つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第168話 ほんのお礼です。ユリアが

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 ユリアが付き添ってくれていたけれど、特に誰かに呼び止められることもなくジェラルドさんの護衛官室までやって来ることができた。

 晩餐会の場だから、こんな日には殿下の元に訪れる人はおらず、執務室に繋がる廊下に人気は少なかったようだ。
 護衛官室への入室許可をもらい、私はユリアと共に失礼いたしますと言いながら入る。

「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
「ジェラルド様、おはようございます」
「おはようございます」

 ジェラルドさんは相変わらず立ち上がって近くまで来てくださっており、笑顔で応対してくれた。

「昨日はご両親とごゆっくりできましたか」
「はい。おかげさまで。ありがとうございます」
「そうですか。良かったです。晩餐会は楽しまれましたか?」

 私は小首を傾げつつ微笑む。

「そうですね。たくさんの人と触れあって少し疲れましたが」
「ロザンヌ様はラマディエル公爵家のご令息と踊られていましたね」
「ご、ご覧になっていたのですか」
「ええ」

 うわぁ。何だか恥ずかしい。でも考えてみれば殿下のすぐ側で護衛なさっていたのだろうから、あの場にはおられたのだろう。

「とても上手に踊られていましたよ」
「ありがとうございます。セリアン様がうまくリードしてくださったものですから」

 楽しくはなかったけれど。

「楽しくなかったのですか?」
「――あ」

 ジェラルドさんの前まで本音が零れてしまった。
 私は慌てて口を押さえる。

「公爵家のご令息様に対して不敬でしたね」
「いえ。どなたがお相手であろうと、楽しくなかったものは仕方がありません」

 ジェラルドさんは澄まし顔で頷くので、私は思わずぷっと吹き出した。

「そうですよね」
「ええ」

 穏やかな笑顔でジェラルドさんは頷くと、視線を私の後ろにいるユリアに移す。

「ユリアさんも昨日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます」

 ジェラルド様もお疲れ様ですとは返さない。ユリアの口数の少なさは未だ健在だ。

「ユリアさん。申し訳ないのですが、まだお帰りになっていないご来賓の方々がいらっしゃいますので、本日、鍛錬はお休みとなっています」

 ユリアが今日も鍛錬するためにやって来たとジェラルドさんは考えたようだ。

「はい。承知しています。ロザンヌ様のお付きで伺っただけですので。もう戻ります」
「そうなのですか」

 そんなあっさり。
 ジェラルドさんも少しがっかりなさっている(独断と偏見)ご様子じゃないの。

「待って。ユリア」
「何でしょうか」
「だったら、わたくしの帰りはどうするの? 行きは用事を言いつけるような方はいらっしゃらなかったけれど、帰りはもしかしたらわたくし、誰かに捕まるかもしれないわ」

 ユリアはそこまでは考えていなかったみたいで口を噤む。
 さっき私はユリアに今日は自分の時間を好きに使ってとは言った。けれど、彼女自身が私に用事を言い渡されないよう付いてくると言い張った手前、帰るとは強く言えないのだろう。

「ロザンヌ様がお部屋にお戻りになる頃には、皆様お帰りになっているかと」

 やっとのことで考えてひねり出してきた答えらしい。が、ユリアの言い分は希望的観測に過ぎない。

「わたくしが帰るのは、いつになるかは分からないわ。殿下のお顔だけ拝見したらすぐ戻るかもしれない」

 殿下には、今日は休みでいいと言われていたぐらいだから。

「という訳で、少しだけ待っていて」
「……はい。分かりました。では外でお待ちしています」
「あ。いえ。ユリアさん、どうぞこちらでお待ちください」

 ジェラルドさんがご親切にもそう言ってくださった。

「そういうわけには参りません」
「ユリア、ご厚意に甘えさせていただいたら。それが心苦しいようならば、ジェラルド様にお茶のご用意を。いつもお世話になっているのだし、それぐらいさせていただかなくてはね。――ジェラルド様、ユリアが入れるお茶はとても美味しいのですよ」
「いえ。そんな事をしていただかなくても」

 慌ててジェラルドさんは否定なさったけれど、ユリアはユリアなりに何かを考えたらしい。かしこまりましたと素直に頷く。

「わたくしども、ジェラルド様には何一つお返しできておりませんので、それくらいさせていただけませんか」

 お返しするのはユリアだけですが。
 私はジェラルドさんの手を両手で取った。

「え、えと」

 ジェラルドさんは困ったようにユリアを見ると、彼女は軽く頭を下げた。

「あ、ありがとうございます」
「ええ。こちらこそありがとうございます。それでは、殿下の入室許可を取っていただけますか」

 ジェラルドさんの気持ちが変わらないうちに次の要請をすると、承知しましたと入室許可を取ってくれた。

「じゃあ、ユリア。後はよろしくね」
「ロザンヌ様、私はいつまで待てば」
「そうね。わたくしが殿下の執務室から失礼する頃までかしら」

 適当な事を言いつつ、私は執務室へと入った。
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