つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第213話 いつになく忙しいご様子のマリエル嬢

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 午前の授業が終わり、お昼休みになって私とマリエル嬢は食事を始めたものの、彼女はいつになく落ち着かないような、急いたような様子でお昼を取っている。
 不思議に思っていたが。

「ロ、ロザンヌ様」

 お昼を手早く済ませると突如、椅子から立ち上がったマリエル嬢に驚きつつ見上げる。

「はい。どうされましたか?」
「わ、わたくし。実はこれから先生にお願いされました用事がございまして。お先に失礼させていただきたいのですが!」
「そ、そうだったのですか。お手伝いいたしましょうか?」

 マリエル嬢の常ならぬ勢いに押されながらも、私は手伝いを提案してみた。

「い、いいえ。わたくしがお願いされたことでございますし、ロザンヌ様のお手を煩わせるまでもありませんので」
「そうですか?」
「ええ。お気持ちだけ頂きます。ありがとうございました。それでは失礼いたします」
「あ、はい」

 余程の急ぎの用事なのか、彼女は軽く礼を取るとあっと言う間に去って行ってしまった。
 呆気に取られてしまったが、まだ途中だった自身のお昼を終えると私も立ち上がる。

 これからどうしようかなと考え、庭にマリアンジェラ様がいらっしゃっているかもしれないと思い立ったので、外へと足を運んでみたけれど空振り。本日は来られないようだ。
 仕方がなく再び校内へと戻ることにする。

 それにしてもマリエル様が先生に頼まれた用事って何だったのかしら。何か重い教材でも運ばされるようなお仕事があるのなら、やはりお手伝いしようかしら。マリエル様は華奢だものね。

 ――いえ。わたくしだって誰にも負けないくらい華奢ですけど!

 誰に言い訳したいのか、そんなことを考えながら資料室へと向かった。

 ……と。
 資料室の前まで来てみたが声も物音も聞こえないし、中に人がいるかどうか分からない。既に用事を済ませた後だろうか。

 とりあえず開けてみようとノブに手をかけようとしたその瞬間。

「――っ!」

 背後に人の気配を感じたかと思うや、口を手で押さえられて体を抱え込まれた。

 ま、また校舎裏へお呼び出し!?
 反射的に暴れようとしたけれど。

「どうどう。暴れ馬さん、落ち着いて。俺だよ。誰からも敬慕される君の友人、セリアン・ラマディエル様」

 くすくすと悪戯っぽい笑い声と共に低い声で耳に囁かれた。

 セリアン様!
 ――と言うか、自分で自分を敬うな!

「手を離すけど、騒がないように。いい?」

 素直に頷くと彼は私の口から手を離した。かと思った瞬間、今度は私の腕を取って歩き出す。
 いきなりだったので、最初は少し引きずられてしまった。

「セ、セリアン様?」
「事情は後でね。とりあえず付いておいで」

 この人は話をいつも後回しにするなぁ。
 もったいぶっていると言うか、回りくどいと言うか、面倒な性格の方である。

「悪かったね」

 苦笑いしながら振り返るセリアン様。

「あら。聞こえていました?」
「聞こえるように言ったんでしょうが。でも君も大概、面倒な子だからね」
「ええ。承知しております」
「……承知しているのか」

 セリアン様は笑みから呆れ顔に変える。

「わたくしのご友人と名乗るのには、まだまだわたくしの事を知らなさすぎでございますよ」
「はいはい。どうもすみませんねー」

 適当にあしらうセリアン様だったが、一つの部屋の前で足を止めると鍵を取り出した。

「色々な鍵をくすねていらっしゃるのですね」
「言葉が悪いね。借りているだけだよ。どうぞ入って」

 彼は扉を開けると私を室内へと押しやった。

「ここは……図書室ですか?」

 本棚がいくつも並び立てられており、近頃よく感じる本の匂いというものが鼻腔をくすぐった。
 一応テーブルと椅子は申し訳程度にあるけれど、図書室という割には狭い感じだし陰鬱と言うか、人が出入りしている気配がない。

「おかしいですね。校内には別に図書室があるはずですが」

 私は訪れたことはないが。

「そう。一応図書室の二号室ということになるけど、こちらは古い書物ばかり取り扱っていて先生方ですらほとんど寄りつかない場所だよ。人があまり手に取らない本をこちらに移動させる倉庫状態になっている」
「色んな所をご存知なのですね」
「まあ。君より二年長くここにいるからね。とにかく座ろう」

 セリアン様は部屋に鍵をかけると、出入り口近くに立っていた私の肩を押して促した。
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