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第245話 あなたが望む言葉は
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殿下って肝心な所で配慮が足りないのよね、配慮がさ!
気まずく再び咳払いしようと考えたところで、それを救ってくれるかのようにジェラルドさんが口を開いた。
「しかしエスメラルダ様が呪いを掛けた張本人ではないとなりますと、ルイス王太子殿下を初め、代々続く呪いを掛けたのはやはり」
ベルモンテ家。
誰もその名を口にしなかったけれど、誰もがその名を想像しただろう。
クラウディア嬢からの話と総合すると彼らは影を放つだけではなく、王家一族に何世代にも渡って呪いを掛けてきた。つまり自作自演を続けてきたということになる。
おそらく呪いとは影の引き寄せと過敏に悪影響を及ぼす体質。彼らは影を直接人に憑けることも可能だが、たびたび王族に関する物を手に入れることは難しかったはず。だから引き寄せ体質になる呪いを掛けた。後は適当に影を放っておけば、勝手に取り憑いてくれるという寸法だ。
彼らにとって、エスメラルダ様の影を見る能力を継ぐ星形の痣は呪われた証として好都合だったに違いない。
ベルモンテ家が当時、オーギュスト国王陛下に何と説明したのか分からない。陛下の依頼でルイス殿下に影を憑けて一度は解こうとしたが、エスメラルダ様が最期の力で末代までに至る強力な呪いを掛けたと言ったのかもしれない。
何にしろ、王家はベルモンテ家に弱みを握られたも同然だっただろう。我が息子を自らの意思で呪わせ、何の罪もない一人の女性を生け贄とすることでルイス殿下の意思を強制的に排除し、同時に王家に向けられる民の批判を逸らせたのだから。
ルイス殿下が目覚めた時、どんな絶望を味わったのだろうか。自分の知らぬ内に愛する女性が処刑され、一番信頼する側近を失っていた現実に。
王家のためを思ったオーギュスト陛下の身勝手な決断は、誰一人幸せにすることはなかった。
私利私欲のために現在も呪いを掛け続けるベルモンテ家は許しがたい。けれどそれ以上に、ひどい謀略を最終的に決断して行使したのは他でもない王族、オーギュスト陛下だ。
「国王が王太子に呪いを掛けるよう命じていたとはな。まさにこの国の黒歴史だ」
疲れたように呟く殿下が私に自嘲の笑みを見せる。
「そうですね。エスメラルダ様に対する仕打ちのことを考えますと――王族の人間どもも同罪よ! 末代まで祟られろ!」
そこまで言い切ったものの、私はため息をついた。
「と、思っておりましたが、罪を負うべきはオーギュスト国王陛下であり、その子孫には何の罪もないでしょう。何よりもエスメラルダ様がそれを望んでおりません」
きっと呪いを解くために掛ける方法も同時に学んだはずだ。彼女はできたはずなのにそれをしなかった。最期まで呪いを解こうとしていた。ならば当事者でもない私がこれ以上、王族を責め立てることはできないだろう。
殿下はどこかほっとした表情を浮かべたように見えた。
「我々王族は彼女に……許されるだろうか」
「あーら。殿下! 随分と甘えたことをおっしゃるのですね。それとこれは別問題ですよ」
許しを請う殿下を前に、望む言葉をあげられないのが私という人間です。
「実に四百年も冤罪で貶められたのを、現陛下を含めてたかだが四、五十年生きた程度の王族らにちょろちょろと謝られたからと言って、やすやすと許せるでしょうか。答えは――否!」
びしりと人差し指を突きつけると殿下は一瞬身を引いた後、苦笑いなさった。
「手厳しいな」
「わたくしが手を緩めたら、一体他の誰が手厳しくしましょうか」
私は誰もやってのけないことを王族のために敢えてやってあげているのです。さあ、ありがたがれ!
「そもそもですね。エスメラルダ様は何ら関与していない人間に謝罪されたところで、お困りになるでしょう」
私はユリアに視線を移す。
彼女は、ご両親に直接手をかけた当事者ではないデレク管理官を裁くことはできなかった。けれど許すこともできなかった。間接的に関わった彼をどう許せばいいのか分からなかったからだ。きっとエスメラルダ様もそうに違いない。
「……そうだな」
「今、王家の方々にできることは、エスメラルダ様の埋葬された地を特定して墓碑を立てて奉祀し、名誉を回復させることではないでしょうか。――ユリア、エスメラルダ様が埋葬された地は書かれていない?」
ユリアはテーブルに置いた手記を持ち上げて再度確認する。
「書かれていませんね」
「待ってください。その裏に何か小さく書かれているようです」
ユリアの正面に座るジェラルドさんが何かに気づいたようだ。その言葉に彼女は裏返した。
「確かに埋葬地という文字と地図が。ですが、ブラックウェル様の字とは異なって見えます」
「彼は処刑を止めようとしたんだ。埋葬地を知らされるはずがない。もしかするとマクレ騎士が書いたものかもしれないな」
殿下はユリアから手渡された手記に視線を落とす。
「え? この手記を見逃した上に、埋葬地まで書き足したとおっしゃるのですか? なぜでしょう。国王陛下に忠実な人物だったようですが」
「彼もまた感情を持つ人間だからだ」
人間だからブラックウェル騎士の気持ちを慮って見逃した。……のかもしれない。今となっては分からないけれど。
「さて。では行くか。――エスメラルダ嬢が眠る地に」
「……は。はい!? 今からですか!?」
殿下の突然すぎる提案に私は目を丸くした。
気まずく再び咳払いしようと考えたところで、それを救ってくれるかのようにジェラルドさんが口を開いた。
「しかしエスメラルダ様が呪いを掛けた張本人ではないとなりますと、ルイス王太子殿下を初め、代々続く呪いを掛けたのはやはり」
ベルモンテ家。
誰もその名を口にしなかったけれど、誰もがその名を想像しただろう。
クラウディア嬢からの話と総合すると彼らは影を放つだけではなく、王家一族に何世代にも渡って呪いを掛けてきた。つまり自作自演を続けてきたということになる。
おそらく呪いとは影の引き寄せと過敏に悪影響を及ぼす体質。彼らは影を直接人に憑けることも可能だが、たびたび王族に関する物を手に入れることは難しかったはず。だから引き寄せ体質になる呪いを掛けた。後は適当に影を放っておけば、勝手に取り憑いてくれるという寸法だ。
彼らにとって、エスメラルダ様の影を見る能力を継ぐ星形の痣は呪われた証として好都合だったに違いない。
ベルモンテ家が当時、オーギュスト国王陛下に何と説明したのか分からない。陛下の依頼でルイス殿下に影を憑けて一度は解こうとしたが、エスメラルダ様が最期の力で末代までに至る強力な呪いを掛けたと言ったのかもしれない。
何にしろ、王家はベルモンテ家に弱みを握られたも同然だっただろう。我が息子を自らの意思で呪わせ、何の罪もない一人の女性を生け贄とすることでルイス殿下の意思を強制的に排除し、同時に王家に向けられる民の批判を逸らせたのだから。
ルイス殿下が目覚めた時、どんな絶望を味わったのだろうか。自分の知らぬ内に愛する女性が処刑され、一番信頼する側近を失っていた現実に。
王家のためを思ったオーギュスト陛下の身勝手な決断は、誰一人幸せにすることはなかった。
私利私欲のために現在も呪いを掛け続けるベルモンテ家は許しがたい。けれどそれ以上に、ひどい謀略を最終的に決断して行使したのは他でもない王族、オーギュスト陛下だ。
「国王が王太子に呪いを掛けるよう命じていたとはな。まさにこの国の黒歴史だ」
疲れたように呟く殿下が私に自嘲の笑みを見せる。
「そうですね。エスメラルダ様に対する仕打ちのことを考えますと――王族の人間どもも同罪よ! 末代まで祟られろ!」
そこまで言い切ったものの、私はため息をついた。
「と、思っておりましたが、罪を負うべきはオーギュスト国王陛下であり、その子孫には何の罪もないでしょう。何よりもエスメラルダ様がそれを望んでおりません」
きっと呪いを解くために掛ける方法も同時に学んだはずだ。彼女はできたはずなのにそれをしなかった。最期まで呪いを解こうとしていた。ならば当事者でもない私がこれ以上、王族を責め立てることはできないだろう。
殿下はどこかほっとした表情を浮かべたように見えた。
「我々王族は彼女に……許されるだろうか」
「あーら。殿下! 随分と甘えたことをおっしゃるのですね。それとこれは別問題ですよ」
許しを請う殿下を前に、望む言葉をあげられないのが私という人間です。
「実に四百年も冤罪で貶められたのを、現陛下を含めてたかだが四、五十年生きた程度の王族らにちょろちょろと謝られたからと言って、やすやすと許せるでしょうか。答えは――否!」
びしりと人差し指を突きつけると殿下は一瞬身を引いた後、苦笑いなさった。
「手厳しいな」
「わたくしが手を緩めたら、一体他の誰が手厳しくしましょうか」
私は誰もやってのけないことを王族のために敢えてやってあげているのです。さあ、ありがたがれ!
「そもそもですね。エスメラルダ様は何ら関与していない人間に謝罪されたところで、お困りになるでしょう」
私はユリアに視線を移す。
彼女は、ご両親に直接手をかけた当事者ではないデレク管理官を裁くことはできなかった。けれど許すこともできなかった。間接的に関わった彼をどう許せばいいのか分からなかったからだ。きっとエスメラルダ様もそうに違いない。
「……そうだな」
「今、王家の方々にできることは、エスメラルダ様の埋葬された地を特定して墓碑を立てて奉祀し、名誉を回復させることではないでしょうか。――ユリア、エスメラルダ様が埋葬された地は書かれていない?」
ユリアはテーブルに置いた手記を持ち上げて再度確認する。
「書かれていませんね」
「待ってください。その裏に何か小さく書かれているようです」
ユリアの正面に座るジェラルドさんが何かに気づいたようだ。その言葉に彼女は裏返した。
「確かに埋葬地という文字と地図が。ですが、ブラックウェル様の字とは異なって見えます」
「彼は処刑を止めようとしたんだ。埋葬地を知らされるはずがない。もしかするとマクレ騎士が書いたものかもしれないな」
殿下はユリアから手渡された手記に視線を落とす。
「え? この手記を見逃した上に、埋葬地まで書き足したとおっしゃるのですか? なぜでしょう。国王陛下に忠実な人物だったようですが」
「彼もまた感情を持つ人間だからだ」
人間だからブラックウェル騎士の気持ちを慮って見逃した。……のかもしれない。今となっては分からないけれど。
「さて。では行くか。――エスメラルダ嬢が眠る地に」
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殿下の突然すぎる提案に私は目を丸くした。
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