130 / 315
第130話 楽しいお買い物
しおりを挟む
リボンは頑張れば、すごくすごく頑張れば何とか自分でも買える範囲だ。だから素直に受け取りたいと思う。
「ですが、ドレスはやはり頂けません」
「まずは座って話そう」
お店の方にもソファーに勧められて座ると、私の前にもお茶を用意してくださった。
お茶の良い香りが鼻腔をくすぐるものだから、気付けば頂きますとカップに口をつけていた。
「お茶はどうだ?」
「とても美味しいです」
お菓子と合わせるともっと美味しいだろうけれど、ここで露店で買ったお菓子を出して食べるほど、私は不作法ではございません。
「そうか」
「ですが、ドレスは頂けません」
すぐに話を戻す私に殿下は苦笑する。
「これから先、君も社交界に参加する機会がまだまだあるだろう。数があって困るものでもない」
「確かにそうですが、問題は金額です。リボン一つのお値段からドレス一着のお値段は推測できます。とんでもない額になるでしょう」
――はっ。
もしや贈りつけ詐欺で借金漬けにして、一生涯タダ働きさせるつもりじゃ……。
ぼそりと呟くと、殿下はなるほどと頷いた。
「その手があったか」
「殿下?」
眉を上げてにっこり笑うと殿下は再び苦笑する。
「まあ、それは冗談として。君にはそれだけの報酬を受け取ってもらっても、おかしくないと思っている」
「報酬」
影祓いの報酬ということか。そういえば、さっきも言っていたね。
先ほどは焦っていたからあまり気にならなかったけれど、報酬と言われると胸にドンと重いものが来る。これは一体何だろう?
「それにいらないと言われても今更引っ込みがつかない」
「え?」
「ジェラルドに、ロザンヌ嬢にドレスを贈りたいから二人は遠慮してくれと言ったんだ」
あ!
殿下がジェラルドさんに囁いていたのは、そのことだったのね。だからジェラルドさんはすぐに了承したのか。
「というわけで、君に受け取ってもらわないと私が恥をかくことになる」
殿下はご自分を言い訳にすることで、私が受け取りやすくしてくださっているのだろうけれど。
「気に入らなければ着なくて良いし、何なら捨てても売ってもいい。私が君に贈った以上、後は君の自由にすればいい」
「そ、そんな。捨てるとか売るだなんてとんでもないお話です! ……ですが、やはり高価なドレスを頂くというのは」
思わず身を乗り出したが、すぐに我に返って身を小さくする。
「君は不快に思うかもしれないが、私には君への気持ちをこんな形でしか返せないんだ」
「え?」
「感謝の意をどう伝えればいいか分からず、結果ドレスを贈ろうと浅い考えに至った」
そう言って、殿下はご自身も混乱したような笑みを浮かべた。
ここで断れば、殿下のお気持ちを拒絶することになるのだろうか。常日頃から私へ気を配ってくださっていたことが嬉しいのならば私もまた、自分の気持ちを返すべきではないのか。
私は視線を落としてしばし逡巡した後、心を決めると顔を上げた。
「殿下」
私は唇に笑みをのせて殿下を見つめる。
「とても光栄に存じます。謹んで頂戴いたします。誠にありがとうございました」
「ああ。受け取ってもらえて良かった」
殿下はほっとしたような、少し嬉しそうな笑みを見せた。
お茶を頂き終わった頃、ユリアたちはやって来た。
若干ほくほくした表情に見える彼女の様子から、良い物が見つかったらしい。良かった良かった。買ったのは短剣だけれども。
「お待たせいたしました。殿下、ロザンヌ様」
「いいや。こちらこそ無理を言って悪かったな」
「いいえ」
殿下とジェラルドさんが会話している横で、私はユリアに話しかけた。
「武器工房はどうだった?」
「とてもたくさんの物が置いてありまして、久々に心が躍りました」
なるほど。きっと無表情に興奮していたのだろうなと思う。
しかし武器屋で心躍る妙齢の女性とは一体……。
「良い物は見つかったみたいね」
「分かりますか」
分かりますよ。あなたの顔を見たら。
「まず短剣は体のどこに隠そうかと考えました。侍女服は男性と違って懐に隠すのは難しいですから。肩に巻くタイプでも、腰に巻くタイプでも、いくらなんでも目立ちすぎますし。その結果、やはり太ももに忍ばせることが一番いいかと。ふんわりとしたスカートで隠せますから。ですから短剣を収納できるレッグホルスターとセットで購入いたしました」
相変わらずこういう話題に関しては饒舌だね。
「短剣は重い物や大きい物では日常生活に支障をきたしますし、服の上から形が分かってはいけませんので、小ぶりのものを選びつつ、殺傷力が高い物を厳選いたしました」
殺傷力が高い物って何よ。何する気よ、あなた。
ドン引いている私に気付いたユリアは言葉を追加する。
「大丈夫です。ロザンヌ様を害する者にしか刃を向けませんから」
「ああウン」
あれ。ここ、うんって言っちゃって良かったのかしら……。
「短剣は接近戦には良いのですが、長剣や槍を持つ相手や少し離れた相手に対しては不利です。ですから飛び道具としても使えるよう、両足に装着することにいたしました。もちろん両手に構えても使えますし、短剣はそういう意味では使い道が広いですね」
「そう」
「二つ購入するということで、お値段を引いていただいたんですよ。嬉しかったです。楽しいお買い物でした」
「ああそう。ウン。それはヨカッタネ……」
私は乾いた笑みを浮かべた。
「ですが、ドレスはやはり頂けません」
「まずは座って話そう」
お店の方にもソファーに勧められて座ると、私の前にもお茶を用意してくださった。
お茶の良い香りが鼻腔をくすぐるものだから、気付けば頂きますとカップに口をつけていた。
「お茶はどうだ?」
「とても美味しいです」
お菓子と合わせるともっと美味しいだろうけれど、ここで露店で買ったお菓子を出して食べるほど、私は不作法ではございません。
「そうか」
「ですが、ドレスは頂けません」
すぐに話を戻す私に殿下は苦笑する。
「これから先、君も社交界に参加する機会がまだまだあるだろう。数があって困るものでもない」
「確かにそうですが、問題は金額です。リボン一つのお値段からドレス一着のお値段は推測できます。とんでもない額になるでしょう」
――はっ。
もしや贈りつけ詐欺で借金漬けにして、一生涯タダ働きさせるつもりじゃ……。
ぼそりと呟くと、殿下はなるほどと頷いた。
「その手があったか」
「殿下?」
眉を上げてにっこり笑うと殿下は再び苦笑する。
「まあ、それは冗談として。君にはそれだけの報酬を受け取ってもらっても、おかしくないと思っている」
「報酬」
影祓いの報酬ということか。そういえば、さっきも言っていたね。
先ほどは焦っていたからあまり気にならなかったけれど、報酬と言われると胸にドンと重いものが来る。これは一体何だろう?
「それにいらないと言われても今更引っ込みがつかない」
「え?」
「ジェラルドに、ロザンヌ嬢にドレスを贈りたいから二人は遠慮してくれと言ったんだ」
あ!
殿下がジェラルドさんに囁いていたのは、そのことだったのね。だからジェラルドさんはすぐに了承したのか。
「というわけで、君に受け取ってもらわないと私が恥をかくことになる」
殿下はご自分を言い訳にすることで、私が受け取りやすくしてくださっているのだろうけれど。
「気に入らなければ着なくて良いし、何なら捨てても売ってもいい。私が君に贈った以上、後は君の自由にすればいい」
「そ、そんな。捨てるとか売るだなんてとんでもないお話です! ……ですが、やはり高価なドレスを頂くというのは」
思わず身を乗り出したが、すぐに我に返って身を小さくする。
「君は不快に思うかもしれないが、私には君への気持ちをこんな形でしか返せないんだ」
「え?」
「感謝の意をどう伝えればいいか分からず、結果ドレスを贈ろうと浅い考えに至った」
そう言って、殿下はご自身も混乱したような笑みを浮かべた。
ここで断れば、殿下のお気持ちを拒絶することになるのだろうか。常日頃から私へ気を配ってくださっていたことが嬉しいのならば私もまた、自分の気持ちを返すべきではないのか。
私は視線を落としてしばし逡巡した後、心を決めると顔を上げた。
「殿下」
私は唇に笑みをのせて殿下を見つめる。
「とても光栄に存じます。謹んで頂戴いたします。誠にありがとうございました」
「ああ。受け取ってもらえて良かった」
殿下はほっとしたような、少し嬉しそうな笑みを見せた。
お茶を頂き終わった頃、ユリアたちはやって来た。
若干ほくほくした表情に見える彼女の様子から、良い物が見つかったらしい。良かった良かった。買ったのは短剣だけれども。
「お待たせいたしました。殿下、ロザンヌ様」
「いいや。こちらこそ無理を言って悪かったな」
「いいえ」
殿下とジェラルドさんが会話している横で、私はユリアに話しかけた。
「武器工房はどうだった?」
「とてもたくさんの物が置いてありまして、久々に心が躍りました」
なるほど。きっと無表情に興奮していたのだろうなと思う。
しかし武器屋で心躍る妙齢の女性とは一体……。
「良い物は見つかったみたいね」
「分かりますか」
分かりますよ。あなたの顔を見たら。
「まず短剣は体のどこに隠そうかと考えました。侍女服は男性と違って懐に隠すのは難しいですから。肩に巻くタイプでも、腰に巻くタイプでも、いくらなんでも目立ちすぎますし。その結果、やはり太ももに忍ばせることが一番いいかと。ふんわりとしたスカートで隠せますから。ですから短剣を収納できるレッグホルスターとセットで購入いたしました」
相変わらずこういう話題に関しては饒舌だね。
「短剣は重い物や大きい物では日常生活に支障をきたしますし、服の上から形が分かってはいけませんので、小ぶりのものを選びつつ、殺傷力が高い物を厳選いたしました」
殺傷力が高い物って何よ。何する気よ、あなた。
ドン引いている私に気付いたユリアは言葉を追加する。
「大丈夫です。ロザンヌ様を害する者にしか刃を向けませんから」
「ああウン」
あれ。ここ、うんって言っちゃって良かったのかしら……。
「短剣は接近戦には良いのですが、長剣や槍を持つ相手や少し離れた相手に対しては不利です。ですから飛び道具としても使えるよう、両足に装着することにいたしました。もちろん両手に構えても使えますし、短剣はそういう意味では使い道が広いですね」
「そう」
「二つ購入するということで、お値段を引いていただいたんですよ。嬉しかったです。楽しいお買い物でした」
「ああそう。ウン。それはヨカッタネ……」
私は乾いた笑みを浮かべた。
43
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる