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第140話 殿下に触れられる時間
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「足が痛い。背中が痛い。腰が痛いぃ」
ユリアに朝から叩き起こされるや否や、私は体の痛みで嘆いた。
「ロザンヌ様、どうなさったのですか」
「昨日、久々に激しい運動をこなしたせいだわ」
クロエさんはスパルタ教育だったもの……。
私はベッドの上に座ったままで腰をとんとんと叩いてみる。
「そうですか」
「ユリアはどう? 痛くない?」
「私は大丈夫です」
そうだった。騎士と同じメニューをこなしてもケロッとしているユリアが、ダンスの練習だけで体が悲鳴を上げるはずもない。
「うーん。だめ。動く度に体に響いてくるわ……」
「俯せになってください。少しマッサージいたしましょう」
「ありがとう」
ベッドに俯せになると、ユリアが順番に体を解してくれる。
「どうですか。痛みますか」
「ううん。気持ちいい」
強くも弱くもない絶妙な力のマッサージは最高だ。ユリアは何をやらせても器用だなと思う。
「昨日、マッサージをしておけば良かったですね。すみません」
「ううん。わたくしもまさか、こうなるとは思っていなかったもの。普段の運動不足がここに来て出てくるとは思わなかったわ。――ありがとう。もう動けそう」
ユリアは私の体から手を離したので、私は起き上がった。
学校へ行く準備もしなくてはいけないし、いつまでもやってもらうわけにはいかない。
「制服に着替えるわね」
私はベッドから足を下ろすと準備を始めた。
朝食を済ませ、あとは殿下に朝のご挨拶をして行くのみだ。
私は殿下に繋がる部屋の扉を叩くと返事がない。……もう執務室に向かったのかしら。でも念のために入って確認しないと。
鍵を開けて失礼いたしますと入室した。
「殿下? いらっしゃいますか」
「……悪い。ここだ」
恐る恐る足を踏み入れて声をかける私に対して、殿下のか細い声が返ってきた。
「で、殿下!?」
気だるそうに椅子に座りこむ殿下に慌てて駆け寄る。
「か、影ですか」
「ああ」
「かしこまりました。どうぞ」
手を伸ばした途端、殿下は思いの外、強い力で私の手を握りしめた。
今日は一段と体がおつらいのだろうか。
強く握りしめられる自分の手を見つめながら、私は殿下の手を両手で包む。
……私が殿下に触れられるのは、この瞬間だけだから。
影祓いの最中、いつもは伏せられている殿下の目が開けられた。
どきりとして握り返した手を緩めようとすると、殿下はさらに握る手に力を入れてきた。――かと思った瞬間、ぱっと離される。
影祓いは終了らしい。私も慌てて手を離すと、自分の手からあっと言う間に殿下の熱が消え去った。
「……影祓いは終わりましたか。体調はいかがです」
「ああ。ありがとう。大丈夫だ」
「そうですか。良かったです」
私が殿下から一歩下がると、殿下は椅子から立ち上がった。
「昨日、君のダンスの練習の終了後、人と会ってそこで取り憑かれたんだ」
「では昨夜から今朝まで我慢されていたのですか!?」
まさか一晩中、苦しまれていたの!?
顔色を変える私に殿下は苦笑する。
「昨夜はまだ我慢できる程度だったから、明日でいいかと」
「ですが、なぜご訪問くださらなかったのです。長く取り憑かれると状態が悪化するとおっしゃったのは、殿下ではありませんか」
殿下は少し気まずそうに視線を逸らした。
「それはそうだが、君も昨夜は疲れているだろうと思って」
「もう。何のための隣のお部屋なのです。わたくしの影祓いは体に負担をかけるものではありませんし、次からはちゃんとご訪問くださいよ! 眠っていても起こしてくださって構いませんから」
「いや。さすがに夜間に侵入するのはまずいだろう。夜は君の侍女もいないだろうし」
日中は私の了解を得ずに入ってこようとするし、緊急性があれば夜でも私の部屋に侵入すると宣言までしていたのに。
「夜でも構いませんから、どうぞご遠慮なくいらっしゃってください」
「あのな。言っておくが、私だって男だ」
「存じておりますが」
女だと思ったことはない。
殿下は面倒そうにため息をついた。
「あーはいはい。そうだな。君は私が男だと知っているだろう」
投げやりな対応に私はむっとする。
殿下のおっしゃりたいことは私だって分かっているつもりだ。だけど。
「わたくしは」
思わず両手で殿下の手を取った。
「わたくしは殿下の御身が心配なだけです」
「ロザンヌ嬢」
殿下は一瞬目を見開いて私を見つめ。
「…………悪い。手を離してくれ」
顔を伏せ、崩れ落ちそうな身を支えるために椅子の背に手を置いた。
ユリアに朝から叩き起こされるや否や、私は体の痛みで嘆いた。
「ロザンヌ様、どうなさったのですか」
「昨日、久々に激しい運動をこなしたせいだわ」
クロエさんはスパルタ教育だったもの……。
私はベッドの上に座ったままで腰をとんとんと叩いてみる。
「そうですか」
「ユリアはどう? 痛くない?」
「私は大丈夫です」
そうだった。騎士と同じメニューをこなしてもケロッとしているユリアが、ダンスの練習だけで体が悲鳴を上げるはずもない。
「うーん。だめ。動く度に体に響いてくるわ……」
「俯せになってください。少しマッサージいたしましょう」
「ありがとう」
ベッドに俯せになると、ユリアが順番に体を解してくれる。
「どうですか。痛みますか」
「ううん。気持ちいい」
強くも弱くもない絶妙な力のマッサージは最高だ。ユリアは何をやらせても器用だなと思う。
「昨日、マッサージをしておけば良かったですね。すみません」
「ううん。わたくしもまさか、こうなるとは思っていなかったもの。普段の運動不足がここに来て出てくるとは思わなかったわ。――ありがとう。もう動けそう」
ユリアは私の体から手を離したので、私は起き上がった。
学校へ行く準備もしなくてはいけないし、いつまでもやってもらうわけにはいかない。
「制服に着替えるわね」
私はベッドから足を下ろすと準備を始めた。
朝食を済ませ、あとは殿下に朝のご挨拶をして行くのみだ。
私は殿下に繋がる部屋の扉を叩くと返事がない。……もう執務室に向かったのかしら。でも念のために入って確認しないと。
鍵を開けて失礼いたしますと入室した。
「殿下? いらっしゃいますか」
「……悪い。ここだ」
恐る恐る足を踏み入れて声をかける私に対して、殿下のか細い声が返ってきた。
「で、殿下!?」
気だるそうに椅子に座りこむ殿下に慌てて駆け寄る。
「か、影ですか」
「ああ」
「かしこまりました。どうぞ」
手を伸ばした途端、殿下は思いの外、強い力で私の手を握りしめた。
今日は一段と体がおつらいのだろうか。
強く握りしめられる自分の手を見つめながら、私は殿下の手を両手で包む。
……私が殿下に触れられるのは、この瞬間だけだから。
影祓いの最中、いつもは伏せられている殿下の目が開けられた。
どきりとして握り返した手を緩めようとすると、殿下はさらに握る手に力を入れてきた。――かと思った瞬間、ぱっと離される。
影祓いは終了らしい。私も慌てて手を離すと、自分の手からあっと言う間に殿下の熱が消え去った。
「……影祓いは終わりましたか。体調はいかがです」
「ああ。ありがとう。大丈夫だ」
「そうですか。良かったです」
私が殿下から一歩下がると、殿下は椅子から立ち上がった。
「昨日、君のダンスの練習の終了後、人と会ってそこで取り憑かれたんだ」
「では昨夜から今朝まで我慢されていたのですか!?」
まさか一晩中、苦しまれていたの!?
顔色を変える私に殿下は苦笑する。
「昨夜はまだ我慢できる程度だったから、明日でいいかと」
「ですが、なぜご訪問くださらなかったのです。長く取り憑かれると状態が悪化するとおっしゃったのは、殿下ではありませんか」
殿下は少し気まずそうに視線を逸らした。
「それはそうだが、君も昨夜は疲れているだろうと思って」
「もう。何のための隣のお部屋なのです。わたくしの影祓いは体に負担をかけるものではありませんし、次からはちゃんとご訪問くださいよ! 眠っていても起こしてくださって構いませんから」
「いや。さすがに夜間に侵入するのはまずいだろう。夜は君の侍女もいないだろうし」
日中は私の了解を得ずに入ってこようとするし、緊急性があれば夜でも私の部屋に侵入すると宣言までしていたのに。
「夜でも構いませんから、どうぞご遠慮なくいらっしゃってください」
「あのな。言っておくが、私だって男だ」
「存じておりますが」
女だと思ったことはない。
殿下は面倒そうにため息をついた。
「あーはいはい。そうだな。君は私が男だと知っているだろう」
投げやりな対応に私はむっとする。
殿下のおっしゃりたいことは私だって分かっているつもりだ。だけど。
「わたくしは」
思わず両手で殿下の手を取った。
「わたくしは殿下の御身が心配なだけです」
「ロザンヌ嬢」
殿下は一瞬目を見開いて私を見つめ。
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