つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第128話 お金ない……

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「さっきからなかなか前に進まないのだが?」

 手には既にお菓子の袋と雑貨で一杯になった私とユリアに、殿下がたまらず話しかけてきた。
 私は身を小さくして振り返る。

「あ……。申し訳ありません。つい珍しいお菓子に夢中になってしまいました。ジェラルド様も申し訳ございません」
「いいえ。楽しそうにお買い物なさっている可愛らしいお姿を拝見して、こちらも楽しい気分になりました」

 見よ、このジェラルドさんの大人力を! 素晴らしき人間力を!

 ふふんとなぜか私が自慢げになるも、殿下はげんなりした様子でジェラルドさんを見た。

「口が巧いな、ジェラルド」

 何おう!? むしろ目をカッ開いて、しっかり見習いたまえ。
 殿下に進言してさしあげようとしたけれど、やはり止めておいた。

「それで、殿……。おっしゃっていたお店はまだ先なのですか?」
「いや。もう、すぐそこだ」

 何だかんだ言って、いつの間にか近付いていたらしい。

 でも。え? あれ?
 殿下が指さす場所は露店ではなく、雑貨屋さんでもなく、どうも高級そうな服飾店に見える。

 さっき一応、お手頃なリボンも買ったし、お菓子を買うのに結構お金を使ってしまったから、私はそんな高級なお店のリボンは買えそうにありませんよ……。
 で、でもせっかく殿下がご案内してくださるわけだし、買わないとまずいかしら。リボン一本ぐらいは買えるお金残っているかな?

 あわあわと財布の中身を探っている私の横で、殿下はジェラルドさんに指示を送る。

「ここから分かれて行動しよう。ジェラルドは彼女を武器工房に連れて行ってやってくれ」
「それは……。エルベルト様のお側を離れるわけには参りません」

 ジェラルドさんは殿下の命令とは言え、さすがにそのまま飲み込むことができず、渋い表情を浮かべた。

「とは言え、武器工房に男女二組で入るのは目立ち過ぎるだろう。私がロザンヌ嬢と入る店はもう目と鼻の先だし、いつもの店だから心配はない。あの店には警備官が配備されているのは知っているだろう?」
「はい。それは」

 警備官が配備されている? 安心してお買い物できるように安全面を考慮して警備官を雇っているということだろうか。確かに体の寸法を測ったりするのなら、無防備になってしまうものね。

 いや、待って。普通の服飾店に警備官は配備されないでしょう。つまり、そこは富裕層向けってことですよね……。やっぱりリボン一本でもお金が足りないかも。
 私は青くなる。

「君たちの買い物が終わるまでは店を出ないから終わり次第、あの店に迎えに来てくれ」
「あの。お話に口を挟んで失礼ですが」

 ユリアが口を開いた。

「場所が変わっていなければ分かると思いますので、私一人で行けます」

 ちょ、ちょっと一人で行くって、武器工房に!?
 一人で大丈夫が口癖のユリアをさすがに止めようとしたところ、それよりも先にジェラルドさんが口を開く。

「それは! それはいけません。武器屋に女性一人で行かせるわけには参りません」
「そうよ。一人でなんて駄目。ねえ、ユリア。今回は殿、エル……様もいらっしゃることだし、ジェラルド様がご都合の良い別の日にご一緒していただいてはどうかしら」
「分かりました。そういたします」

 ユリアには申し訳ないけれど、私が提案すると彼女はあっさりと頷く。すると殿下はジェラルドさんに近付いて何かを耳打ちすると、ジェラルドさんははっと顔を上げた。

「こちらは心配はないから頼んだぞ」
「承知いたしました」

 ん?

「では、ロザンヌ嬢、行こう」
「えっとユリアは」
「彼女はジェラルドと一緒に武器工房に行く。ジェラルドも納得済みだ」

 さっき殿下が何か囁いたことが効いたようだ。

「そうなのですか?」

 ジェラルドさんを見ると彼はしっかりと頷く。

「ユリアさんはお任せくださいませ」
「そ、そうですか。ではジェラルド様。申し訳ありませんが、ユリアをどうぞよろしくお願いいたします」
「はい。承知いたしました。それでは後ほどお迎えに上がります」

 ジェラルドさんは私たちと一緒にお店の前まで付いてきてくれると、その場で別れた。

「では、中に入るぞ」

 彼らの背中を見送った私は、殿下の声で我に返る。

「は、はい」

 私はごくんと生唾を飲み込んだ。
 殿下の金銭感覚は世間様とかなりかけ離れているだろうから、すごく心配だ。とは言え、お金がないものはないのだから、法外な金額だと買えないと素直に言うしかない。

 殿下がいかにも立派そうな扉の前に立つと、外にいた店員がようこそいらっしゃいませと、扉をゆっくりと開放した。
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