つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
245 / 315

第245話 あなたが望む言葉は

しおりを挟む
 殿下って肝心な所で配慮が足りないのよね、配慮がさ!
 気まずく再び咳払いしようと考えたところで、それを救ってくれるかのようにジェラルドさんが口を開いた。

「しかしエスメラルダ様が呪いを掛けた張本人ではないとなりますと、ルイス王太子殿下を初め、代々続く呪いを掛けたのはやはり」

 ベルモンテ家。
 誰もその名を口にしなかったけれど、誰もがその名を想像しただろう。
 クラウディア嬢からの話と総合すると彼らは影を放つだけではなく、王家一族に何世代にも渡って呪いを掛けてきた。つまり自作自演を続けてきたということになる。

 おそらく呪いとは影の引き寄せと過敏に悪影響を及ぼす体質。彼らは影を直接人に憑けることも可能だが、たびたび王族に関する物を手に入れることは難しかったはず。だから引き寄せ体質になる呪いを掛けた。後は適当に影を放っておけば、勝手に取り憑いてくれるという寸法だ。
 彼らにとって、エスメラルダ様の影を見る能力を継ぐ星形の痣は呪われた証として好都合だったに違いない。

 ベルモンテ家が当時、オーギュスト国王陛下に何と説明したのか分からない。陛下の依頼でルイス殿下に影を憑けて一度は解こうとしたが、エスメラルダ様が最期の力で末代までに至る強力な呪いを掛けたと言ったのかもしれない。

 何にしろ、王家はベルモンテ家に弱みを握られたも同然だっただろう。我が息子を自らの意思で呪わせ、何の罪もない一人の女性を生け贄とすることでルイス殿下の意思を強制的に排除し、同時に王家に向けられる民の批判を逸らせたのだから。

 ルイス殿下が目覚めた時、どんな絶望を味わったのだろうか。自分の知らぬ内に愛する女性が処刑され、一番信頼する側近を失っていた現実に。
 王家のためを思ったオーギュスト陛下の身勝手な決断は、誰一人幸せにすることはなかった。

 私利私欲のために現在も呪いを掛け続けるベルモンテ家は許しがたい。けれどそれ以上に、ひどい謀略を最終的に決断して行使したのは他でもない王族、オーギュスト陛下だ。

「国王が王太子に呪いを掛けるよう命じていたとはな。まさにこの国の黒歴史だ」

 疲れたように呟く殿下が私に自嘲の笑みを見せる。

「そうですね。エスメラルダ様に対する仕打ちのことを考えますと――王族の人間どもも同罪よ! 末代まで祟られろ!」

 そこまで言い切ったものの、私はため息をついた。

「と、思っておりましたが、罪を負うべきはオーギュスト国王陛下であり、その子孫には何の罪もないでしょう。何よりもエスメラルダ様がそれを望んでおりません」

 きっと呪いを解くために掛ける方法も同時に学んだはずだ。彼女はできたはずなのにそれをしなかった。最期まで呪いを解こうとしていた。ならば当事者でもない私がこれ以上、王族を責め立てることはできないだろう。
 殿下はどこかほっとした表情を浮かべたように見えた。

「我々王族は彼女に……許されるだろうか」
「あーら。殿下! 随分と甘えたことをおっしゃるのですね。それとこれは別問題ですよ」

 許しを請う殿下を前に、望む言葉をあげられないのが私という人間です。

「実に四百年も冤罪で貶められたのを、現陛下を含めてたかだが四、五十年生きた程度の王族わかぞうらにちょろちょろと謝られたからと言って、やすやすと許せるでしょうか。答えは――否!」

 びしりと人差し指を突きつけると殿下は一瞬身を引いた後、苦笑いなさった。

「手厳しいな」
「わたくしが手を緩めたら、一体他の誰が手厳しくしましょうか」

 私は誰もやってのけないことを王族のために敢えてやってあげているのです。さあ、ありがたがれ!

「そもそもですね。エスメラルダ様は何ら関与していない人間に謝罪されたところで、お困りになるでしょう」

 私はユリアに視線を移す。
 彼女は、ご両親に直接手をかけた当事者ではないデレク管理官を裁くことはできなかった。けれど許すこともできなかった。間接的に関わった彼をどう許せばいいのか分からなかったからだ。きっとエスメラルダ様もそうに違いない。

「……そうだな」
「今、王家の方々にできることは、エスメラルダ様の埋葬された地を特定して墓碑を立てて奉祀し、名誉を回復させることではないでしょうか。――ユリア、エスメラルダ様が埋葬された地は書かれていない?」

 ユリアはテーブルに置いた手記を持ち上げて再度確認する。

「書かれていませんね」
「待ってください。その裏に何か小さく書かれているようです」

 ユリアの正面に座るジェラルドさんが何かに気づいたようだ。その言葉に彼女は裏返した。

「確かに埋葬地という文字と地図が。ですが、ブラックウェル様の字とは異なって見えます」
「彼は処刑を止めようとしたんだ。埋葬地を知らされるはずがない。もしかするとマクレ騎士が書いたものかもしれないな」

 殿下はユリアから手渡された手記に視線を落とす。

「え? この手記を見逃した上に、埋葬地まで書き足したとおっしゃるのですか? なぜでしょう。国王陛下に忠実な人物だったようですが」
「彼もまた感情を持つ人間だからだ」

 人間だからブラックウェル騎士の気持ちを慮って見逃した。……のかもしれない。今となっては分からないけれど。

「さて。では行くか。――エスメラルダ嬢が眠る地に」
「……は。はい!? 今からですか!?」

 殿下の突然すぎる提案に私は目を丸くした。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...