つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第145話 職人気質の庭師は

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 なぜかお花の話で食い付いてきたジェラルドさんに首を捻ったが、ここは黙って事の成り行きを見守ることにする。

「ええ。確かユアン・ロードさん? とおっしゃっていたような、いないような」

 だからどっちよ。
 けれど、ユアンという名前を覚えているだけでも、ユリアにとってはちょっとした人物なのかもしれない。興味がない人間の名は一切覚えようとしないからだ。

「えっと。茶色の髪で、口数の少ない」
「はい。そうですね。愛想のない方でした」

 うん、ユリア。君が言うな。君だけは言うな……。

「そうですか」
「えっと。ジェラルド様のお知り合いなのですか?」

 眉を少し落とし、唇を引いて笑みを作るジェラルドさんに違和感を覚えたので尋ねてみる。

「あ、いえ。何度かお見かけしたことがあるだけです」
「お見かけですか?」
「ええ。宮廷内で育てているお花を貴族のご令嬢様がご所望されていたのですが、すげなくお断りされているところを拝見したことがあります」

 もしや職人肌の頑固庭師さん?
 ワシの気にくわない人間は、たとえどこぞのご令嬢ともあろうが譲りはしない的な。

「ですからユリアさんにお譲りなさっていると伺って、驚いてしまいました」
「そうでしたか」

 頑固職人相手に毎日通って懇願したのだろうか。
 私はユリアに向き直る。

「ユリア、どうやって頂いたの?」
「王宮内を歩いていたら温室を見つけたので寄りました。お部屋に飾りたい旨を伝えると譲ってくださいました」

 うーん。簡潔すぎてまったく分からない! どうして譲ってくれたのか、経緯がまったく分からない!

「もう少し詳しく」
「ロザンヌ様のお部屋が寂しいので、譲っていただけないかとご相談しました。ロザンヌ様のお名前は出しておりませんが」
「それで?」
「それで持っていけと」

 分からない。だから分からないってば。

「貴族のご令嬢様でもすげなく断られているのに、何でユリアは持っていけと言われたの、ということなのだけど。まして毎日、お花は変わっているわけだし、それだけ頂いているのでしょう? というか、そもそも変えたお花はどこに行っているの?」

 一日でぽいっと捨てているわけではないだろうし。むしろ頑固職人の庭師さんは、ユリアがそんな事をするようならば毎日渡さないだろう。

「鍛錬場で試合をしていた私を思い出して心変わりされたようです。一日で変えたお花は私の部屋に飾るよう言われました」

 お花の行方まで指定するとは、意外と細かい人のようだ。

「へえ。ユリア、格好良かったものね。あなたの真っ正面から構える廉直な姿勢が気に入られたのかしら」
「私には分かりかねます」
「王宮庭師さんだけあって、お花はとても繊細で気品があるから、熟練の職人気質の方なのね。きっとあなたの心根も悟られたのよ。とても楽しませていただいているわ。一度お礼を申し上げたいけれど、気軽にお声がけできないような方なのかしら」

 いや、待って。ユリアが気に入られたからと言って、私が気に入られるとは限らない。それに貴族のご令嬢様に対してもなかなかの態度を取られている様子だから、庶民的な私が訪れたら軽く鼻であしらわれそうだ。

「確かに六十代ぐらいの庭師さんもおられますが、私が直接関わっているのは、容姿だけは柔らかな二十代くらいの男性です」
「……ん?」

 どういうこと? 職人さんの話よね?
 私はユアンさんを見かけたことがあると言うジェラルドさんに視線を向けた。

「はい。ユアンさんは透明感のある端正な顔立ちの青年です」
「ん? 若いけれど腕が確かな美形の庭師さんということですか?」
「そうです」
「え? それってつまり」

 ユリアの気質が気に入ったとかじゃなくて、ユリアに好意を持ったということではないのかい。いや、年齢が若く、ユリアの勇姿を見て気に入ったからと言って、もちろんそう結論づけるのは早計すぎるとは思う。けれど、自分が育てた花を最終的には部屋に飾らせているし、何か意味深。

 私の考えを判断していただきたくジェラルドさんの顔を見ると、彼は困ったように笑っていらっしゃる。どうやら同じ考えをお持ちのようだ。

「ロザンヌ様が喜ばれるので毎日通ってお花を頂いておりましたが、おかげで私の部屋に溜まってきてしまいました」

 ちょっと嫌そうに言うな!
 うんざり感が混じったユリアに対して私は心の中で叫んだ。
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