つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第205話 嘘偽りは述べません

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 ユリアが鍛錬から戻って来ると、私は有無を言わせず彼女を浴室に放り込んだ。
 入浴を終えたユリアに、もしかしたら殿下が部屋を訪れるかもしれないことを話す。

「そうですか」
「わたくしはユリアの意思を尊重します。どんな答えを出しても、わたくしはユリアを守りますから安心してね」
「……はい」

 彼女の手を両手で握りしめると、握り返してくれる。

「いざとなったら王家の秘密を暴露するぞと脅しにかかりますわ。ほほほほ」
「王家も真っ青の本当の大悪党はここに」

 高笑いしている私を前にしてユリアは握った手をそっと緩めた。


 殿下との部屋を繋ぐ扉をノックされたのは、夕食を済ませて休憩していた頃のことだった。
 私が立ち上がり、扉へと近付いて返事をする前に開放された。

「殿下……。勝手に入らぬよう、あれほど口酸っぱく申し上げておりますのに」
「ノックはしたが?」
「お返事はしておりません」
「そうか。些細な事だ。気にするな」

 で・ん・か・は! 気になさってください!

「それで昼間のことだが」

 顔を真剣なものにした殿下に私も気を引き締めた。

「はい」
「こちらの部屋に来てもらえるか」

 私はすぐ後ろにいるユリアを一瞥すると殿下に視線を戻した。

「まずはわたくしだけでも構いませんか」

 当然、昼間の答えはユリアが返事すべきことだけれど、もし陛下がお部屋にいらっしゃったら、それだけでお断りできない空気になってしまうと思う。最初に第三者の私が話を伺う。

「……ああ」

 殿下は呟くと、前髪を掻き上げてため息をつく。

「勘が鋭くて困るな」

 と言うことは、やはり陛下がいらっしゃるということね。でもお部屋にいらっしゃるという事だけで、もう答えは出ていると思う。

「では、まずは君一人で入ってくれ」
「はい。ユリア、後で呼ぶわね」
「はい」

 頷くユリアを確認して部屋に足を踏み入れると、殿下が先行して客間へと誘導してくださる。

「陛下がいらっしゃるから、失礼のないように」

 殿下が客間に入る直前に、念の為と忠告してくださった。

「もちろん大丈夫ですよ。王家の方に無礼を働くなど、とんでもないことですわ。考えられません」
「……うん。君の中ではそうなのかもな。まあ、念の為だ。念の為」
「承知いたしました」

 頷くと殿下が部屋の扉を開放して挨拶し、続いて私に中に入るよう促す。

「失礼いたします。ユリア・ジャンメールの仲立ち役として参りました。ロザンヌ・ダングルベールです」

 深く頭を下げて礼を取ると私は顔を上げた。
 そこにいらっしゃったのは陛下と――。

「デレク様?」

 思わぬ同席者に私は目を見張った。
 そうか。デレク管理官は書庫番であり、若き頃の陛下の護衛官様だった。信頼のある護衛官であり、のちの書庫番であるデレク管理官に陛下が依頼したとすれば簡単に資料を持ち出せる。

「ロザンヌ様」

 デレク管理官は立ち上がって私に礼を取る。

「私は。全て私が引き起こしたことなのです」
「……デレク様」

 まだ何も分からぬ状態で、彼にかける言葉が見つからない。けれど私はユリアの中継役として勝手出た以上、相手の言い分をしっかりと聞こうと思う。

「とりあえず座って話をしよう。二人とも掛けてくれ」

 殿下が私たちに椅子を勧めて座らせた。
 陛下は上座に作られた席に座り、その横に殿下が座る。私の正面にはデレク管理官だ。
 最初に口を開かれたのは陛下である。

「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢。まずはエルベルトがいつも世話になり、感謝を申し上げる。ありがとう」
「勿体ないお言葉でございます」

 軽く礼を取ると陛下は微笑まれた。

「君がユリア・ジャンメールの主人なのだね」
「はい。そうです」
「そうか。縁とは不思議なものだね。それに君は侍女思いだ。嘘偽りがあれば自身も即日、身を引くと脅されたとエルベルトが言っていたよ。エルベルトが大袈裟に言っているのだろうがね」

 殿下を笑顔で睨み付けたが、当のご本人は涼しいお顔だ。
 失礼のないようにとか私に言っておいて、陛下にお伝えする際、余計な言葉は足さなくてもいいでしょうよ。真実ですけど! まあ、この際だから正直にお答えしよう。

 私は陛下に視線を戻した。

「いいえ。殿下のおっしゃる通りにございます」

 素直に答えると、陛下は驚いた様に目を見張られた。片や殿下は苦笑いだ。
 陛下相手に本音を言わないと思ったのでしょう。言うんだな、これが!

「驚いたな。堂々と意見を放つとは。もっと言葉を包み込んでも良かったのだが。何なら息子のせいにでも……」
「陛下の御前にございます。わたくしは何事も包み隠さず、嘘偽りを述べることはありません」

 そこじゃない!
 母の指摘が一瞬だけ頭に響いた気がした。
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