つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第216話 真摯な思い

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 授業が終わり、帰宅途中の馬車の窓から外の景色を見つめてため息をつく。

「ロザ――」
「ジェラルド様」

 意を決して私は前を向くと、ジェラルドさんに声をかけた。

「はい、ロザンヌ様。どうかなさいましたか?」

 私の名を呼ぼうとされていたところ、遮る形になったけれど、ジェラルドさんは私に譲ってくださった。このまま甘えてお話しさせていただこう。

「ジェラルド様にお尋ねしたいことがございまして」
「はい。もちろん。私でお答えできることなら」
「ありがとうございます。ジェラルド様は……身分違いの恋をされたことがありますか」
「…………。は、はい!?」

 二拍ほどの間隔を空けてからジェラルドさんは返事をして、いや、声を上げられた。

「その反応ですと、身分違いの恋をなさったことがあるのですね! いつどのようにどんな恋をどういう結果になりましたかそれともただ今継続真っ最中なのですか!?」

 思わず身を乗り出して問い質してしまう。

「あ、あの、ロザンヌ様」

 ジェラルドさんは最初の動揺から立ち直られたようだ。

「前にも申し上げましたが、私は三男で爵位を引き継ぐことのない、ただの平民でありまして、そもそも身分違いの恋という前提が私とは無縁のものです」
「ですが、ジェラルド様もお家から指定のご婚約者様候補などは挙げられているのでしょう」

 三男であったとしても、いや三男であるから余計に結婚において、お家から強制される部分は大きいはずだ。容姿や人格に優れているだけではなく、ご自分の力で殿下の護衛騎士官長まで上り詰めているジェラルドさんを、お婿さんに欲しい貴族は多いだろう。

「それは確かにそうなのですが、私は自分の意志を貫きたいと思っております」

 おぉ。
 さすがジェラルド様です。格好いい!

「そうですか。素敵なお考えです」
「ありがとうございます」

 ジェラルドさんが若干ほっとなさったところで、私はさらに突っ込んでみる。

「だとしますと、ジェラルド様の恋のお相手は平民の方なのですね」
「は、はい!?」

 油断大敵ですわ、ジェラルド様。

「ご自分を平民と考え、身分違いの恋は無縁とおっしゃるのでしたら、お相手様も平民の方だからなのですよね」
「あ、い、いえ。言葉のあやであり、そういう意味ではその」
「あら。ではどういう意味でしょうか」

 私は詰め寄るようにますます身を乗り出したところ。

「ロザンヌ様。それ以上、ジェラルド様を困らせてはいけません」

 横に座るユリアに制止された。

 うっ!?
 今、ユリアに諭された? ユリアに諭された!? ユリアに諭された!

 少なからず衝撃を受けて一瞬言葉を失うも、ユリアの視線を受けてすぐにしゅんと肩を落とす。
 謝りますよ。謝ればいいんでしょー。

「個人的なことですのに、追求して申し訳ありません、ジェラルド様」
「いえ。そんな」

 でも、ジェラルドさんの恋のお話を聞きたかったのになー。
 我知らず拗ねたような唇になってしまっていたらしい。すっかり平常心を取り戻したジェラルドさんはくすりと笑った。

「ジェラルド様?」

 首を傾げると、彼はすみませんと述べて一つ咳払いする。

「ただ、独断ではありますが、爵位のある無しはあくまでも恋愛の障害の一つに過ぎないと私は思っております。むしろ恋を自覚し、恋を成就させるまでの経緯、そして成就した後に愛を育んでいく過程の方がはるかに壁が大きいものではないかと」

 ジェラルドさんがわざわざ話を蒸し返してくれたのだ。尋ねても良いだろうか。

「そうおっしゃるということは、ジェラルド様はもう恋愛を成就なさったのですか」
「……あ、いえ。そうではありません。お恥ずかしながら、私が一方的にお慕いしているだけで、その方とはまだ信頼関係を築けているとも言い難いところですので。ですが」

 ジェラルドさんは照れたように笑ったけれど、すっと笑みを消して表情を真剣なものに変える。

「ですが、いずれ思いをお伝えできたらと考えております」
「っ!」

 自分に言われているわけではないのが分かっているのに、ドキドキと動悸が止まらない。ジェラルドさんの真摯な思いが直に伝わってくるからだろう。

 ……ユリアは? ユリアはどう思っているだろうか。少しくらいは動揺しているところが見られるかもしれない。
 私はちらりと彼女を横目で見ると。

 ――こ、この鉄の女めぇぇぇっ!

 顔色一つ変えておらず、相変わらずの無表情である。何ならいつもよりさらに感情を失っていて、冷たい石像のようになっている。

 い、いや。表情に出ないだけで、もしかしたら意外に胸はどくどくと高鳴っているかもしれない。そうだそうに違いない! そうであれ!

「……ロザンヌ様、何をなさろうとしているのですか?」
「え?」

 気付けば、私はユリアの胸に手を当てようとしていたところだった。
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