つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第171話 カトリーヌ嬢の真意は

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「では行って参ります」

 いつものごとく私はジェラルドさんとユリアに挨拶をして、校舎へと向かった。
 しかし一歩校内に足を踏み入れると、一昨日の王宮での晩餐会の興奮冷めやらぬといった感じで、学生達がそれぞれ楽しそうに話している。

 私はそのまま教室へと向かっていたけれど、私の姿を見てこそこそ耳打ちしあったり、そそくさと離れていく人がいる。

 久しぶりの感覚だ。何でだろうと考えるまでもなく、きっとクラウディア嬢が絡んだあの一件のことなのだろう。ダンス会場には特に若者が中心にいたから、目撃した者も多いに違いない。

 もしかしたらまた自分の席にお花や蛇を仕込まれていたりするのかな。覚悟して入ろう。

 しっかりと心構えして教室へと入ると、それまで朝の喧騒で満ちていた教室内が急に静まり返った。

 ……ええ。既視感です。

 私が話したことがあるクラスメートにおはようと声をかけると、びくっと肩を振るわせてぎこちない表情でおはようと返された。

 怖がられている。
 心の中で苦笑いしながら私は自分の席に向かうと、ひそひそ内緒話が始まる。
 人間の行動というものはほとんど変わることがないものだなと、周りを観察しながら自分の席に着くと、机の上には花瓶が置かれていなかった。

 あら? 今回は花瓶代と花代をケチったのだろうか。以前、私、花瓶ごと持って帰っちゃったもんね。では机の中はと覗き込むと、にょろにょろ蠢いていた蛇も出て来ず、空っぽだ。かといって、椅子にも仕掛けは無さそう。

 意外だ。特に何も悪戯はされていない。昨日のカトリーヌ嬢の様子から考えると、私を心配してくれていたのは間違いないらしい。

 私がカトリーヌ嬢の席の方向へと視線をやると、彼女も私を見ていたようで、目がばちりと合うなり立ち上がった。そしていつものように取り巻きを連れながら私の席へとやって来るとふてぶてしく腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。

「あーら。ロザンヌ様、生きていたの」

 ……うん。やっぱりいつものカトリーヌ嬢だった。
 それでも不思議なことに、どんな時でも終始一貫した態度を取るカトリーヌ嬢には安心感を得るのはなぜだろう。

「ごきげんよう、カトリーヌ様。おかげさまでこの通り、ピンピンしておりますわ」

 私は余裕を持って、ゆっくりしなやかに両腕を広げてみせた。

「どうやらそのようね。あなたはクラウディア・ベルモンテ侯爵令嬢様に反抗的な態度を取っていらしたから、てっきり昨日にも粛清を受けて今日はもう登校できないかと思っていたわ」
「まあ! まさか」

 カトリーヌ嬢の言葉よりも私に刺さってくる大勢の視線の方が痛いわー。
 口に手を当てて、おかしくもないのにころころと笑う。

「わたくしは高貴なクラウディア様がわざわざ手を掛けて叩きつぶすほどの身分の者ではありません。それに昨日、クラウディア様にお会いした時に騒ぎを起こしたことを謝罪しましたら、水に流しましょうと寬容なお心でお許しいただきました」
「クラウディア様にお許しいただいたですって?」

 カトリーヌ嬢は眉をひそめると、わざわざ繰り返して尋ねてきたので私は頷く。

「ええ。お許しいただきました」
「……そう。では、クラウディア様の慈悲深さにせいぜい感謝することね」

 カトリーヌ嬢はそれだけ言うと身を翻し、取り巻きを連れて席へと戻る。
 誰ともなくほっと息をつき、静かだった部屋がまた少しずつ活気を取り戻した。

「おはようございます、ロザンヌ様」
「ええ。マリエル様、おはようございます」

 マリエル嬢が登校してきた頃には、何事もなかったかのように普段と変わりない日常へと戻っており、また彼女に変な視線を向けたりする者もいなかった。

 もしかしたらカトリーヌ嬢は私にわざと絡んできたのだろうか。嫌味の一つは落としたものの、私に何も手出しせずに戻った。このクラスでは彼女が最高位の爵位持ちのご令嬢だ。その彼女を差し置いて、他のクラスメートが私に手を出してくることはないだろうと……そこまで考えて?

 私はカトリーヌ嬢に何気なく視線を向けると、こちらをまた見ていた彼女と目が合い、慌てて目線を逸らしてきた。かと思うや否やすぐに振り返り、私に向かって嫌そうに舌をぴっと出した。

 ……うーん。
 彼女に対して私が過大評価していたか、まったく素直じゃない子ねと笑うところか。さて、一体どちらなのでしょうか。
 私は頬を掻きながら苦笑いした。
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