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第208話 ユリアが発した言葉は
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殿下が体勢を整えて席に戻ると、気持ちを落ち着かせた私は立ち上がって陛下に礼を取る。
「陛下。取り乱してお見苦しいところをお目にかけまして、誠に申し訳ございませんでした」
「いいや。全ては我々が引き起こしたことだ。君はユリア・ジャンメールとは姉妹のように育ったのだろう。憤るのも無理はない。こちらこそ本当にすまなかった」
「お止めくださいませ、陛下。わたくしに謝罪していただくことは、何一つございません」
そう。
謝る相手が間違っている。私にではなくユリアだ。
「……そうだったな」
「わたくしはあくまでも仲立ち役であり、ユリアの代弁者ではありません。どう捉えて何を口にするかは全てユリアの気持ちで決まります」
「そうか」
「はい。ですからユリアに今のお話を全てを伝え、彼女自身の言葉で答えてもらおうと思っております」
「分かった」
「では、一度この場を失礼させていただきます」
私は恭しく礼を取ると殿下と目で挨拶して部屋を後にした。
部屋に戻ると待機していたユリアに全てを打ち明けた。
王家が依頼したこと、その結果ユリアの家庭を壊したこと、お父様が火を放ったこと、デレク管理官が子供の存在を承知しながらも王家の秘密を守るために焼け出されたユリアを追わなかったこと。
ユリアはそれら全てを黙って聞いていた。
悲しんでいるのかもしれない。怒っているのかもしれない。ただ、事実を事実として受け入れているだけかもしれない。あるいは、それら全てが混ざっているのかもしれない。
「ロザンヌ様」
表情には特別な感情が出ていないユリアは今、何を言うのだろうか。
けれどたとえどんな言葉でも、彼女の本心ならば私は全部受け止める。
「うん。なあに?」
「手が。手が赤くなっております」
「え?」
予想外の言葉に、私は呆気に取られる。
ユリアは構わずに私の手を取ると、視線に入る高さまで持ち上げた。
「赤いです」
思いの外、テーブルを強く叩いていたようだ。ユリアの言う通り、赤くなっている。
「ああ、これ。大したことではないの」
「誰かを殴られたのですか」
「いいえ。少々テーブルにぶつかっただけよ」
私は肩をすくめて笑った。
「そうですか。――ありがとうございます」
「え?」
「私のためにテーブルにぶつかってくださって、ありがとうございます」
「……ユリア」
私の手を大事そうに包み込んでくれてユリアは微笑んだ。
コンコンッ。
遠慮がちに鳴らされた扉の音に私は返事をして自ら開けると、殿下が立っていた。
私たちが遅かったから迎えに来られたのだろう。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや。……また泣いているのかと思って」
「泣きませんよ」
ユリアを前に泣かない。
「ユリアに手当をしてもらっていたのです」
「あ……手か。酷いのか。大丈夫か?」
殿下は白い布が巻かれた私の手に視線を落とすと、痛ましげに目を細める。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。大袈裟よと言ったのですが、治療すると言って聞かなくて」
「そうか」
「でももう参ります」
私が振り返ると準備を済ませたユリアが側にやって来た。
「エルベルト殿下、お待たせいたしました」
「……ああ。では行くか」
「はい」
殿下を先頭に私たちは続く。
私が肩を並べて歩くユリアの手を取ると、彼女は少しだけ唇に笑みをのせた。そして客間までやって来て。
「失礼いたします」
ユリアはいつもと何ら変わらぬ単調な声で挨拶をし、陛下に礼を取った。
「よく……来てくれた。座ってくれ」
一方の陛下の声は固く、緊張感で溢れているのがよく分かる。
「ありがとうございます」
デレク管理官の真向かいになる席にユリアを座らせ、私は彼女のすぐ横に座ることにした。
皆が席に着いても、緊迫感で満たされたこの部屋は誰も言葉を口にしようとはしない。誰が先に声を上げるのだろうと身構えてはいるものの、本当に誰も口を開こうとしない。
ユリアは礼節を重んじて先に口を開くことはないので、王族の方々が何か言っていただかないと話が進まない。
焦れったくなった私は殿下に視線を送ると、はっと我に返ったようで咳払いした。
殿下が陛下をこっそり肘で突いて促しているのを見て、こんな時なのに気持ちが緩みそうになる。
陛下も殿下もしっかりなさってくださいよね!
私も気を引き締めるために自分の足をぎゅっとつねった。
「陛下。取り乱してお見苦しいところをお目にかけまして、誠に申し訳ございませんでした」
「いいや。全ては我々が引き起こしたことだ。君はユリア・ジャンメールとは姉妹のように育ったのだろう。憤るのも無理はない。こちらこそ本当にすまなかった」
「お止めくださいませ、陛下。わたくしに謝罪していただくことは、何一つございません」
そう。
謝る相手が間違っている。私にではなくユリアだ。
「……そうだったな」
「わたくしはあくまでも仲立ち役であり、ユリアの代弁者ではありません。どう捉えて何を口にするかは全てユリアの気持ちで決まります」
「そうか」
「はい。ですからユリアに今のお話を全てを伝え、彼女自身の言葉で答えてもらおうと思っております」
「分かった」
「では、一度この場を失礼させていただきます」
私は恭しく礼を取ると殿下と目で挨拶して部屋を後にした。
部屋に戻ると待機していたユリアに全てを打ち明けた。
王家が依頼したこと、その結果ユリアの家庭を壊したこと、お父様が火を放ったこと、デレク管理官が子供の存在を承知しながらも王家の秘密を守るために焼け出されたユリアを追わなかったこと。
ユリアはそれら全てを黙って聞いていた。
悲しんでいるのかもしれない。怒っているのかもしれない。ただ、事実を事実として受け入れているだけかもしれない。あるいは、それら全てが混ざっているのかもしれない。
「ロザンヌ様」
表情には特別な感情が出ていないユリアは今、何を言うのだろうか。
けれどたとえどんな言葉でも、彼女の本心ならば私は全部受け止める。
「うん。なあに?」
「手が。手が赤くなっております」
「え?」
予想外の言葉に、私は呆気に取られる。
ユリアは構わずに私の手を取ると、視線に入る高さまで持ち上げた。
「赤いです」
思いの外、テーブルを強く叩いていたようだ。ユリアの言う通り、赤くなっている。
「ああ、これ。大したことではないの」
「誰かを殴られたのですか」
「いいえ。少々テーブルにぶつかっただけよ」
私は肩をすくめて笑った。
「そうですか。――ありがとうございます」
「え?」
「私のためにテーブルにぶつかってくださって、ありがとうございます」
「……ユリア」
私の手を大事そうに包み込んでくれてユリアは微笑んだ。
コンコンッ。
遠慮がちに鳴らされた扉の音に私は返事をして自ら開けると、殿下が立っていた。
私たちが遅かったから迎えに来られたのだろう。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや。……また泣いているのかと思って」
「泣きませんよ」
ユリアを前に泣かない。
「ユリアに手当をしてもらっていたのです」
「あ……手か。酷いのか。大丈夫か?」
殿下は白い布が巻かれた私の手に視線を落とすと、痛ましげに目を細める。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。大袈裟よと言ったのですが、治療すると言って聞かなくて」
「そうか」
「でももう参ります」
私が振り返ると準備を済ませたユリアが側にやって来た。
「エルベルト殿下、お待たせいたしました」
「……ああ。では行くか」
「はい」
殿下を先頭に私たちは続く。
私が肩を並べて歩くユリアの手を取ると、彼女は少しだけ唇に笑みをのせた。そして客間までやって来て。
「失礼いたします」
ユリアはいつもと何ら変わらぬ単調な声で挨拶をし、陛下に礼を取った。
「よく……来てくれた。座ってくれ」
一方の陛下の声は固く、緊張感で溢れているのがよく分かる。
「ありがとうございます」
デレク管理官の真向かいになる席にユリアを座らせ、私は彼女のすぐ横に座ることにした。
皆が席に着いても、緊迫感で満たされたこの部屋は誰も言葉を口にしようとはしない。誰が先に声を上げるのだろうと身構えてはいるものの、本当に誰も口を開こうとしない。
ユリアは礼節を重んじて先に口を開くことはないので、王族の方々が何か言っていただかないと話が進まない。
焦れったくなった私は殿下に視線を送ると、はっと我に返ったようで咳払いした。
殿下が陛下をこっそり肘で突いて促しているのを見て、こんな時なのに気持ちが緩みそうになる。
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私も気を引き締めるために自分の足をぎゅっとつねった。
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