つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第167話 不敵なクラウディア嬢

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「ロザンヌ様、先ほどのお話は」

 ユリアはカトリーヌ嬢が立ち去った後、私に尋ねてきた。

「ああ、うん。実はね」

 かいつまんで話をすると、ユリアはそうでしたかと呟く。

「マリアンジェラ様に助けていただいたから良かったのだけれどね」

 さっきのカトリーヌ嬢の話を聞いて不安になってきた。
 うちにも目を付けられなければいいけれど。それにマリアンジェラ様にもご迷惑がかかったりしないだろうか。

 そんな事を考えている矢先、件の人物、クラウディア・ベルモンテ侯爵令嬢様のご登場だ。
 端に寄って横を通り過ぎて行くのを待とうと思ったけれど、彼女は不意に足を止めた。

「あなた……」

 私の顔を見ると眉をひそめた。

「もしかして昨日のあなたね!?」

 うわぁ。さすがに気付かれちゃったよ。仕方がないからここは穏便に済ませるために謝罪しておこうか。って言うか、もっと前から顔を合わせているのですが、覚えていらっしゃらない? ……はい。いらっしゃいませんね。

「はい。昨日は騒ぎを起こして申し訳ございませんでした」
「当たり前でしょう。良い迷惑を被ったわ。でもいいわ。今は機嫌がいいから昨日の事は水に流してあげる。そもそもあなたにジュースをかけられたわけでもないしね」

 クラウディア嬢が言う通り、何か良いことでもあったらしい。でも楽しそうと言うよりも不敵な笑みを浮かべている。
 そう言えば、マリアンジェラ様はクラウディア嬢にハンカチを渡していた! まさか、マリアンジェラ様に手出しするおつもりでは!?

「クラウ――」
「でもね。一つだけ警告しておくわ。友情や正義感もいいけれど、わたくしには楯突かないことね。次はないわよ」

 刺すような冷たい瞳で恫喝してくるクラウディア嬢に、思わず怯んでしまったのは不覚だ。
 ユリアは私に目を向けた。

 伸しますか?
 よし、ヤレ。
 承知いたしました。
 嘘。ヤメテ……。

 私はユリアと目と唇の動きだけで会話する。

「あら? あなた」

 クラウディア嬢はユリアの存在に気付いて、彼女に視線を向けた。
 ユリアのことはしっかりと覚えているらしい。

「どう? わたくしの侍女になる決心はついた?」
「以前も申し上げました通り、お断りいたします。私の主はただ一人の方にございます」
「何ですって!?」
「ですから私の主はた」
「ああ、もう結構よ。やっぱりあれぐらいじゃ――」

 繰り返そうとするユリアの言葉を遮って、クラウディア嬢は忌々しそうに何やらぶつぶつ言いながら去って行った。


 部屋に戻って椅子に腰掛けると、ほっと息をついた。
 戻ってほっとするということは、それなりにこの部屋に、この生活に慣れたということなのだろう。何だか変な気分だ。

 さて。殿下はお部屋にいらっしゃるのだろうか。
 私は立ち上がって、殿下の部屋に繋がる扉をノックする。――返事はない。

 本当に部屋にいないのか、倒れているのかどちらだろう。……もし倒れていたら。
 私は意を決して首からかかっている鍵に手をかけ、扉を開けることにしてみた。

「失礼します」

 声をかけながら入ってみると、部屋は静まり返っている。さらに奥に足を進めていくけれど、主の姿はない。良かった。倒れていたわけではなかったみたい。とりあえず執務室に向かうことにしよう。
 私は殿下の部屋を出た。

「ユリア、わたくし執務室に行って来ます」
「かしこまりました」
「ユリアは今日はゆっくりしていてね」
「……ゆっくり」

 ユリアは難しそうな顔を表情に覗かせたので、私は言い直しをした。

「自分の時間として自由に使ってね」
「承知いたしました」
「では行って来るわね」
「はい」

 立ち上がって行こうとするとユリアも一緒に付いてくるので、私は立ち止まって彼女に振り返る。

「ん? どうしたの? 見送りはいいわよ。――あ、もしかしてジェラルド様の所に行くの?」
「いえ。別に」
「じゃあ、どうしたの? どこかに出かけるの?」
「いえ。別に」

 じゃあ、一体何なのだー。

「本日は貴族の方々がまだ残っています。侍女服姿のロザンヌ様が声をかけられて用事を言いつけられては困ると思いますので、執務室まで同行いたします」
「あ、なるほど。でも大丈夫よ。ユリアの好きにしておいて」
「私の好きなようにしています」

 うん……全く持って正論だ。ユリアは私を心配してくれているし、言いたいことも分かるけれども、休みの日にまで私に付き合わせるのは悪い。遠回しで断ってみよう。

「あ。分かったぁ。ジェラルド様にお会いしたいのでしょう」

 両手をぱちりと合わせてからかってみるけれども、ユリアの表情はぴくりとも動かない。

「ロザンヌ様がそう思われたいのなら、そうしておいてもいいです」
「……では、同行よろしくお願いいたします」

 私は素直に頭を下げた。
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