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第186話 軟化した侍従長様
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部屋の外で待機していた侍従長様にマリアンジェラ様のご様子をお伝えすると、そうですかと目を見開き、すぐに侍女に食事の用意を指示する。
「先ほどは失礼いたしました。ありがとうございます、ロザンヌ様」
あらためてこちらに振り返った侍従長様は私に礼を述べた。
「……いえ。わたくしは何も」
「お嬢様は一人寂しそうになさっておりましたので、ロザンヌ様から元気を頂いたのでしょう。食事もろくに口にされませんでしたので、とても心配しておりました。現在、留守をしております主人に代わり感謝申し上げます。誠にありがとうございました」
深々と礼を取る侍従長様に私は慌てて止める。
「と、とんでもないことでございます。わたくしごときにお礼だなんて。お顔を上げてください。少しでもお力になれたなら良かったです」
「はい。ありがとうございます」
顔を上げた侍従長様は、初対面の慇懃なだけの対応と違って表情も態度も軟化しているのが分かった。
……よく考えたら、いきなり叫びだした私の第一印象は良くなかったかもしれない。少し反省。
「それでは、セリアン様がお待ちですのでご案内いたします」
「あ、はい。お願いいたします」
私が頷くと侍従長は私の前を先だって歩き出した。
「お待たせいたしました、セリ――」
さぞかし首を長くしてお待ちであろうセリアン様にお声をかけようとしたが、呆れて思わず目を細めた。
勝手知ったる他人の家のごとく、ソファーで優雅にお茶など飲んでくつろいでいたからだ。どこぞの誰かを見ているかのようだ。
「ああ、ロザンヌ嬢。マリアンジェラの様子はどうだった?」
ティーカップを置き、こちらを見てマリアンジェラ様のご容体を真っ先に尋ねてきたところを見ると、やはり心配してはいるらしい。そうでなければ何度もお見舞いに訪れることもないけれど。
「ええ。お顔の色も良くなられていて、お元気そうでした」
食事と睡眠が取れていないから、まだ完全快復とは言えないだろうけれども、言葉通り、もう二、三日もすれば復帰できるはず。
「元気? ……そうか」
「マリアンジェラ様からお手紙をお預かりいたしました」
「俺に?」
「ええ」
手紙は折りたたまれている。開かなければ見ることができない。
預かった手紙をそのままセリアン様に手渡すと、彼は疑い深そうな目で私を見た。
「もしかして中身、見た?」
「失礼ですね。見ていませんよ」
私は腰に手をやって、ふんと胸を張る。
「部屋を出たら侍従長様が立ってお待ちでしたから、見る隙なんてありませんでした」
「おい、こら。隙があったら見るつもりだったわけ?」
「はい」
「はいって、素直だな!」
苦笑いするセリアン様に、いいから早くご覧くださいと私は促した。すると彼は確かにそうだと頷き、手紙を開く。
「マリアンジェラの字だ」
「ほほう。マリアンジェラ様の字とな。よくご存知で」
「はいはい。よくご存知ですよ」
私が茶化すも今度は乗ってこず、そのまま手紙に目を通すとわずかに笑みを零す。
「……うん。元気だって」
「ええ。ではそろそろお暇しましょうか」
「うん。そうしよう」
セリアン様は胸に手紙を仕舞うと立ち上がった。
「君は王宮に戻るんでしょ? 直接王宮に向かわせるよ」
「いえ。学校で待機してくれていますので、学校までお願いいたします」
「え? ずっと馬車を待たせているの?」
「ええ。帰りはセリアン様が送ってくださると思うと言っておいたのですが、頑なに拒まれて。――あ、勘違いしないでくださいませ。セリアン様は少々信用ないお方で、学校前で捨て置かれる可能性があるから、念の為に待機しておいてなどとは言っておりません」
私は否定のために慌てて手を振ってみせる。
「あのねー。言ってんじゃん。俺ってそんなに信用ない?」
苦笑いするセリアン様を見て、少々申し訳ない気持ちになる。
本当のところはもちろんそれが理由ではない。
いつもは殿下がご用意してくださった馬車で王族専用の馬車停留場で降りると、王族方の私室へはそのまま直通となっている。ところが、ラマディエル公爵家の馬車で王宮正面出入り口で下ろしてもらうとなると、人目があって制服姿では王族方の私室へと戻りづらくなってしまうからだ。
「いえいえ。ですからセリアン様を心の底から信用しておりますよ」
「あっそ」
友人として受け入れてくださったのに……ごめんなさい。
白けた表情で笑うセリアン様に心の中で謝罪しておいた。
「先ほどは失礼いたしました。ありがとうございます、ロザンヌ様」
あらためてこちらに振り返った侍従長様は私に礼を述べた。
「……いえ。わたくしは何も」
「お嬢様は一人寂しそうになさっておりましたので、ロザンヌ様から元気を頂いたのでしょう。食事もろくに口にされませんでしたので、とても心配しておりました。現在、留守をしております主人に代わり感謝申し上げます。誠にありがとうございました」
深々と礼を取る侍従長様に私は慌てて止める。
「と、とんでもないことでございます。わたくしごときにお礼だなんて。お顔を上げてください。少しでもお力になれたなら良かったです」
「はい。ありがとうございます」
顔を上げた侍従長様は、初対面の慇懃なだけの対応と違って表情も態度も軟化しているのが分かった。
……よく考えたら、いきなり叫びだした私の第一印象は良くなかったかもしれない。少し反省。
「それでは、セリアン様がお待ちですのでご案内いたします」
「あ、はい。お願いいたします」
私が頷くと侍従長は私の前を先だって歩き出した。
「お待たせいたしました、セリ――」
さぞかし首を長くしてお待ちであろうセリアン様にお声をかけようとしたが、呆れて思わず目を細めた。
勝手知ったる他人の家のごとく、ソファーで優雅にお茶など飲んでくつろいでいたからだ。どこぞの誰かを見ているかのようだ。
「ああ、ロザンヌ嬢。マリアンジェラの様子はどうだった?」
ティーカップを置き、こちらを見てマリアンジェラ様のご容体を真っ先に尋ねてきたところを見ると、やはり心配してはいるらしい。そうでなければ何度もお見舞いに訪れることもないけれど。
「ええ。お顔の色も良くなられていて、お元気そうでした」
食事と睡眠が取れていないから、まだ完全快復とは言えないだろうけれども、言葉通り、もう二、三日もすれば復帰できるはず。
「元気? ……そうか」
「マリアンジェラ様からお手紙をお預かりいたしました」
「俺に?」
「ええ」
手紙は折りたたまれている。開かなければ見ることができない。
預かった手紙をそのままセリアン様に手渡すと、彼は疑い深そうな目で私を見た。
「もしかして中身、見た?」
「失礼ですね。見ていませんよ」
私は腰に手をやって、ふんと胸を張る。
「部屋を出たら侍従長様が立ってお待ちでしたから、見る隙なんてありませんでした」
「おい、こら。隙があったら見るつもりだったわけ?」
「はい」
「はいって、素直だな!」
苦笑いするセリアン様に、いいから早くご覧くださいと私は促した。すると彼は確かにそうだと頷き、手紙を開く。
「マリアンジェラの字だ」
「ほほう。マリアンジェラ様の字とな。よくご存知で」
「はいはい。よくご存知ですよ」
私が茶化すも今度は乗ってこず、そのまま手紙に目を通すとわずかに笑みを零す。
「……うん。元気だって」
「ええ。ではそろそろお暇しましょうか」
「うん。そうしよう」
セリアン様は胸に手紙を仕舞うと立ち上がった。
「君は王宮に戻るんでしょ? 直接王宮に向かわせるよ」
「いえ。学校で待機してくれていますので、学校までお願いいたします」
「え? ずっと馬車を待たせているの?」
「ええ。帰りはセリアン様が送ってくださると思うと言っておいたのですが、頑なに拒まれて。――あ、勘違いしないでくださいませ。セリアン様は少々信用ないお方で、学校前で捨て置かれる可能性があるから、念の為に待機しておいてなどとは言っておりません」
私は否定のために慌てて手を振ってみせる。
「あのねー。言ってんじゃん。俺ってそんなに信用ない?」
苦笑いするセリアン様を見て、少々申し訳ない気持ちになる。
本当のところはもちろんそれが理由ではない。
いつもは殿下がご用意してくださった馬車で王族専用の馬車停留場で降りると、王族方の私室へはそのまま直通となっている。ところが、ラマディエル公爵家の馬車で王宮正面出入り口で下ろしてもらうとなると、人目があって制服姿では王族方の私室へと戻りづらくなってしまうからだ。
「いえいえ。ですからセリアン様を心の底から信用しておりますよ」
「あっそ」
友人として受け入れてくださったのに……ごめんなさい。
白けた表情で笑うセリアン様に心の中で謝罪しておいた。
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