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第248話 案内するのは
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ユリアは私よりやや先行しつつ横並びに歩く。私の後ろには殿下、ユリアの後ろにはジェラルドさんがいる状態だ。
足元はやはり整備されておらず、けもの道すらない。大きな野生動物がこの辺りを通っていないことと、この森には人も長らく入っていないことが窺い知れる。
もちろん自然の中においては常に油断してはならないけれど。
「あ。少しお待ちください」
私は念の為に用意しておいたリボンの切れ端を枝に括り付けようと背伸びしたら、横からリボンを抜き取って殿下が付けてくれた。
「……ありがとう。何と言うか情けないな。帰り道の目印まで用意してくれているとは」
「お気になさらずに。わたくしたちは森を庭として育っておりますもの。都会っ子の殿下より慣れていましてよ」
「都会っ子……」
せめてリボンは付けさせてくれということで、全てのリボンを殿下の手の平に落とすようにして手渡す。
「ところで殿下、この方向で間違いないのですか?」
先ほどから地図すら確認していないようだけれど。
振り返って尋ねてみると、殿下は私の足元に視線をやる。
「ああ。ネロが案内してくれている」
「……ネロが」
エスメラルダ様を感じているのだろうか。それにエスメラルダ様と共に火にかけられたとあったから、ネロ自身も一緒に眠っているはず。
と、その時。
「――っ!」
ユリアが突如、顔を強ばらせてびくりと足を止め、その異変をすぐに感じ取ったジェラルドさんが彼女の腕を引いて背中で庇った。
「ユリアさん、一体何が。――わっ!? ロ、ロザンヌ様、いけません!」
しゃがみ込み、唯一目に入った蛙を地面に落ちている枝でツンツンとつつく私にジェラルドさんが驚きの声を上げる。
「うーん。特に罠もないみたいですし、生物はこの蛙しか見当たりませんよ。これも毒がないごくごく普通の蛙ですし。ユリア、一体どうしたの?」
ジェラルドさんの背後にいるユリアへと視線を送ると、珍しく瞳が動揺に揺れたきまりが悪そうな表情を浮かべていた。
「お騒がせして申し訳ありません。生憎と蛙だけは苦手でして」
「あら。そうだったかしら。……ん? 蛙?」
蛙は横道へと跳んで逃げて行ったので、スカートを払って立ち上がると首を傾げて古い記憶を引っ張り出す。
「まさかユリアの驚く顔が見たかったからといって、わたくしが幼い頃、あなたの鞄に蛙を十数匹仕込んだせいではないわよね?」
「悪魔か君は……。むしろそれ以外に何がある」
悪魔呼ばわりする殿下に私はむっと唇を尖らした。
「まあ! 悪魔とは失礼ですね」
表情が乏しかったユリアに、何とか違う感情を生み出してほしかっただけなのに。
「子供なりに必死に考えた苦肉の策だったのですよ」
「それを言うなら愚策だ」
「殿下にはこのわたくしの親心が分かりませんか」
胸に手をやる私に殿下は白けた視線を寄越す。
「子供の時に親心は分かっていなかっただろう、普通に」
「わたくしの心は早熟でしたから分かっていましたぁー」
「ないない」
殿下と私が言い争いをしていると。
「ジェラルド様、申し訳ありません。もう大丈夫ですから」
「――あ。こ、こちらこそ失礼いたしました」
ユリアがおずおずとジェラルドさんの背中から出てきた。いつもより明らかに覇気がない。
「お恥ずかしい所を見せました」
「いえ。とんでもないことです。誰にでも苦手なものくらいありますから」
穏やかに微笑むジェラルドさんにユリアはさらに気まずそうだ。
ここまで追い込まれている彼女の姿を見るのは楽しいし、嬉しい気持ちになる。
思わぬ彼女の弱点と彼とのやり取りに自然と笑みがこぼれた。
「悪い顔をしているぞ」
「ですから失礼ですね。わたくしは微笑ましく見ているのですよ」
殿下の指摘に私は眉を上げて、また臨戦態勢に入ろうかとしたところ。
「ロザンヌ様。ありがとうございます。行きましょう」
ユリアに声をかけられて私は息を吐き、気持ちを切り替えた。
「ええ。参りましょう」
その後、再び私たちは先頭に立ち、時には影を祓いながら歩く。
ジェラルドさんやユリアから見える私は、ただ殿下の指示した場所に突っ立っている姿だけだろう。私も何らかの仕草をしてみせた方が良いだろうか。……悩む。
影は開けた場所にいるのではなく、木々のひっそりした場所にいるようだ。つまり殿下のお言葉通り、この地に埋葬された人々は墓標一つ立てられず、うち捨てられた形になっているということだ。
殿下は、ネロの影祓いは闇の足枷が外れるともおっしゃっていた。自我すら失われて、ただ自らの闇に囚われて苦しんでいた魂が解放されていることを願うばかりだ。
「どうやら……ここのようだ」
殿下の言葉に私たちは足を止めた。
足元はやはり整備されておらず、けもの道すらない。大きな野生動物がこの辺りを通っていないことと、この森には人も長らく入っていないことが窺い知れる。
もちろん自然の中においては常に油断してはならないけれど。
「あ。少しお待ちください」
私は念の為に用意しておいたリボンの切れ端を枝に括り付けようと背伸びしたら、横からリボンを抜き取って殿下が付けてくれた。
「……ありがとう。何と言うか情けないな。帰り道の目印まで用意してくれているとは」
「お気になさらずに。わたくしたちは森を庭として育っておりますもの。都会っ子の殿下より慣れていましてよ」
「都会っ子……」
せめてリボンは付けさせてくれということで、全てのリボンを殿下の手の平に落とすようにして手渡す。
「ところで殿下、この方向で間違いないのですか?」
先ほどから地図すら確認していないようだけれど。
振り返って尋ねてみると、殿下は私の足元に視線をやる。
「ああ。ネロが案内してくれている」
「……ネロが」
エスメラルダ様を感じているのだろうか。それにエスメラルダ様と共に火にかけられたとあったから、ネロ自身も一緒に眠っているはず。
と、その時。
「――っ!」
ユリアが突如、顔を強ばらせてびくりと足を止め、その異変をすぐに感じ取ったジェラルドさんが彼女の腕を引いて背中で庇った。
「ユリアさん、一体何が。――わっ!? ロ、ロザンヌ様、いけません!」
しゃがみ込み、唯一目に入った蛙を地面に落ちている枝でツンツンとつつく私にジェラルドさんが驚きの声を上げる。
「うーん。特に罠もないみたいですし、生物はこの蛙しか見当たりませんよ。これも毒がないごくごく普通の蛙ですし。ユリア、一体どうしたの?」
ジェラルドさんの背後にいるユリアへと視線を送ると、珍しく瞳が動揺に揺れたきまりが悪そうな表情を浮かべていた。
「お騒がせして申し訳ありません。生憎と蛙だけは苦手でして」
「あら。そうだったかしら。……ん? 蛙?」
蛙は横道へと跳んで逃げて行ったので、スカートを払って立ち上がると首を傾げて古い記憶を引っ張り出す。
「まさかユリアの驚く顔が見たかったからといって、わたくしが幼い頃、あなたの鞄に蛙を十数匹仕込んだせいではないわよね?」
「悪魔か君は……。むしろそれ以外に何がある」
悪魔呼ばわりする殿下に私はむっと唇を尖らした。
「まあ! 悪魔とは失礼ですね」
表情が乏しかったユリアに、何とか違う感情を生み出してほしかっただけなのに。
「子供なりに必死に考えた苦肉の策だったのですよ」
「それを言うなら愚策だ」
「殿下にはこのわたくしの親心が分かりませんか」
胸に手をやる私に殿下は白けた視線を寄越す。
「子供の時に親心は分かっていなかっただろう、普通に」
「わたくしの心は早熟でしたから分かっていましたぁー」
「ないない」
殿下と私が言い争いをしていると。
「ジェラルド様、申し訳ありません。もう大丈夫ですから」
「――あ。こ、こちらこそ失礼いたしました」
ユリアがおずおずとジェラルドさんの背中から出てきた。いつもより明らかに覇気がない。
「お恥ずかしい所を見せました」
「いえ。とんでもないことです。誰にでも苦手なものくらいありますから」
穏やかに微笑むジェラルドさんにユリアはさらに気まずそうだ。
ここまで追い込まれている彼女の姿を見るのは楽しいし、嬉しい気持ちになる。
思わぬ彼女の弱点と彼とのやり取りに自然と笑みがこぼれた。
「悪い顔をしているぞ」
「ですから失礼ですね。わたくしは微笑ましく見ているのですよ」
殿下の指摘に私は眉を上げて、また臨戦態勢に入ろうかとしたところ。
「ロザンヌ様。ありがとうございます。行きましょう」
ユリアに声をかけられて私は息を吐き、気持ちを切り替えた。
「ええ。参りましょう」
その後、再び私たちは先頭に立ち、時には影を祓いながら歩く。
ジェラルドさんやユリアから見える私は、ただ殿下の指示した場所に突っ立っている姿だけだろう。私も何らかの仕草をしてみせた方が良いだろうか。……悩む。
影は開けた場所にいるのではなく、木々のひっそりした場所にいるようだ。つまり殿下のお言葉通り、この地に埋葬された人々は墓標一つ立てられず、うち捨てられた形になっているということだ。
殿下は、ネロの影祓いは闇の足枷が外れるともおっしゃっていた。自我すら失われて、ただ自らの闇に囚われて苦しんでいた魂が解放されていることを願うばかりだ。
「どうやら……ここのようだ」
殿下の言葉に私たちは足を止めた。
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