つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第170話 自分の中で答えは見付けていても

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 本日は来客予定はないとのことで、あらためて休みでいいという殿下のお言葉に甘え、私は執務室から出た。
 ジェラルドさんのお部屋に戻って。

「……あら」

 殿下の元にいたのはそう長い時間でもなかったけれど、部屋の雰囲気が少し明るくなった? 場が開けた? 気がする。

「お部屋、何だか雰囲気が変わったわね」

 ジェラルドさんのお部屋は元々綺麗ではあったけれど、さらにすっきりと整頓されて光が差し込んだような気がする。

「はい。ジェラルド様にお茶を出した後、手持ちぶさたでしたので、許可を頂いて少し整理させていただきました」
「そう」

 視線をやるとジェラルドさんの机の上にはティーカップが置かれている。

「ロザンヌ様、申し訳ございません」

 ジェラルドさんは恐縮しっぱなしだ。
 言い訳はなさらないけれど、ジェラルドさんが遠慮してもユリアがさせてくださいと押し切ったのだろう。

「いいえ。とんでもないことです。それにユリアがしたいと強く申し出たのでしょう。心中お察しいたします。でもかえってご迷惑ではなかったでしょうか。下手に物を動かされると分からなくなってしまうのでは」

 良かれと思ってユリアが片付けても、自分の中の定位置と異なると後々使いづらくなってしまうかもしれない。

「いえ、そんな。整頓されてとても分かりやすくなりました」

 笑顔のジェラルドさんだけれど、お優しい方だから何とも……。

「お役に立っているのでしたら幸いですが」

 ユリアを見ると、そんなヘマなど致しませんとでも言いたげな顔をしている。
 自信がおありのようだから大丈夫かな。

「ロザンヌ様、もうお帰りですか」

 私がユリアの顔を見ながら考えていると彼女は声をかけてきた。

「ええ。殿下からお休みを頂いたの」
「そうですか。では帰りましょう」
「いいの?」

 ジェラルドさんのお部屋のお片付けはもう済んだのだろうか。途中で放棄してしまうというのならば止めたいと思う。

「はい。大体終わりました」
「大体って」
「職務内容に触れるような所までは手をかけられませんので」

 なるほど。
 重要書類の内容がうっかり目に入ったなんて事態になっては、ジェラルドさんにご迷惑をかけてしまう。

「ですが、それ以外の所でしたらいつでもお言いつけください。お手伝いします」
「あ、はい。――あ、いえ! い、いいえ」

 ユリアがジェラルドさんに向けてそう言うと、彼は思わず頷き、すぐに我に返って否定なさった。

「今日はお時間があったので、お願いいたしましたが、普段はそんな事していただかなくて大丈夫です。ユリアさんはロザンヌ様の侍女なのですから」
「私はジェラルド様から鍛練のご指導とお時間を頂いています。しかし私はあなた様に返せるものがありません」
「いえ。返していただく程のものではございませんので」
「借りは作りたく」
「そ、そう!」

 借りは作りたくないなどと今にも口から零れそうになっているユリアに、私は慌てて口を挟む。

「ジェラルド様のご親切に報いる方法がないユリアの心情を、どうぞお察しくださいませ。もちろんご迷惑ならお断りしていただければ結構ですので」

 ジェラルドさんは私とユリアの顔を交互にご覧になった。
 もしかしたら手伝ってくれと自分が言わなければいいだけだとお考えになったのかもしれない。

「承知いたしました。ご厚意、ありがとうございます」

 ジェラルドさんは頷いてくださった。
 やれやれ。何とか話が決着ついた。ユリアの頑固さも、ジェラルドさんの真面目さも時には厄介である。第三者が。

「では、わたくしたちはこれで失礼いたします」
「はい。今日はお疲れでしょうから、ごゆっくりとお休みください」
「ありがとうございます。それでは」

 私とユリアは礼を取ると、護衛官室を出た。

「ユリア、時には自分が引くってことも覚えなきゃだめよ。あなたのせっかくの好意が押しつけになってしまっては駄目でしょう? ユリアの気持ちは分かるけれども」

 私はくどくどと彼女に説教していると、聞いているのか聞いていないのか、口を開いた。

「ロザンヌ様は殿下のお部屋で何かあったのですか」
「は!? いきなり何?」
「空元気のように見えまして」
「何か、ということはないけれど」

 黙り込もうとするとユリアが無言の圧力をかけてくるので、私は肩をすくめて簡潔に言ってみた。

「つまり何でしょうか。ご自分が勝手にマリアンジェラ様をお薦めしておいて、勝手に落ち込んでいるのですか」
「一言でまとめられるとわたくしが間抜けみたいね……」
「ロザンヌ様はなぜ落ち込んでいるのですか」
「なぜってそれは」

 私はもう自分の中で答えを見付けているのかもしれない。でも自分の口から出た言葉は。

「分からないわ」

 だった。
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