168 / 315
第168話 ほんのお礼です。ユリアが
しおりを挟む
ユリアが付き添ってくれていたけれど、特に誰かに呼び止められることもなくジェラルドさんの護衛官室までやって来ることができた。
晩餐会の場だから、こんな日には殿下の元に訪れる人はおらず、執務室に繋がる廊下に人気は少なかったようだ。
護衛官室への入室許可をもらい、私はユリアと共に失礼いたしますと言いながら入る。
「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
「ジェラルド様、おはようございます」
「おはようございます」
ジェラルドさんは相変わらず立ち上がって近くまで来てくださっており、笑顔で応対してくれた。
「昨日はご両親とごゆっくりできましたか」
「はい。おかげさまで。ありがとうございます」
「そうですか。良かったです。晩餐会は楽しまれましたか?」
私は小首を傾げつつ微笑む。
「そうですね。たくさんの人と触れあって少し疲れましたが」
「ロザンヌ様はラマディエル公爵家のご令息と踊られていましたね」
「ご、ご覧になっていたのですか」
「ええ」
うわぁ。何だか恥ずかしい。でも考えてみれば殿下のすぐ側で護衛なさっていたのだろうから、あの場にはおられたのだろう。
「とても上手に踊られていましたよ」
「ありがとうございます。セリアン様がうまくリードしてくださったものですから」
楽しくはなかったけれど。
「楽しくなかったのですか?」
「――あ」
ジェラルドさんの前まで本音が零れてしまった。
私は慌てて口を押さえる。
「公爵家のご令息様に対して不敬でしたね」
「いえ。どなたがお相手であろうと、楽しくなかったものは仕方がありません」
ジェラルドさんは澄まし顔で頷くので、私は思わずぷっと吹き出した。
「そうですよね」
「ええ」
穏やかな笑顔でジェラルドさんは頷くと、視線を私の後ろにいるユリアに移す。
「ユリアさんも昨日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
ジェラルド様もお疲れ様ですとは返さない。ユリアの口数の少なさは未だ健在だ。
「ユリアさん。申し訳ないのですが、まだお帰りになっていないご来賓の方々がいらっしゃいますので、本日、鍛錬はお休みとなっています」
ユリアが今日も鍛錬するためにやって来たとジェラルドさんは考えたようだ。
「はい。承知しています。ロザンヌ様のお付きで伺っただけですので。もう戻ります」
「そうなのですか」
そんなあっさり。
ジェラルドさんも少しがっかりなさっている(独断と偏見)ご様子じゃないの。
「待って。ユリア」
「何でしょうか」
「だったら、わたくしの帰りはどうするの? 行きは用事を言いつけるような方はいらっしゃらなかったけれど、帰りはもしかしたらわたくし、誰かに捕まるかもしれないわ」
ユリアはそこまでは考えていなかったみたいで口を噤む。
さっき私はユリアに今日は自分の時間を好きに使ってとは言った。けれど、彼女自身が私に用事を言い渡されないよう付いてくると言い張った手前、帰るとは強く言えないのだろう。
「ロザンヌ様がお部屋にお戻りになる頃には、皆様お帰りになっているかと」
やっとのことで考えてひねり出してきた答えらしい。が、ユリアの言い分は希望的観測に過ぎない。
「わたくしが帰るのは、いつになるかは分からないわ。殿下のお顔だけ拝見したらすぐ戻るかもしれない」
殿下には、今日は休みでいいと言われていたぐらいだから。
「という訳で、少しだけ待っていて」
「……はい。分かりました。では外でお待ちしています」
「あ。いえ。ユリアさん、どうぞこちらでお待ちください」
ジェラルドさんがご親切にもそう言ってくださった。
「そういうわけには参りません」
「ユリア、ご厚意に甘えさせていただいたら。それが心苦しいようならば、ジェラルド様にお茶のご用意を。いつもお世話になっているのだし、それぐらいさせていただかなくてはね。――ジェラルド様、ユリアが入れるお茶はとても美味しいのですよ」
「いえ。そんな事をしていただかなくても」
慌ててジェラルドさんは否定なさったけれど、ユリアはユリアなりに何かを考えたらしい。かしこまりましたと素直に頷く。
「わたくしども、ジェラルド様には何一つお返しできておりませんので、それくらいさせていただけませんか」
お返しするのはユリアだけですが。
私はジェラルドさんの手を両手で取った。
「え、えと」
ジェラルドさんは困ったようにユリアを見ると、彼女は軽く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「ええ。こちらこそありがとうございます。それでは、殿下の入室許可を取っていただけますか」
ジェラルドさんの気持ちが変わらないうちに次の要請をすると、承知しましたと入室許可を取ってくれた。
「じゃあ、ユリア。後はよろしくね」
「ロザンヌ様、私はいつまで待てば」
「そうね。わたくしが殿下の執務室から失礼する頃までかしら」
適当な事を言いつつ、私は執務室へと入った。
晩餐会の場だから、こんな日には殿下の元に訪れる人はおらず、執務室に繋がる廊下に人気は少なかったようだ。
護衛官室への入室許可をもらい、私はユリアと共に失礼いたしますと言いながら入る。
「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
「ジェラルド様、おはようございます」
「おはようございます」
ジェラルドさんは相変わらず立ち上がって近くまで来てくださっており、笑顔で応対してくれた。
「昨日はご両親とごゆっくりできましたか」
「はい。おかげさまで。ありがとうございます」
「そうですか。良かったです。晩餐会は楽しまれましたか?」
私は小首を傾げつつ微笑む。
「そうですね。たくさんの人と触れあって少し疲れましたが」
「ロザンヌ様はラマディエル公爵家のご令息と踊られていましたね」
「ご、ご覧になっていたのですか」
「ええ」
うわぁ。何だか恥ずかしい。でも考えてみれば殿下のすぐ側で護衛なさっていたのだろうから、あの場にはおられたのだろう。
「とても上手に踊られていましたよ」
「ありがとうございます。セリアン様がうまくリードしてくださったものですから」
楽しくはなかったけれど。
「楽しくなかったのですか?」
「――あ」
ジェラルドさんの前まで本音が零れてしまった。
私は慌てて口を押さえる。
「公爵家のご令息様に対して不敬でしたね」
「いえ。どなたがお相手であろうと、楽しくなかったものは仕方がありません」
ジェラルドさんは澄まし顔で頷くので、私は思わずぷっと吹き出した。
「そうですよね」
「ええ」
穏やかな笑顔でジェラルドさんは頷くと、視線を私の後ろにいるユリアに移す。
「ユリアさんも昨日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
ジェラルド様もお疲れ様ですとは返さない。ユリアの口数の少なさは未だ健在だ。
「ユリアさん。申し訳ないのですが、まだお帰りになっていないご来賓の方々がいらっしゃいますので、本日、鍛錬はお休みとなっています」
ユリアが今日も鍛錬するためにやって来たとジェラルドさんは考えたようだ。
「はい。承知しています。ロザンヌ様のお付きで伺っただけですので。もう戻ります」
「そうなのですか」
そんなあっさり。
ジェラルドさんも少しがっかりなさっている(独断と偏見)ご様子じゃないの。
「待って。ユリア」
「何でしょうか」
「だったら、わたくしの帰りはどうするの? 行きは用事を言いつけるような方はいらっしゃらなかったけれど、帰りはもしかしたらわたくし、誰かに捕まるかもしれないわ」
ユリアはそこまでは考えていなかったみたいで口を噤む。
さっき私はユリアに今日は自分の時間を好きに使ってとは言った。けれど、彼女自身が私に用事を言い渡されないよう付いてくると言い張った手前、帰るとは強く言えないのだろう。
「ロザンヌ様がお部屋にお戻りになる頃には、皆様お帰りになっているかと」
やっとのことで考えてひねり出してきた答えらしい。が、ユリアの言い分は希望的観測に過ぎない。
「わたくしが帰るのは、いつになるかは分からないわ。殿下のお顔だけ拝見したらすぐ戻るかもしれない」
殿下には、今日は休みでいいと言われていたぐらいだから。
「という訳で、少しだけ待っていて」
「……はい。分かりました。では外でお待ちしています」
「あ。いえ。ユリアさん、どうぞこちらでお待ちください」
ジェラルドさんがご親切にもそう言ってくださった。
「そういうわけには参りません」
「ユリア、ご厚意に甘えさせていただいたら。それが心苦しいようならば、ジェラルド様にお茶のご用意を。いつもお世話になっているのだし、それぐらいさせていただかなくてはね。――ジェラルド様、ユリアが入れるお茶はとても美味しいのですよ」
「いえ。そんな事をしていただかなくても」
慌ててジェラルドさんは否定なさったけれど、ユリアはユリアなりに何かを考えたらしい。かしこまりましたと素直に頷く。
「わたくしども、ジェラルド様には何一つお返しできておりませんので、それくらいさせていただけませんか」
お返しするのはユリアだけですが。
私はジェラルドさんの手を両手で取った。
「え、えと」
ジェラルドさんは困ったようにユリアを見ると、彼女は軽く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「ええ。こちらこそありがとうございます。それでは、殿下の入室許可を取っていただけますか」
ジェラルドさんの気持ちが変わらないうちに次の要請をすると、承知しましたと入室許可を取ってくれた。
「じゃあ、ユリア。後はよろしくね」
「ロザンヌ様、私はいつまで待てば」
「そうね。わたくしが殿下の執務室から失礼する頃までかしら」
適当な事を言いつつ、私は執務室へと入った。
33
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる