つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第251話 見つかることはない

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 ノエル・ブラックウェル様の手記が見つかって以降、新たな情報が出てくることもなく、平凡な日々が続いている。

 はじめの頃は、国王陛下や王妃殿下が何か手記を残していないかと思っていたけれど、呪いの発端はオーギュスト国王陛下ということが明らかになった。
 王妃殿下はきっと何も知らされていなかっただろうし、国王陛下が自らの悪事を書き残しておくこともないだろうから、おそらくだけれど、これ以上の手がかりとなる手記はもう。

「――についてはどう思うかね。ダングルベール」
「もう見つかることはないのではないかと思っている」
「ん?」
「……はっ!?」

 気付けば先生に当てられていて、反射的に返事をしてしまったらしい。
 私はがたりと音を鳴らして慌てて席から立ち上がる。

「わ、わたくしには答えを見つけることは到底できないかと考えております!」 
「……わ、分かった。もうよろしい。座りなさい」

 堂々と分かりませんと言い張った私に気圧された先生は席に着くよう促した。


 授業が終わって迎えの馬車停留場所へと向かうと、ジェラルドさんとユリアがいつものように待機しているのが目に入った。

 もうすっかり日常化した光景だ。けれど、一つ変わったことがあるとすれば、ジェラルドさんに対して、いや、人に対してユリアの態度が軟化したことだろうか。彼女自身も変わろうとしているからだと思う。
 いずれ訪れることになるご両親の前で、立派な姿を見せたいからかもしれない。

 なんて、勝手なことを考えていたらしんみりしてきてしまった。
 私は頭を振ると、彼らの元へと元気よく走って行ってユリアに抱きつく。

「ユリア、お待たせー!」
「お疲れ様です、ロザンヌ様」

 ユリアは私が勢いよく飛びつこうが、全く身じろぎ一つせずに淡々と受け答えをする。いや、ほんの少し笑顔はあるかな。

「うん。いつもありがとうね」

 私は彼女から離れると、ジェラルドさんにも丁寧に挨拶を交わして馬車へと乗り込んだ。
 馬車が動き出したところで話を切り出す。

「ユリア、翻訳は進んでいるの?」
「はい。順調に」

 ユリアが順調だと言うのだからまさに順調なのだろう。今は、以前殿下が持って来た一冊の歴史書のオーギュスト王時代を翻訳しているらしい。

「そう言えば、書庫室に入るために殿下は何か配慮してくださっているの?」
「はい。書庫室に出入りしても不自然が無いように掃除婦として就くことになりました」
「そうなの? 同志よ。掃除婦の世界へようこそ!」

 両手を広げて迎えようとしたけれど、ユリアは私の胸に飛び込んでくることはなく、むしろ少し嫌そうな顔をされた気がした。

 この手は行き場は一体……。
 私は泣く泣く手を下ろし、取り繕うためにこほんと咳払いする。

「でも書庫室に入るために別の役職に就くとなると、また特別扱いみたいになるわね。……その。他の同僚の方とのお付き合いとかは大丈夫?」
「はい」

 ユリアは私に黙っていることはあっても、嘘はつかない。だから彼女がはいと言うのならば、それが正しいのだろう。

「分かったわ。ただし、何か困った事があったら言うことは約束してね」
「はい」

 素直に頷いてくれるので、ここは彼女の判断に任せよう。

「ああ、そう言えば。これまで誰がお部屋を掃除していたのかしら」
「デレク様とクロエさんです」
「なるほど」

 クロエさんは殿下の乳母で、殿下の体質もご存知とのことだった。つまり、クロエさんもこれまでずっと王家とご一緒に秘密を抱え込まれて来られたということだ。

「王家をお守り、お支えすることはさぞかし重責だったことでしょうね。……おふたりとも」

 特にデレク管理官は。
 私はユリアを横目で見る。

 デレク管理官は、ユリアご一家に対する罪の意識を背負いつつ生きてこられたのは間違いないだろう。

 まるで他人事のように聞き流して返事をしないユリアから目の前のジェラルドさんを見ると、彼は静かに頷いた。

「そうですね。信頼を得る喜びと責任の重さを感じる苦しさは同時に感じられていたでしょう。……ロザンヌ様は大丈夫でしょうか。細い肩に重荷がかかっていらっしゃるのでは」

 私の身まで案じてくださるだなんて、相変わらずお優しい方だ。

「お気遣いありがとうございます。わたくしは大丈夫です。肩はほら、この通りとても軽いです」

 肉体的な問題ではないと分かってはいるが、私は肩を軽く回してみせるとジェラルドさんは穏やかに微笑まれた。
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