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第129話 嬉しいのならば
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一歩店内に足を踏み入れた瞬間、もう回れ右したくなった。
圧倒的な煌びやかさに完全なる疎外感。腰が引けた。
棚に整然と並ぶ色とりどりの生地や、仕立て屋さんのはずなのに高級そうなテーブルやソファーが設置されているのを見て、上級貴族や豪商を除いて怯まない人間はいないはず。
いや、無理。素人目から見ても生地の品質の高さが分かってしまう。完全に場違いです。勘弁してください。お代金の桁が二つも三つも違うはずですから。
仕立てが終わり、これから納入予定のものでしょうか。ドレスが店内に飾ってありましたが、これまた品質もデザインも素晴らしいこと。この一着で何千個のお菓子が買えるかしらぁ……。
私はふらふらと足元がおぼつかないです。
「エルベルト殿下!? 殿下ではありませんか! 本日はどうなさったのです。まさかお忍びですか?」
お綺麗なご婦人が慌てた様子で殿下の元へとやって来ると礼を取った。
「ああ。突然すまない。ドレスを一着頼みたいのだが、大丈夫だろうか」
「もちろんお承りいたしますが。……そちらのお嬢様でしょうか」
放心状態の小娘に対して、きらりと鋭い視線を投げかけてくるのは止めていただきたい。もう倒れかけ寸前なのですから。
「ロザンヌ嬢。ここは布地の販売と同時に仕立てを行ってくれる王家御用達の店だ。いつもは王宮に出向いてもらっている」
さようでございますか……。それは良うござんして。
何か殿下がおっしゃっているけれど、頭には入ってきません。
「こちらのお嬢様、ロザンヌ様にドレスを一着仕立てるということでよろしいのですね」
「ああ。よろしく頼む」
ん? ドレスを一着仕立てる? 誰の? ――え、ロザンヌ? って、私!?
ようやく頭が活動を始め、言葉を理解した私は殿下にばっと振り返る。
「殿下!? わたくし、破産してしまいます! ご勘弁くださいませ!」
何の嫌がらせですか!? 私はただリボンを買いたかっただけで、ドレスを買いたいなどと一言も言っていない!
「誰が君に金を出せと言った。私が君に贈るドレスだ。気にするな」
気にするな? 気にしないわけないじゃないですか!
「わたくしが殿下からドレスを頂く理由がございません」
「……そうだな。では、報酬の一つだと思ってくれていい」
「報酬というにはあまりにも高くっ」
「はいはい。もういいかしら。では採寸をするから、こちらにいらっしゃってね」
私は殿下に抵抗しようとするも、綺麗なお姉さん方二人に挟まれて連行された。
この色が合うわとか、まあ細身でいらっしゃるのね(胸が貧相なのねと幻聴が聞こえた)とか、どのようなデザインがいいかしらなどと、もみくちゃにされた後、殿下の元へと返された。
こちらは疲労困憊なのに、殿下はと言うとソファーに身を任せ、出されたお茶を優雅に飲んでいたのだから腹が立つ。
「ああ、終わったか」
「ああ、終わったかではありません。わたくしはリボンを買いに来ただけで、ドレスを買いに来たわけではありません。まして殿下に買っていただくいわれも――何ですか、これは」
ソファーから立ち上がった殿下に何かを手渡された。
あくまでも手に触れないように、上から落とすようにだけれども!
「髪用のリボンだ。君には白が似合うかと思ってそれを選んだ。ドレスと一緒に贈りたい。気に入ってくれると嬉しいが」
「え」
あらためてそれに目を落とすと、繊細そうな刺繍が施された上品なリボンだ。私にこのデザインが似合うと思って選んでくださったのだろうか。
「気に入らないか?」
「い、いえ。とても……素敵です」
「そうか。良かった」
殿下はほっと笑みを零されたけれども、私ははっと我に返った。
なに頂く気になっているのか。ドレスに続き、リボンまでとは。ありがとうございますと頂くわけにはいかない。自分で買います!
「ええ。とても気に入りました。おいくらでしょうか。わたくし、購入いたします」
「いや、だから私からの」
「おいくらですか!」
私の気迫に押されて殿下は苦笑いすると値段を教えてくれたが、私は絶句し、卒倒しかけた。
本当に勘弁してください。足りるわけがないじゃないですか。
「やっぱりあの……」
「どうした? 気に入ったのだろう?」
わざと言っているのか、本気で言っているのか、どちらですかね?
「君に似合うだろうと思って選んだものだ。嬉しいと思ってくれたのならば、受け取ってほしい」
嬉しい。私のために選んでくれただけで嬉しかった。
リボンにもう一度目線を落とすとぎゅっと握りしめ、顔を上げて殿下を真っ直ぐに見る。
「とても嬉しいです。……殿下のお心、頂戴いたします。ありがとう存じます」
「ああ」
殿下は眩しそうに目を細めて笑った。
圧倒的な煌びやかさに完全なる疎外感。腰が引けた。
棚に整然と並ぶ色とりどりの生地や、仕立て屋さんのはずなのに高級そうなテーブルやソファーが設置されているのを見て、上級貴族や豪商を除いて怯まない人間はいないはず。
いや、無理。素人目から見ても生地の品質の高さが分かってしまう。完全に場違いです。勘弁してください。お代金の桁が二つも三つも違うはずですから。
仕立てが終わり、これから納入予定のものでしょうか。ドレスが店内に飾ってありましたが、これまた品質もデザインも素晴らしいこと。この一着で何千個のお菓子が買えるかしらぁ……。
私はふらふらと足元がおぼつかないです。
「エルベルト殿下!? 殿下ではありませんか! 本日はどうなさったのです。まさかお忍びですか?」
お綺麗なご婦人が慌てた様子で殿下の元へとやって来ると礼を取った。
「ああ。突然すまない。ドレスを一着頼みたいのだが、大丈夫だろうか」
「もちろんお承りいたしますが。……そちらのお嬢様でしょうか」
放心状態の小娘に対して、きらりと鋭い視線を投げかけてくるのは止めていただきたい。もう倒れかけ寸前なのですから。
「ロザンヌ嬢。ここは布地の販売と同時に仕立てを行ってくれる王家御用達の店だ。いつもは王宮に出向いてもらっている」
さようでございますか……。それは良うござんして。
何か殿下がおっしゃっているけれど、頭には入ってきません。
「こちらのお嬢様、ロザンヌ様にドレスを一着仕立てるということでよろしいのですね」
「ああ。よろしく頼む」
ん? ドレスを一着仕立てる? 誰の? ――え、ロザンヌ? って、私!?
ようやく頭が活動を始め、言葉を理解した私は殿下にばっと振り返る。
「殿下!? わたくし、破産してしまいます! ご勘弁くださいませ!」
何の嫌がらせですか!? 私はただリボンを買いたかっただけで、ドレスを買いたいなどと一言も言っていない!
「誰が君に金を出せと言った。私が君に贈るドレスだ。気にするな」
気にするな? 気にしないわけないじゃないですか!
「わたくしが殿下からドレスを頂く理由がございません」
「……そうだな。では、報酬の一つだと思ってくれていい」
「報酬というにはあまりにも高くっ」
「はいはい。もういいかしら。では採寸をするから、こちらにいらっしゃってね」
私は殿下に抵抗しようとするも、綺麗なお姉さん方二人に挟まれて連行された。
この色が合うわとか、まあ細身でいらっしゃるのね(胸が貧相なのねと幻聴が聞こえた)とか、どのようなデザインがいいかしらなどと、もみくちゃにされた後、殿下の元へと返された。
こちらは疲労困憊なのに、殿下はと言うとソファーに身を任せ、出されたお茶を優雅に飲んでいたのだから腹が立つ。
「ああ、終わったか」
「ああ、終わったかではありません。わたくしはリボンを買いに来ただけで、ドレスを買いに来たわけではありません。まして殿下に買っていただくいわれも――何ですか、これは」
ソファーから立ち上がった殿下に何かを手渡された。
あくまでも手に触れないように、上から落とすようにだけれども!
「髪用のリボンだ。君には白が似合うかと思ってそれを選んだ。ドレスと一緒に贈りたい。気に入ってくれると嬉しいが」
「え」
あらためてそれに目を落とすと、繊細そうな刺繍が施された上品なリボンだ。私にこのデザインが似合うと思って選んでくださったのだろうか。
「気に入らないか?」
「い、いえ。とても……素敵です」
「そうか。良かった」
殿下はほっと笑みを零されたけれども、私ははっと我に返った。
なに頂く気になっているのか。ドレスに続き、リボンまでとは。ありがとうございますと頂くわけにはいかない。自分で買います!
「ええ。とても気に入りました。おいくらでしょうか。わたくし、購入いたします」
「いや、だから私からの」
「おいくらですか!」
私の気迫に押されて殿下は苦笑いすると値段を教えてくれたが、私は絶句し、卒倒しかけた。
本当に勘弁してください。足りるわけがないじゃないですか。
「やっぱりあの……」
「どうした? 気に入ったのだろう?」
わざと言っているのか、本気で言っているのか、どちらですかね?
「君に似合うだろうと思って選んだものだ。嬉しいと思ってくれたのならば、受け取ってほしい」
嬉しい。私のために選んでくれただけで嬉しかった。
リボンにもう一度目線を落とすとぎゅっと握りしめ、顔を上げて殿下を真っ直ぐに見る。
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「ああ」
殿下は眩しそうに目を細めて笑った。
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