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第197話 魔女の名
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書庫室に入ると、初めて足を踏み入れたジェラルドさんとユリアは辺りを見回す。
私と同様、辺り一面の書庫だけではなく内装にも圧倒されているようだ。
「王立図書館も素晴らしいですが、ここもとても趣がありますね」
ジェラルドさんがおっしゃると説得力がある。
「ああ。広さや蔵書数は王立図書館には見劣りするが、ここは王立図書館では扱えない門外不出の本ばかりだ。本棚もかなり年代物で価値は高いだろう。君たちはあちらのテーブルで席に着いて待っていてくれ。私はルイス王時代の歴史書を持ってくる」
心が逸っているのだろう。殿下はそれだけ残して足早に奥の本棚へと向かう。
何世代にも渡り、誰も読めなかった歴史書を読むことができるのだ。気持ちが昂ぶるのも分からなくはない。
私はユリアの隣に座り、ジェラルドさんはテーブルを挟んで彼女の向かい側に座って待つ。するとすぐに殿下が一冊の歴史書を手に戻って来た。
「ロザンヌ嬢。悪いがジェラルドの横に座ってくれ」
ユリアに色々指示を出しながらページを捲りたいのかもしれない。私は素直に立ち上がった。
「はい。かしこまりました」
テーブルを回ってジェラルドさんの横の椅子を引くと、失礼いたしますと腰掛けた。
私が座ったのを見計らって殿下が口を開く。
「王族に初めて呪いが掛けられた時代、ルイス王太子が国王に就く頃にあたる歴史書のはずだ」
「はい」
ユリアの前に分厚い本を置くと、彼女は無表情の中にも緊張感がある。
自分の父親がユリアに全てを、命を賭してまで守りたかったものでもあるのだから。
彼女はまず本の題名を読み上げる。
「フォンテーヌ王国の史書、オーギュスト王からルイス王時代の実録」
「オーギュスト王?」
「ルイス王の父君、前国王だ。特別、実績を残したわけではないから、学校ではあまり学ばないかもしれない」
私の疑問を殿下が答えてくれた。
その殿下はというと表情が硬い。ユリアがオーギュスト王と読み上げたことで、本当に彼女が文字を読める人間なのだと分かったからだろう。
「最初から読んでほしいところだが、それはまた落ち着いた時にしよう。まずはこの辺りから読んでほしい」
殿下がページを捲って本を大きく開けた。
そのページはルイス王太子の恋人だった女性が魔女として刑を執行されている絵だ。
反対向きだが、横にいるジェラルドさんにもその絵が認識できたらしく、わずかに眉をひそめた。
「はい。承知いたしました」
ユリアは頷くと、絵のすぐ下を指さし文字を追う。
「魔女裁判にかけられたエスメラルダ・ベルロンドは」
エスメラルダ・ベルロンド!
ルイス王太子の元恋人であり、呪いを掛けた魔女の名はエスメラルダ・ベルロンドという人だったということね。
名前が判明したことだけでも一つ進展が見られ、胸がドキドキしてきた。
「待ってくれ」
殿下はユリアを止める。
早いな。もう止めるの? まだ一行も読んでないでしょう。
「今、ベルロンドと言ったか?」
「はい」
ベルロンドか。そういえば、ベルモンテ侯爵と名前が似ているな。
と思っていると。
「ベルロンドの分家がベルモンテ。つまり、ベルロンドは王家お抱えの占術師家系だった所だ。ただ、この時代はもうベルロンド家の勢力は落ち、呪術師家系のベルモンテ家が暗躍しだしたと他の文献に書かれていた」
「ベルロンド家は王家専属占術師だったのに、王太子殿下に呪いを掛けたということですか」
王家専属占術師ならば、王太子殿下の体の一部、髪などぐらいなら簡単に手に入りそうだけれど。
「いや。その時はもう王家専属占術師の座は退いていたはずだ」
「そうですか。ともかくベルモンテ侯爵家の本家が起こした出来事ということですね」
「この時代はまだベルモンテは侯爵には至っていなかったと思うが、そういうことになるな」
なるほど。
占術師家系が引き起こした呪いを呪術師家系が対処している、という図だろうか。占術師家系は穏健派だと殿下が言っていた気がするのに、何だか逆のようにも思える。
「悪い。続けてくれ」
殿下に促されてユリアは頷く。
「魔女裁判にかけられたエスメラルダ・ベルロンドは家宅から大量の証拠品が発見され押収されたため、ほとんど審議されることもなく実刑が決まる。魔女の血は毒とされ、刑の執行には火あぶりが最適とされた」
続いてユリアは、エスメラルダ様が何かを隠し持っていないか裸体にし、民に石を投げさせるなど、刑の執行方法を淡々と伝える。
「なるほど。この辺りは他の訳文にも書かれていることだな。簡略版の史書ではルイス王太子に裏切られた彼女が呪いを掛けたとされている。どんな証拠が出てきたのか書かれていないか、少し遡って読んでもらえるか」
「はい。承知いたしました」
ユリアは頷くとページを遡って捲った。
私と同様、辺り一面の書庫だけではなく内装にも圧倒されているようだ。
「王立図書館も素晴らしいですが、ここもとても趣がありますね」
ジェラルドさんがおっしゃると説得力がある。
「ああ。広さや蔵書数は王立図書館には見劣りするが、ここは王立図書館では扱えない門外不出の本ばかりだ。本棚もかなり年代物で価値は高いだろう。君たちはあちらのテーブルで席に着いて待っていてくれ。私はルイス王時代の歴史書を持ってくる」
心が逸っているのだろう。殿下はそれだけ残して足早に奥の本棚へと向かう。
何世代にも渡り、誰も読めなかった歴史書を読むことができるのだ。気持ちが昂ぶるのも分からなくはない。
私はユリアの隣に座り、ジェラルドさんはテーブルを挟んで彼女の向かい側に座って待つ。するとすぐに殿下が一冊の歴史書を手に戻って来た。
「ロザンヌ嬢。悪いがジェラルドの横に座ってくれ」
ユリアに色々指示を出しながらページを捲りたいのかもしれない。私は素直に立ち上がった。
「はい。かしこまりました」
テーブルを回ってジェラルドさんの横の椅子を引くと、失礼いたしますと腰掛けた。
私が座ったのを見計らって殿下が口を開く。
「王族に初めて呪いが掛けられた時代、ルイス王太子が国王に就く頃にあたる歴史書のはずだ」
「はい」
ユリアの前に分厚い本を置くと、彼女は無表情の中にも緊張感がある。
自分の父親がユリアに全てを、命を賭してまで守りたかったものでもあるのだから。
彼女はまず本の題名を読み上げる。
「フォンテーヌ王国の史書、オーギュスト王からルイス王時代の実録」
「オーギュスト王?」
「ルイス王の父君、前国王だ。特別、実績を残したわけではないから、学校ではあまり学ばないかもしれない」
私の疑問を殿下が答えてくれた。
その殿下はというと表情が硬い。ユリアがオーギュスト王と読み上げたことで、本当に彼女が文字を読める人間なのだと分かったからだろう。
「最初から読んでほしいところだが、それはまた落ち着いた時にしよう。まずはこの辺りから読んでほしい」
殿下がページを捲って本を大きく開けた。
そのページはルイス王太子の恋人だった女性が魔女として刑を執行されている絵だ。
反対向きだが、横にいるジェラルドさんにもその絵が認識できたらしく、わずかに眉をひそめた。
「はい。承知いたしました」
ユリアは頷くと、絵のすぐ下を指さし文字を追う。
「魔女裁判にかけられたエスメラルダ・ベルロンドは」
エスメラルダ・ベルロンド!
ルイス王太子の元恋人であり、呪いを掛けた魔女の名はエスメラルダ・ベルロンドという人だったということね。
名前が判明したことだけでも一つ進展が見られ、胸がドキドキしてきた。
「待ってくれ」
殿下はユリアを止める。
早いな。もう止めるの? まだ一行も読んでないでしょう。
「今、ベルロンドと言ったか?」
「はい」
ベルロンドか。そういえば、ベルモンテ侯爵と名前が似ているな。
と思っていると。
「ベルロンドの分家がベルモンテ。つまり、ベルロンドは王家お抱えの占術師家系だった所だ。ただ、この時代はもうベルロンド家の勢力は落ち、呪術師家系のベルモンテ家が暗躍しだしたと他の文献に書かれていた」
「ベルロンド家は王家専属占術師だったのに、王太子殿下に呪いを掛けたということですか」
王家専属占術師ならば、王太子殿下の体の一部、髪などぐらいなら簡単に手に入りそうだけれど。
「いや。その時はもう王家専属占術師の座は退いていたはずだ」
「そうですか。ともかくベルモンテ侯爵家の本家が起こした出来事ということですね」
「この時代はまだベルモンテは侯爵には至っていなかったと思うが、そういうことになるな」
なるほど。
占術師家系が引き起こした呪いを呪術師家系が対処している、という図だろうか。占術師家系は穏健派だと殿下が言っていた気がするのに、何だか逆のようにも思える。
「悪い。続けてくれ」
殿下に促されてユリアは頷く。
「魔女裁判にかけられたエスメラルダ・ベルロンドは家宅から大量の証拠品が発見され押収されたため、ほとんど審議されることもなく実刑が決まる。魔女の血は毒とされ、刑の執行には火あぶりが最適とされた」
続いてユリアは、エスメラルダ様が何かを隠し持っていないか裸体にし、民に石を投げさせるなど、刑の執行方法を淡々と伝える。
「なるほど。この辺りは他の訳文にも書かれていることだな。簡略版の史書ではルイス王太子に裏切られた彼女が呪いを掛けたとされている。どんな証拠が出てきたのか書かれていないか、少し遡って読んでもらえるか」
「はい。承知いたしました」
ユリアは頷くとページを遡って捲った。
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