つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第135話 言い訳は長い

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「え? ひと月後に王宮で晩餐会を開かれるのですか?」

 ある日のこと。
 学校から帰り、執務室での仕事が始まった時に殿下からそんな話を切り出された。

「ああ。通常の社交パーティーとは違って人数を制限した簡易的なものだ」

 簡易的と言っても、王子サマ・・・・の殿下の言う簡易は当てになりませんが。

「嫌味な言い方だな……」
「はっ。わたくしとしましたことが、思わず本音が口から出ておりました」

 慌てて唇に両手を当てた。

「いつも出ているから気にするな」
「はい」
「はい言うな」

 気にするなと言われたから、はいと申し上げたのに理不尽なものだ。
 殿下は苦笑いしながら話を続ける。

「大規模な社交界となると、最低数日間は拘束することになるし、互いの負担が大きいだろう。特に遠方の貴族は」
「まあ。それはそれは末端貴族の者にまでご配慮いただき、ありがとう存じます」

 私は今年デビューだからあまり事情は知らなかったけれど、女性ならドレスをいくつも用意しなければならないし、よりお金がかかってしまうらしい。平服での参加ならいいのになー、なんて。でも結局は皆、着飾ってくるのだろうけれど。

「私としては正直、やりたくないが」

 殿下は面倒そうに前髪を掻き上げる。
 ああ。人と接する機会が増えれば、それだけ影にたくさん憑かれること請け合いだものね。

「開かないとなると貴族たちにせっつかれる。人脈を広げる場であり、未婚者ならば結婚相手を探す場でもあるからな。仕方がない」
「そうですか」

 そういう場を設けることによって、殿下に自分の娘をアピールできる機会でもあるに違いない。普通の貴族のご令嬢はなかなか王宮に出入りする機会がないから。
 もっとも王族に売り込みに行く人は上級貴族か、非の打ち所のない容姿端麗の娘を持つ親だけだろう。

「依頼した君のドレスは間に合いそうにないな」
「そうですね。……ん? え? わ、わたくしも出席するのですか!?」

 いきなり話を振られてびっくりだ。

「今回は当主と夫人、それに婚約者のいない未婚の子息、令嬢限定だ。病気か余程の火急の用でも無ければ、王室からの招待状を断る貴族なんて聞いたことがない。君も久々にご両親に会えるのは嬉しいだろう?」
「それはそうですが」

 渋い表情を浮かべて口を濁す私に殿下は眉を上げる。

「何だ? 嬉しくないのか?」
「いえ。両親に会えるのは嬉しいですけれど。殿下、晩餐会はお食事するだけでしょうか」
「食事もするが、ダンスパーティーも開かれる」
「ですか……」

 やっぱりそうですよね。ダンス、ありますよね。うん、知ってた。知ってたけれど聞いてみた。

「何だ? ダンスに自信がないのか?」
「ま、まあ。失礼ですこと! これでも社交界デビュー前に一通り叩き込まれました! ――のですが、ほら。わたくしってば、繊細なものですから王宮に移り、慣れぬ環境に眠れぬ日々が続いておりまして」
「繊細は聞き捨てならないので、別の機会に議論しよう。それよりジェラルドによると朝からいつも元気いっぱいのようだが?」

 ジェラルド様、わたくしの近況報告は控えていただきたく……。

「日々勉学に励んでおりますし」
「そうだったか? 執務室でも結構うたた寝しているようだが」

 寝ていません。ちょっと休憩しているだけ。

「学校の勉強以外にも、王室の歴史についても勉強しておりましたし」
「いやだから。書庫室でも普通に寝ていただろ」

 寝ていません。目を閉じて整理しているだけ。

「たくさんの知識が一度に入って来たことにより、ダンスの知識は頭から外へと押し出され」
「眠ってばかりで、さほど知識は入って来ていない割に、放出だけは激しいな」

 頭の許容量は人によって違うものです。と言うか、さっきから殿下の突っ込みが激しいのですが。

「あと何かと忙しかったですし、肉体的疲労を常に抱えており、体もうまく動きませんもので」

 殿下はそこで呆れたようにため息をついた。

「散々言い訳を並べ立てたが、つまり早い話が――踊れないんだな?」
「はい!」

 がっと拳を作ってみせた。

「つまりはそういうことです。さすが殿下。聡いお方でいらっしゃいますね」
「普通に誰でも分かるだろ……」

 私は頬に手を当てて、ため息をつく。

「わたくしはお食事が頂けるのならばダンスはしなくても良いのですが、何ぶん母が口うるさ……口酸っぱく申しまして」

 でも、ダンスにも誘われず、壁の花(私の場合、葉っぱぐらいかも)になるのも少々寂しいものがあるかもしれない。

「ですから憂鬱なのです」
「なるほど。では、今日からダンスの練習をしよう」
「はい。…………はい?」
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