つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第247話 答えは出せない

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「風が気持ちいいですね。それにとても綺麗な景色です」

 私は横に流れる景色を見ながら、背後のジェラルドさんに話しかけた。
 馬に乗っている分、いつもより目線が高くなって視界が開けた気分になる。

「ええ。そうですね。お天気も良くて気持ちいい日です」
「何か育てているのでしょうか」
「はい。この辺りは王室に届けられる農作物となります」

 王室御用達の畑というわけだ。きっと品質はもちろんのこと、美しさなど厳選された物が献上されるのだろう。ここでもお花の時のように、食品廃棄が起こっていないか気になる。後で殿下をとっちめよう。――違った。問い詰めよう。

「それにしても美しい国ですね。わたくしたちがこの平和で美しい景色を感じていられるのもルイス殿下が玉座に就かれたからなのでしょうか」

 もちろん今も貧民層があり、完璧な国だというわけではないが、それでも決断力と実行力のあるルイス殿下がこの国をより良い国へと導いたのだろうか。もしかしたら、殿下を玉座に押し上げたオーギュスト陛下の決断もそこに含まれていて。
 そう思うと何だか悲しくなった。

「はいとも、いいえとも言えるでしょうか」
「え?」

 振り返ると、少し困ったように微笑むジェラルドさんを見ることができた。

「ルイス殿下は確かに今の国へと続く流れを作ったのでしょう。けれど、もしかしたら他の方が玉座に就かれていたとしても別の美しい国になったかもしれません。あるいは戦乱の世になったかもしれません。ですが現実はルイス殿下が国王陛下になられた。今も昔もその問いに答えを出すことはとても難しいです」

 ルイス殿下が国王にならなかった時の世界を見ることができない以上、オーギュスト陛下の決断が間違っていたのか、それとも正しかったのか、誰にも知ることはできない。そういうことになる。

「ただ、これから先に願うことは、誰かの犠牲の上に成り立つものではなく、誰かの協力の上に成り立つものであってほしいということですね」
「……はい」


 しばらく平地を走っていたが、徐々に森が近くなってきた。まさか森の中に埋葬地があるのだろうか。

「殿下、あの森の中にあるのでしょうか」

 並走する殿下に尋ねてみる。

「地図と言ってもあくまでも簡易的なものだが、おそらくはその辺りになりそうだ。何と言っても四百年も前の話となるからな。地形もそれなりに変わっているだろう」

 当時は森ではなかったかもしれないということかな。見るからに深く茂って暗い感じの森で何だか薄気味悪――はっ。
 考えてみればここはエスメラルダ様が埋葬されているだけではなく、処刑された罪人が眠る地でもあるのでは。となると。

「殿下! この地は」

 森の入り口までやって来た所で慌てて殿下を見つめると、既に顔色を変えていた。

「ああ。まずいな。……非常にまずい。影が森を包み込んでいるようだ」
「殿下はここでお待ちください。わたくしたちだけで参ります」
「いや。そういうわけにもいかない」

 殿下は首を振って私の提案を却下する。

「無理をなさらない方が。突如、症状に見舞われて馬から落ちたらどうなさるのです」
「それもそうだな。とりあえず馬から下りよう。ここからは歩きとする」

 強行するつもりのようだ。殿下が馬から下りたので、私たちも仕方なくならった。

「ではここに繋げておきましょう」

 ジェラルドさんとユリアが馬を木に繋げているのを見ながら、再度殿下に確認する。

「殿下、本当に大丈夫ですか?」
「ああ。君がいるなら大丈夫だ」

 殿下に憑く前に祓えたら良いが、そう上手く行くのかどうか。

「君が先を歩いて祓いながら進んでくれればいい」
「まあ、酷いお方! か弱き淑女を前に歩かせるだなんて」

 少し抗議してみせたものの、それが一番良さそうだ。

「ロザンヌ様はわ――」
「ロザンヌ様は私がお守りいたします」

 こちらに振り返ったジェラルドさんとユリアがほとんど同時に声を揃えたけれど、彼女が遮るように言い切った。

「ありがとう。ユリア」

 ジェラルドさんには殿下を第一に守っていただかなくてはいけない。私はユリアの言葉に頷く。

「いえ。女性を先頭になどできません。私が前に行きます」
「ジェラルド様。ユリアを見くびらないでくださいませ。ユリアは毒蛇であろうが、熊であろうが一撃で追い払いましたよ」
「お言葉ですが、ロザンヌ様。熊は一撃では駆逐できていません」

 胸を張る私にユリアが口を挟んだ。

「それはそうだろう。言い過ぎだ」

 殿下が呆れた視線を私に寄越したので、私は首を傾げる。
 記憶違い?

「あら。そうだったかしら?」
「はい。子供の頃でしたし、最低、五打撃は必要だったかと」
「……うん。ジェラルド。彼女に先頭を任せよう」

 顔を引きつらせた殿下はジェラルドさんにそう言った。
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