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第125話 この手は何ですか?
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私たちが殿下より少し遅れて馬車の停留場所へと向かうと、当然ながら殿下たちは既に到着しており、馬車の前で待機していた。
今回はお忍びなので、外観上は派手な作りではなく、極めて控えめな外装となっている。もちろん品質は良いのでしょうが。
それよりも驚いたのが、殿下は既に馬車に乗り込んでいると思っていたのに馬車の前で待っていたことだ。
何でさっさと中に入っていないのだ?
私は疑問に思いつつ、ユリアと共に足早に向かう。
「お待たせいたしました」
「いや」
「中でお待ちいただければ良かったのですが」
「そういうわけにもいかないだろう」
何で?
「では行こう」
そう言うと殿下は私に手を差し伸べてきたので、私は何かを渡したいのかと殿下の手をじっと見つめる。
殿下の手の平には何も載っていないようだが……。
「何をやっているんだ?」
殿下こそ何をやっているのだ? この手は一体何よ?
「何をされているのかと思いまして」
純粋に分からなかった私は殿下に尋ねる。
「何って、馬車の乗降の補助に決まっているだろう」
決まっていると言われましてもね。私の手を取ると殿下、倒れちゃうじゃないですか。
ジェラルドさんが側にいるので、私は小声でこそこそとその事を伝える。
「分かってはいるが、ジェラルドがいる前で君の手を取らないわけにはいかないだろう」
なるほど。王子だからと言って、さっさと乗り込むわけにはいかないのか。でも私は侍女の立場だし、別にいいのではと思うけれど。
「いいから早く手を取って入ってくれ。不審がられる」
中に入らずこそこそ話し合う私たちを、既に疑問に思われているかもしれない。
ちらりと振り返ると、やはりジェラルドさんはどうしたのだろうかと、こちらの様子を窺っている。もちろんユリアが間を持たせてくれるなど、気の利いたことはしてくれないので。
ユリアよ。事情を知っているくせに、私は知らぬ存ぜぬの澄まし顔をするなー!
心の中で文句を言いつつ殿下に視線を戻す。
「ですが目の前で倒れられても困ります」
「大丈夫だ。短い間なら持ちこたえられる。私もすぐに乗り込んで座るから問題ない」
「……かしこまりました」
仕方がない。ここでぐずぐずしている暇はない。
私は殿下の手をありがとう存じますと言って、お借りすると乗り込んだ。続いてすぐに殿下が私の横の席に滑り込んでくる。
若干、顔が青ざめているようだ。
「殿下、大丈夫ですか」
「ああ。これくらいならすぐに回復するだろう」
「……と言いますか、なぜわたくしの横に座るのですか」
何かの拍子に私とぶつかったらまた体調を崩すだろうに。
「仕方ないだろう。こちら側は進行方向だ」
あ、そっか。まさか殿下に進行方向と逆の方向に座らせるわけにもいかないわね。
「ではわたくし、向かい側に座りますね」
「駄目だ。君はこちら側に座っていろ。君も貴族の娘なのだから」
腰を浮かそうとしたら、殿下に小声で制された。
確かに言われてみればそうだけれど。
「ですが、万が一馬車が激しく揺れることがあって、殿下とぶつかったりしたら」
「互いに極力離れていればいい」
「それこそ不自然なのでは」
ユリアにこちら側に座ってもらうのがおかしければ、ジェラルドさんに座ってもらうという手がある。
「ではこちらの席はジェラルド様に」
提案をしようとしている内に、気付けばユリアが私の向かいに座りこんだ。
ああっ! 殿下と口論している間にユリアが座っちゃった!
ユリアは私に何か文句ありますかとでも言いたげな視線を投げかけてきた。
いや、あるのよ。あるに決まっているじゃない。……あ。あら? ジェラルド様が殿下のご事情についてご存知ないことを、ユリアには伝えていなかったかしら。
今更ながら思う。
いや、とにかく今はユリアの横の席に移動しなければ。
腰を上げたところで、続いてジェラルドさんが彼女の横に乗り込んでしまった。
全ての席が埋まってしまった以上、もう身動き取れない。私も諦めがつき、浮かせた腰を下ろした。
ジェラルドさんはいつものように御者に指示を送ると、こちらに振り返る。
「では参りま――」
振り返った先の光景をご覧になったジェラルドさんは言葉を失った。
なぜならば、私と殿下がそれぞれ窓際に身を張り付けるように、目一杯離れて座っていたからだ。
「……あの? どうかされましたか」
さすがのジェラルドさんも見過ごせなかったようだ。戸惑った様子で尋ねてきた。
「わ、わたくし。ま、窓から外を眺めたいものですからほほほ」
「ああ。私も同じだ」
人の真似スンナ!
「そ、そうですか。では、参りましょうか」
ジェラルドさんは辛うじて笑みを浮かべ、彼の横に座るユリアは相変わらず私たち二人を無表情に見つめていた。
今回はお忍びなので、外観上は派手な作りではなく、極めて控えめな外装となっている。もちろん品質は良いのでしょうが。
それよりも驚いたのが、殿下は既に馬車に乗り込んでいると思っていたのに馬車の前で待っていたことだ。
何でさっさと中に入っていないのだ?
私は疑問に思いつつ、ユリアと共に足早に向かう。
「お待たせいたしました」
「いや」
「中でお待ちいただければ良かったのですが」
「そういうわけにもいかないだろう」
何で?
「では行こう」
そう言うと殿下は私に手を差し伸べてきたので、私は何かを渡したいのかと殿下の手をじっと見つめる。
殿下の手の平には何も載っていないようだが……。
「何をやっているんだ?」
殿下こそ何をやっているのだ? この手は一体何よ?
「何をされているのかと思いまして」
純粋に分からなかった私は殿下に尋ねる。
「何って、馬車の乗降の補助に決まっているだろう」
決まっていると言われましてもね。私の手を取ると殿下、倒れちゃうじゃないですか。
ジェラルドさんが側にいるので、私は小声でこそこそとその事を伝える。
「分かってはいるが、ジェラルドがいる前で君の手を取らないわけにはいかないだろう」
なるほど。王子だからと言って、さっさと乗り込むわけにはいかないのか。でも私は侍女の立場だし、別にいいのではと思うけれど。
「いいから早く手を取って入ってくれ。不審がられる」
中に入らずこそこそ話し合う私たちを、既に疑問に思われているかもしれない。
ちらりと振り返ると、やはりジェラルドさんはどうしたのだろうかと、こちらの様子を窺っている。もちろんユリアが間を持たせてくれるなど、気の利いたことはしてくれないので。
ユリアよ。事情を知っているくせに、私は知らぬ存ぜぬの澄まし顔をするなー!
心の中で文句を言いつつ殿下に視線を戻す。
「ですが目の前で倒れられても困ります」
「大丈夫だ。短い間なら持ちこたえられる。私もすぐに乗り込んで座るから問題ない」
「……かしこまりました」
仕方がない。ここでぐずぐずしている暇はない。
私は殿下の手をありがとう存じますと言って、お借りすると乗り込んだ。続いてすぐに殿下が私の横の席に滑り込んでくる。
若干、顔が青ざめているようだ。
「殿下、大丈夫ですか」
「ああ。これくらいならすぐに回復するだろう」
「……と言いますか、なぜわたくしの横に座るのですか」
何かの拍子に私とぶつかったらまた体調を崩すだろうに。
「仕方ないだろう。こちら側は進行方向だ」
あ、そっか。まさか殿下に進行方向と逆の方向に座らせるわけにもいかないわね。
「ではわたくし、向かい側に座りますね」
「駄目だ。君はこちら側に座っていろ。君も貴族の娘なのだから」
腰を浮かそうとしたら、殿下に小声で制された。
確かに言われてみればそうだけれど。
「ですが、万が一馬車が激しく揺れることがあって、殿下とぶつかったりしたら」
「互いに極力離れていればいい」
「それこそ不自然なのでは」
ユリアにこちら側に座ってもらうのがおかしければ、ジェラルドさんに座ってもらうという手がある。
「ではこちらの席はジェラルド様に」
提案をしようとしている内に、気付けばユリアが私の向かいに座りこんだ。
ああっ! 殿下と口論している間にユリアが座っちゃった!
ユリアは私に何か文句ありますかとでも言いたげな視線を投げかけてきた。
いや、あるのよ。あるに決まっているじゃない。……あ。あら? ジェラルド様が殿下のご事情についてご存知ないことを、ユリアには伝えていなかったかしら。
今更ながら思う。
いや、とにかく今はユリアの横の席に移動しなければ。
腰を上げたところで、続いてジェラルドさんが彼女の横に乗り込んでしまった。
全ての席が埋まってしまった以上、もう身動き取れない。私も諦めがつき、浮かせた腰を下ろした。
ジェラルドさんはいつものように御者に指示を送ると、こちらに振り返る。
「では参りま――」
振り返った先の光景をご覧になったジェラルドさんは言葉を失った。
なぜならば、私と殿下がそれぞれ窓際に身を張り付けるように、目一杯離れて座っていたからだ。
「……あの? どうかされましたか」
さすがのジェラルドさんも見過ごせなかったようだ。戸惑った様子で尋ねてきた。
「わ、わたくし。ま、窓から外を眺めたいものですからほほほ」
「ああ。私も同じだ」
人の真似スンナ!
「そ、そうですか。では、参りましょうか」
ジェラルドさんは辛うじて笑みを浮かべ、彼の横に座るユリアは相変わらず私たち二人を無表情に見つめていた。
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