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第141話 謝罪ばかり
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「も、申し訳ございません」
「いや。大丈夫だ」
慌てて手を離すとすぐに回復したらしい。殿下は項垂れていた顔を上げた。
「君に悪気がないことは分かって――悪気はないな?」
「……もちろんです」
こういった時に普段の言動が物を言うのでしょうか。私には信用がないようです。
「まあ、だけど。君がそう言ってくれるのならば、甘えさせてもらうことにする」
「ええ。初めはそうおっしゃっていたかと」
「そうだが、それは」
それは?
殿下の言葉の続きを待っているが、殿下は小さく首を振って話を変える。
「いや。そろそろ学校へ行く時間が迫っているのでは?」
「あ。ええ、はい、そうですね」
誤魔化されたかなと思うけれど、時間が迫っているのも事実だ。
「そうだ。君に伝えるのが今朝になって申し訳ないが、今日はジェラルドを借りるので、学校への送迎はアレオン護衛官に頼むことになっている」
「え? アレオン様に」
あ。ああ。私を不審者と疑ったアレオン護衛官ね。ユリアが対戦したアラン騎士のことを、彼女はいつまで経っても覚えず、アレリオンとか言うから一瞬彼かと錯覚したわ。
「私は少し出る所があって、ジェラルドに護衛についてもらう」
「あ、はい」
借りるって、そもそもジェラルドさんは殿下直属の護衛騎士様なのですが……。
大切な所ではジェラルドさんを護衛に連れて行かれるところ見ると、普段そんな方を私の学校の送迎につけてくださっているのだと、あらためて感謝すべきなのかもしれない。
「承知いたしました。いつもありがとうございます」
「いや。では気を付けて」
「はい。殿下も影にはお気を付けてくださいませ」
「ああ、ありがとう」
「では失礼いたします」
私は礼を取ると殿下の部屋を後にした。
「今日の送迎はアレオン護衛官ですって」
「そうですか」
馬車の停留場所へと向かいながら私はユリアに伝えた。
彼女の表情に変わりはない。誰が護衛官としてやって来ても、特別に気にしていないようだ。
「それにしてもジェラルド様が伯爵家のご子息様だとはびっくりだったわね」
「はい」
「でも気さくに接してくださって良かったわね。これからもそうしてくださいと、おっしゃってくださったし」
「はい」
「なのにどうしてそんなに憂鬱そうなの?」
「はい……はい?」
私が素知らぬ顔して尋ねると、ユリアは眉を上げた。
「別に憂鬱ではありません」
「あらそうですか。失礼いたしました」
「憂鬱ではありませんが……」
ユリアは言葉を濁す。
おそらく自分の中でも整理できない気持ちなのだろう。私もそれ以上は追求はしなかった。
「おはようございます、ロザンヌ様」
「おはようございます、アレオン様。本日はよろしくお願いいたします」
「はい」
馬車前で待機していたアレオン護衛官に挨拶し、ユリアの手と共に手をお借りすると馬車に乗り込んだ。
気持ちが何となく晴れないのは私も同じだ。ため息をついてしまう。
すると。
「一人で大丈夫です」
ユリアのいつもの素っ気ない声が聞こえたかと思った直後、彼女が私の横の席に腰を下ろした。
馬車の外を見ると、アレオン護衛官が困惑したように自分の手を見ている。
以前も一度お願いしたことがあって、ユリアの対応は分かっているはずだろうけれど、ジェラルドさんほどの精神の強さと懐の大きさはなさそうだ。
……ああ。また別の犠牲者が出てしまった。
私はそっと目を逸らして窓の外を眺めた。
「アレオン様、ありがとうございました」
「いいえ」
「……あの。ユリアが失礼な態度を取りましたことを心よりお詫び申し上げます」
王宮に来てからなぜか謝罪ばかりしているような気がするなぁ。
「え? い、いえ」
アレオン護衛官は焦ったように笑った。
「ご迷惑をおかけいたしますが、帰りもよろしくお願いいたします」
「は、はい」
「では行って参ります」
「はい」
「お気を付けて」
私は二人に挨拶を済ませると校舎へと歩いて行く。
しばらく歩いて念のために振り返ってみると、やはりユリアは一人で乗り込んでいた。
この分だとまた降りる時も補助を断って、自力で降りることになりそうだ。
アレオン護衛官は一応儀礼上、補助を申し出なければならないだろうに、すげなく断るユリアに困惑していることだろう。しかも行きは私が話しかけていたから馬車の中は無言ではなかったが、帰りは沈黙だろうと推測する。
「頑張って……」
アレオン護衛官に対して、遠くて届くはずもない応援の言葉を小さく投げかけた。
「いや。大丈夫だ」
慌てて手を離すとすぐに回復したらしい。殿下は項垂れていた顔を上げた。
「君に悪気がないことは分かって――悪気はないな?」
「……もちろんです」
こういった時に普段の言動が物を言うのでしょうか。私には信用がないようです。
「まあ、だけど。君がそう言ってくれるのならば、甘えさせてもらうことにする」
「ええ。初めはそうおっしゃっていたかと」
「そうだが、それは」
それは?
殿下の言葉の続きを待っているが、殿下は小さく首を振って話を変える。
「いや。そろそろ学校へ行く時間が迫っているのでは?」
「あ。ええ、はい、そうですね」
誤魔化されたかなと思うけれど、時間が迫っているのも事実だ。
「そうだ。君に伝えるのが今朝になって申し訳ないが、今日はジェラルドを借りるので、学校への送迎はアレオン護衛官に頼むことになっている」
「え? アレオン様に」
あ。ああ。私を不審者と疑ったアレオン護衛官ね。ユリアが対戦したアラン騎士のことを、彼女はいつまで経っても覚えず、アレリオンとか言うから一瞬彼かと錯覚したわ。
「私は少し出る所があって、ジェラルドに護衛についてもらう」
「あ、はい」
借りるって、そもそもジェラルドさんは殿下直属の護衛騎士様なのですが……。
大切な所ではジェラルドさんを護衛に連れて行かれるところ見ると、普段そんな方を私の学校の送迎につけてくださっているのだと、あらためて感謝すべきなのかもしれない。
「承知いたしました。いつもありがとうございます」
「いや。では気を付けて」
「はい。殿下も影にはお気を付けてくださいませ」
「ああ、ありがとう」
「では失礼いたします」
私は礼を取ると殿下の部屋を後にした。
「今日の送迎はアレオン護衛官ですって」
「そうですか」
馬車の停留場所へと向かいながら私はユリアに伝えた。
彼女の表情に変わりはない。誰が護衛官としてやって来ても、特別に気にしていないようだ。
「それにしてもジェラルド様が伯爵家のご子息様だとはびっくりだったわね」
「はい」
「でも気さくに接してくださって良かったわね。これからもそうしてくださいと、おっしゃってくださったし」
「はい」
「なのにどうしてそんなに憂鬱そうなの?」
「はい……はい?」
私が素知らぬ顔して尋ねると、ユリアは眉を上げた。
「別に憂鬱ではありません」
「あらそうですか。失礼いたしました」
「憂鬱ではありませんが……」
ユリアは言葉を濁す。
おそらく自分の中でも整理できない気持ちなのだろう。私もそれ以上は追求はしなかった。
「おはようございます、ロザンヌ様」
「おはようございます、アレオン様。本日はよろしくお願いいたします」
「はい」
馬車前で待機していたアレオン護衛官に挨拶し、ユリアの手と共に手をお借りすると馬車に乗り込んだ。
気持ちが何となく晴れないのは私も同じだ。ため息をついてしまう。
すると。
「一人で大丈夫です」
ユリアのいつもの素っ気ない声が聞こえたかと思った直後、彼女が私の横の席に腰を下ろした。
馬車の外を見ると、アレオン護衛官が困惑したように自分の手を見ている。
以前も一度お願いしたことがあって、ユリアの対応は分かっているはずだろうけれど、ジェラルドさんほどの精神の強さと懐の大きさはなさそうだ。
……ああ。また別の犠牲者が出てしまった。
私はそっと目を逸らして窓の外を眺めた。
「アレオン様、ありがとうございました」
「いいえ」
「……あの。ユリアが失礼な態度を取りましたことを心よりお詫び申し上げます」
王宮に来てからなぜか謝罪ばかりしているような気がするなぁ。
「え? い、いえ」
アレオン護衛官は焦ったように笑った。
「ご迷惑をおかけいたしますが、帰りもよろしくお願いいたします」
「は、はい」
「では行って参ります」
「はい」
「お気を付けて」
私は二人に挨拶を済ませると校舎へと歩いて行く。
しばらく歩いて念のために振り返ってみると、やはりユリアは一人で乗り込んでいた。
この分だとまた降りる時も補助を断って、自力で降りることになりそうだ。
アレオン護衛官は一応儀礼上、補助を申し出なければならないだろうに、すげなく断るユリアに困惑していることだろう。しかも行きは私が話しかけていたから馬車の中は無言ではなかったが、帰りは沈黙だろうと推測する。
「頑張って……」
アレオン護衛官に対して、遠くて届くはずもない応援の言葉を小さく投げかけた。
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