思う。ユリアはそこで苦しい生活を強いられた。王宮に付いてくるのを嫌がっていたのもきっとそのせい。

 私はそこまで考えが及ばず、無理にユリアを連れてきてしまった。それでも王宮の生活のみなら町に出る必要はなかったけれど、今日はユリアが幼少期に生きた町に足を踏み入れるのだ。町の景色を見たら、嫌な記憶が蘇ってくるのではないだろうか。

 ユリアは私が言いたいことを察したようだ。

「私はロザンヌ様の側でお守りしなければなりませんから、もちろんご一緒します」
「そんな義務感なんていいわ。あなたの自由にしてほしいの。無理に来なくていいの」

 懐かしむことができるような町ならばいい。でもユリアにとっては嫌な記憶しかないだろう。ユリアが苦しむようなことはさせたくない。

「これが私の自由です。ロザンヌ様がお気になさるようなことではありません」
「気持ちはありがたいわ。でも」

 きっぱり言い切るユリアにも、私は頷くことはできない。

「私がロザンヌ様と一緒に行きたいのです。あの町は私が――ロザンヌ様と出会った町ですから」
「……え?」
「確かにあの町での生活は苦しく、嫌なことばかりでした。人を傷つけ、傷つけられて人間としての心を失った町です。二度と人など信用しないと思った町でもあります。ですが、あの町がロザンヌ様と出会わせてくれたのも、また事実です。私はロザンヌ様に出会わせてくれたあの町に戻ってみたいのです。今ならあの時見えなかった景色が見えるのではと、そう思うからです」

 ユリアの瞳の色は暗いものではなく、光が灯っている。ならば、私が色々想像することよりも彼女の言葉こそが真実なのだろう。

「ですから私はロザンヌ様と一緒に行きます」
「……うん。分かった」

 今度こそ頷いて彼女に手を差し伸ばす。

「ロザンヌ様?」
「だったらね。また迷うといけないから手を繋いでもらってていい?」
「っ! ……はい。こちらこそお願いします」

 ユリアは私に手を伸ばすと、がっちりと固く繋いでくれた。

「えへへ。よろしくね」
「はい」

 私もまたしっかりと手を握り返す。

「今日は目一杯楽しもうね。私の行きたい所はね、町で評判のお菓子屋でしょ。リボンを買うために雑貨屋さんでしょ。買わないとは思うけれど、服飾屋や装飾品屋も見たいと思うの。ユリアは行きたい所、考えておいてくれた?」
「はい。短剣が見たいです」
「……ああウン。そこは譲れないのね」

 彼女の趣味嗜好に私は苦笑いをこぼした。
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