つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第219話 お悩みのお年頃!

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「――というわけで、殿下。本日は失礼いたします」
「あ、ああ。ご苦労。明日もよろしく」

 殿下に挨拶を述べて礼を取ると、一瞬だけ固まった時間が動き出す。

「はい。ではお先に失礼いたします」

 最後にもう一度だけ挨拶し、私は執務室を後にした。

「お疲れ様です、ロザンヌ様」

 護衛官室に足を踏み入れた私に、ジェラルドさんが立って迎えてくれる。

「ジェラルド様、ありがとうございます」
「……ロザンヌ様? 少し顔色が思わしくないように思いますが、お疲れですか?」

 心配げに尋ねてくださるジェラルドさんに笑顔を向ける。

「いいえ。大丈夫です。ご心配、ありがとうございます。それよりも、本日はわたくしとユリアがジェラルド様を困らせるような事を申し上げて、大変失礼いたしました」
「――っ!」

 ジェラルドさんもこの言葉には動揺を隠せない様子だ。

「いえ、そんな。……あ。あの、ロザンヌ様」
「ジェラルド様」
「は、はい」

 同時になってしまった呼びかけで、ジェラルドさんが順番を譲ってくれた。
 私はありがたくお受けし、笑みを浮かべる。

「ジェラルド様、実はユリアは紅茶がとても好きなのです」
「え?」
「何かお困りのことがございましたら、いつでもご相談くださいませ」
「っ! ……ありがとうございます、ロザンヌ様」
「ええ。それでは失礼いたします」

 ジェラルドさんにも挨拶を終えた私は護衛官室を出た。


 そこからは自分の部屋までまっしぐらだ。
 途中、クロエさんから廊下は走らないのよと叱責のお声を頂いた気もするけれど、軽く謝罪しつつ走り去ったように思う。着いた部屋の前にいた護衛官との対応も覚えていない。
 ただ、部屋で出迎えてくれたユリアが、珍しく顔を強ばらせて言った言葉だけは耳に残っている。

「ロザンヌ様。熱があるのでは」


 ぼんやりと霧がかったような思考の中で、人が出入りする気配と声が伝わってくる。

「――うに大丈夫なのか」
「はい。先生もただ疲れが出ただけだろうと。最近、色々お悩みのようでしたから」
「そうか」

 殿下とユリアの声だろうか。……ああ。熱があるとユリアが言っていたっけ。私は寝込んでいるんだ。

「一晩ゆっくり眠れば治るそうです。知恵熱じゃないでしょうか」
「知恵熱は乳児期に出る熱だが」

 そうよ、ユリア。ちょっと馬鹿にしているでしょ!

「同じようなものかと」
「それもそうだな」

 ユリアのばかー! 殿下のばかー! 私はお悩みのお年頃なの!
 心の中で叫んだ後、私は真っ白な世界へ意識を飛ばした。


「……ん」

 ふわりと意識が浮上した。

 あれ? もう朝かな。何だか長い時間眠った気がする。ただ、ユリアに起こされる前だから、いつもよりも早いのは間違いないだろう。
 もうひと眠りできるぐらいなのかなと窓のカーテンから漏れる光を確認しようと、寝返りを打ったところで。

「――ひわあっ!?」

 思わず身を引いて、妙な声を上げてしまった。
 そこにはユリアとは明らかに違う、金髪のうつぶせた誰かの頭があったからだ。
 と思った瞬間、その頭がばっと上げられて、さらに声を上げそうになった。

「どうした、ロザンヌ嬢!?」
「で、殿――!」

 しかし、起きたてのぼんやりした頭でも認識できる相手、殿下だったことに気付いて辛うじて声を抑える。

 どうしたって、こちらの方が聞きたいですよ!
 私はベッドから完全に身を起こし、ばっくんばっくんと大きな鼓動を打つ動悸を抑えるために、私は一呼吸を置くと。

「い、いえ。殿下がいらっしゃって驚いただけです。朝からどうなさったのですか? あ、いえ。もしかして影が?」

 寝ている最中でも遠慮なく侵入するぞ宣言が、とうとう実行に移されたのか。

「いや、そうじゃない。昨夜、君は熱で倒れたのだが、覚えていないか?」
「え? ……あ」

 そうだ。確かにそうだった。寝ぼけた頭もようやく回ってきた。……いやいやいや。それは分かるけれど、なぜ殿下がここにいるのかですよ、問題は。

「それで殿下はどうしてこちらに?」
「君が熱だと言うから心配で」
「え? もしかして一晩ついてくださったのですか?」
「ああ」
「……あ、ありがとうござい――はっ!?」

 う、うわぁぁぁ!?
 寝顔見られた!? 変な寝言とか言っていなかったかな!? 寝相どうだっただろう! と言うか今、寝起きのぼけぼけ顔のぼさぼさ髪をしているんじゃないだろうか。さらに、よだれが垂れていたりして。

 うわぁぁぁぁ!
 恥ずかしさでシーツを引き寄せて顔を隠した。

「まあ、私は側で見ているだけで、看病は君の侍女がしていたが。それよりも顔を伏せているが、やはりまだ体調が悪いのか?」
「いえ。そうではありませんが、起きたばかりですので、とりあえずユリアを呼んでいただけたら」
「あ……ああ。そうだな。済まない。すぐに呼んでこよう」

 殿下は私の考えを読み取ったようで、椅子を鳴らして立ち上がった。
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