つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第214話 他愛もない会話を楽しもう

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 椅子をご丁寧に引いてもらって座ろうと思ったけれど、使われていない部屋ということで汚れ具合が気になり椅子に目を落とす。しかし、特に埃が積もっているようではなさそうだ。

「心配ないよ。俺がよく使っているから。それにちゃんと掃除もされているみたいだからね」

 私の視線で気持ちを察してくださったらしい。

「そうですか」
「うん。とにかくどうぞ座って」
「はい。ありがとうございます」

 私は素直に腰を下ろすと、セリアン様は私の向かいの椅子に座った。
 二人、身を落ち着かせたところで私は口を開く。

「早速ですが、一体何の真似ですか?」
「早速すぎるねー。もっと普通の友達のように他愛もない会話をしてから、本題に移ろうよ。ま。普通って何か分からないけどさ」

 セリアン様はテーブルに頬杖をつき、斜めに構えて私を見る。
 いきなり拘束し、この部屋まで何の説明もせずに強引に連れて来たくせにそれを言うのですか。

「でしたら、もっと普通の・・・お誘いをしていただきたかったです」
「あはは。確かに」

 全然悪びれた様子はないなあ。まあ、いいですけど。

「セリアン様はなぜ資料室に?」
「ああ。普段、俺はこの図書室か、あの資料室で昼休みを過ごすことが多いから」

 お友達がいないのですかと言おうとしたけれど、諸刃の剣になりそうなので、ぐっと口を閉じておくことにした。

「今日はたまたま資料室に行ったんだ。ところが一足先に人に入られちゃってね」

 やはり先生に頼まれ事をしていたマリエル様がいらっしゃったのだろうか。

「すぐに出て行くかなと少し待ってみたけど、さらにそこへ男が入って行くからさ。仕方なしにこの図書室に行こうと考えて引き返したところ、君が中に入ろうとするのを目撃したもので生け捕りにしてみた」

 生け捕りって、まるで獣扱いのようだ……。
 苦笑いしつつ。

「セリアン様が立ち去るのはともかく、わたくしが中に入ろうとするのを止めるということは、もしかして中には……男女の逢瀬でもしていらっしゃったのですか?」
「ご名答。男の方はギヨーム・グリント。グリント伯爵の子息だね。いけ好かない男だよ」
「いけ好かない」

 ふむ。同族嫌悪だろうか。

「同族嫌悪って、あのねー。一緒にしないでくれる? 俺はあんなに性格悪くないよ」
「わたくしはその方を存じませんので、何とも比較しがたいところですが」
「いやいや。そもそも俺は性格悪くないよね?」
「うーん。そうですね。わたくしはセリアン様のこともまだよく存じませんし」

 私は顎に手をやって小首を傾げた。
 意地悪だけど、人を傷つける意地悪さではないから性格が悪いわけではないと言われればそうだろうし。

「ですから返答を……そうですね、十年程お待ちいただいてよろしいでしょうか」
「長っ! 判断が遅すぎるでしょ」
「判断ではなく、十年経ってわたくしが大人になれば、セリアン様の意地悪も心広く笑って許容できるかと思いまして」

 うふふふと頬に手を当てて笑ってみせると、セリアン様は身を起こして腕を組み、皮肉っぽく笑い返す。

「じゃあ、無理なんじゃない。君のひねた性格こそ十年程度じゃ、びくともしないだろうから」
「なるほど。では、セリアン様は性格が悪いということを、今ここで決定いたしましょう」
「何でそうなるわけ?」

 不服そうに眉を上げるセリアン様に私は微笑んでみせた。

「さて。他愛もない会話をお楽しみいただきましたところで、本題に戻りましょうか」
「はいはい」

 セリアン様は肩をすくめ、前髪を掻き上げる。
 さすが上級貴族といったところだろうか。何気ない仕草さえ洗練されているような気がする。

「それで何だっけ」
「ギヨーム・グリント様のお話の続きを」
「ああ。女性関係が派手で有名な男なんだけど、知らない?」

 伯爵家のご子息の上に顔もまたそこそこ良いものだから、女性が切れたことがないと言う。

「ええ。存じません。わたくしは噂好きのグループに属しておりませんし、耳にしたことはございませんね」

 グループ自体に属しておらず、マリエル嬢と二人で行動しているからあまり噂が耳に入って来ないのかもしれない。

「あ、そうだ。君は一度会っているよ」
「え? いつでしょうか?」

 覚えがないな。そもそも、そのような派手目の男性とは縁が無い。ならば地味目の男性と縁があるのかと言えば……黙秘権を行使する。

「宮殿で開かれた晩餐会の時のダンス会場でだよ。君のご友人が誘われていたでしょ」
「――ああ! あの方ですか」

 確かになかなかの好男子だったような気がする。
 と思い出したところで嫌な予感が湧き起こるが、やはり気になったので尋ねてみることにする。

「その……。ところで彼のお相手の方は」
「だから君のご友人だよ。マリエル嬢、だったかな。彼女」

 あっさり告げるセリアン様の一方、私は気分がどしりと重くなった。
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