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第271話 非日常はいつだって突然に
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今日はいつものように登校して、いつもの学校生活を過ごして、いつものように帰宅するはずだった。しかし非日常とは、こちらの都合などお構いなしで突然やってくるものだ。
本日の授業が終了し、クラスメートと少し話をしている間にマリエル嬢のお姿が見えなくなった。彼女は一体どこに行ったのだろう。昇降口までご一緒させていただこうと思っていたのに。
彼女の席を見るとまだ鞄があるので、既に帰宅したということはないけれど。もしかしたら、またグリント伯爵のご子息様とお会いしているのかもしれない。だとしたらお時間もかかるだろうし、帰ろうか。
私は少し待っていたが、徐々にクラスメートは教室から出て行ってその数を減らし、気付けば教室にぽつんと一人取り残される。
ジェラルドさんやユリアを待たせていることだし、マリエル嬢は戻って来る様子もなさそうだし、私も教室を出ることにした。
すると。
上級生を示すネクタイの色が違った男子生徒が顔を覗かせた。
見かけない顔だと思ったが、違った。まさに今考えていた、マリエル嬢の想い人、ギヨーム・グリント伯爵子息だ。
私は彼の元に歩いて行く。
「あの」
もしかしてマリエル嬢を探しに来られたのだろうか。だとしたら彼女はどこに行ったのだろう。
人気の無い今ならば聞いても大丈夫だろう。そう考えて尋ねようとしたが、一瞬早く彼が口を開いた。
「ねえ、君。ロザンヌ・ダングルベールという子を知っている? もう帰ってしまったのかな?」
「え? ロザンヌ・ダングルベールはわたくしですが」
「ああ、そうなんだ。良かった」
グリント様はほっとした表情を浮かべた。
「わたくしに何か?」
「うん。実はマリエル嬢は君の友達だよね。今、彼女と一緒にいたんだけど」
やはり一緒にいたらしい。
けれど、その彼が私に何の用なのか。
「実は彼女が大変なことになってね。君の名を呼んでいるんだ」
「え! マリエル様が!? 何があったのですか!?」
「一緒に来てくれるかな。歩きながら説明するよ」
「はい。参ります」
「ありがとう。じゃあ、行こう」
グリント様はやや早足で私を先導しながら話をしてくれる。
「君は僕とマリエル嬢の間柄について、彼女から聞いているかな」
「……はい」
「そっか。君も貴族の娘だから、自分の未来に制限があるのは重々分かっていると思う。もし君が家に従順な子だとしたら、僕たちの関係はとても不快に思うかもしれない。だけど僕たちに課せられた運命とか、家のことは別にして、今僕たち二人は純粋に恋愛を楽しんでいるんだ。それだけは理解してほしい」
私はマリエル嬢のお気持ちを大事にしたいと思った。だから当然、お二人の味方でいたいと考えた。けれど彼は今、恋愛を楽しんでいると言わなかったか。
マリエル嬢は恋をしている自分に幸せと喜びを感じている一方、罪悪感に苛まれて泣いていたのに。彼は純粋に……楽しんでいる?
ざらりとした嫌な気持ちになる。
「あ、でも。心配しなくても一線だけは越えないように節度を守っているよ。安心して」
私が返事をしなかったせいか、彼は少し苦笑いした様子でそう言った。
余計に心を波立たせるような言い方だ。しかし、今心配するべきはマリエル嬢のお体のこと。どのような状態なのか聞いてみよう。
「……ところでマリエル様はどうなさったのでしょうか」
「うん。実は彼女と会っている時に急に気分が悪くなったみたいでね。休んでいるんだ」
「気分が?」
「あ。ここだよ。ここにいる」
グリント様が足を止めた場所は資料室だった。
確かお二人の密会場所だ。
「医務室にお連れしないのですか」
「うん。もちろん連れて行きたいと思ってね」
まさか、この男。マリエル嬢と一緒にいるところを他の人に見られたくないから、私に連れて行かせようと考えたのか。
なんて人!
「どうぞ入って」
背中を押されてさらに苛立ちながら室内へと入ると、奥の方で床に倒れているマリエル嬢の姿が目に入った。
「マリエル様!?」
こんな状態の彼女を放置して私の所に来たの!?
本当にどうしようもないクズ男だ! こんな男に私の大切なお友達のマリエル嬢が懸想していただなんて!
悔しいやら悲しいやら、憤りを感じながら彼女の元へと駆け寄る。
「マリエル様!」
青ざめた顔で、荒い呼吸をなさっていたマリエル嬢がわずかに目を開けて唇を動かそうとする。
「ロザ……さ、ま」
「しっかりなさって。大丈夫ですよ! 今、医務室に連れて行きますからね!」
「……て」
紫色になった震える唇から出る言葉は掠れて聞き取れない。
私は耳を近づけるために膝をつく。
「何ですか? もう一度おっしゃって」
「ロ、さ、ま。にげ、て。――にげてっ」
「え? 逃げて……?」
言葉の意味を理解した直後、後頭部に強い衝撃が走って目の前が真っ白になり、最後に一瞬だけ冷たい床を肌に感じた。
本日の授業が終了し、クラスメートと少し話をしている間にマリエル嬢のお姿が見えなくなった。彼女は一体どこに行ったのだろう。昇降口までご一緒させていただこうと思っていたのに。
彼女の席を見るとまだ鞄があるので、既に帰宅したということはないけれど。もしかしたら、またグリント伯爵のご子息様とお会いしているのかもしれない。だとしたらお時間もかかるだろうし、帰ろうか。
私は少し待っていたが、徐々にクラスメートは教室から出て行ってその数を減らし、気付けば教室にぽつんと一人取り残される。
ジェラルドさんやユリアを待たせていることだし、マリエル嬢は戻って来る様子もなさそうだし、私も教室を出ることにした。
すると。
上級生を示すネクタイの色が違った男子生徒が顔を覗かせた。
見かけない顔だと思ったが、違った。まさに今考えていた、マリエル嬢の想い人、ギヨーム・グリント伯爵子息だ。
私は彼の元に歩いて行く。
「あの」
もしかしてマリエル嬢を探しに来られたのだろうか。だとしたら彼女はどこに行ったのだろう。
人気の無い今ならば聞いても大丈夫だろう。そう考えて尋ねようとしたが、一瞬早く彼が口を開いた。
「ねえ、君。ロザンヌ・ダングルベールという子を知っている? もう帰ってしまったのかな?」
「え? ロザンヌ・ダングルベールはわたくしですが」
「ああ、そうなんだ。良かった」
グリント様はほっとした表情を浮かべた。
「わたくしに何か?」
「うん。実はマリエル嬢は君の友達だよね。今、彼女と一緒にいたんだけど」
やはり一緒にいたらしい。
けれど、その彼が私に何の用なのか。
「実は彼女が大変なことになってね。君の名を呼んでいるんだ」
「え! マリエル様が!? 何があったのですか!?」
「一緒に来てくれるかな。歩きながら説明するよ」
「はい。参ります」
「ありがとう。じゃあ、行こう」
グリント様はやや早足で私を先導しながら話をしてくれる。
「君は僕とマリエル嬢の間柄について、彼女から聞いているかな」
「……はい」
「そっか。君も貴族の娘だから、自分の未来に制限があるのは重々分かっていると思う。もし君が家に従順な子だとしたら、僕たちの関係はとても不快に思うかもしれない。だけど僕たちに課せられた運命とか、家のことは別にして、今僕たち二人は純粋に恋愛を楽しんでいるんだ。それだけは理解してほしい」
私はマリエル嬢のお気持ちを大事にしたいと思った。だから当然、お二人の味方でいたいと考えた。けれど彼は今、恋愛を楽しんでいると言わなかったか。
マリエル嬢は恋をしている自分に幸せと喜びを感じている一方、罪悪感に苛まれて泣いていたのに。彼は純粋に……楽しんでいる?
ざらりとした嫌な気持ちになる。
「あ、でも。心配しなくても一線だけは越えないように節度を守っているよ。安心して」
私が返事をしなかったせいか、彼は少し苦笑いした様子でそう言った。
余計に心を波立たせるような言い方だ。しかし、今心配するべきはマリエル嬢のお体のこと。どのような状態なのか聞いてみよう。
「……ところでマリエル様はどうなさったのでしょうか」
「うん。実は彼女と会っている時に急に気分が悪くなったみたいでね。休んでいるんだ」
「気分が?」
「あ。ここだよ。ここにいる」
グリント様が足を止めた場所は資料室だった。
確かお二人の密会場所だ。
「医務室にお連れしないのですか」
「うん。もちろん連れて行きたいと思ってね」
まさか、この男。マリエル嬢と一緒にいるところを他の人に見られたくないから、私に連れて行かせようと考えたのか。
なんて人!
「どうぞ入って」
背中を押されてさらに苛立ちながら室内へと入ると、奥の方で床に倒れているマリエル嬢の姿が目に入った。
「マリエル様!?」
こんな状態の彼女を放置して私の所に来たの!?
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「しっかりなさって。大丈夫ですよ! 今、医務室に連れて行きますからね!」
「……て」
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私は耳を近づけるために膝をつく。
「何ですか? もう一度おっしゃって」
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