283 / 315
第283話 お礼待ちのセリアン様
しおりを挟む
クラウディア嬢が目覚めるまで待つというベルモンテ侯爵様を残し、私たちは監獄を後にした。
「ロザンヌ様、お疲れではありませんか」
「はい、ジェラルド様。お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
馬車の中では、行きと同じく殿下と横並びで座っている。窓際にぴったりと身を寄せる不自然な座り方をしなくても良い。ただそれだけのことだけれど、嬉しさと共に王家の呪いはようやく終止符を打ったんだなという気持ちが実感できる。
正直、頑張ったのはエスメラルダ様とネロで、私自身が何かを成し遂げたわけでもないけれど、それでも少しでもお役に立てて良かったと思う。
と、一人満足している横で、さっきから殿下の突き刺さるような視線を感じるのですが……。
「あの、殿下。何か? ……ええっと。何か怒っています?」
ようやく殿下に視線を向けると、殿下は腕と足を組み、不愉快そうに目を細めていた。
「さっきのことだ」
「さっき」
「クラウディア嬢が眠るベッドに一人で近付いたことだ」
「はあ」
それが何か。
不満げではあったけれど、怒られる程のことをしたつもりはない。
「一人で入って、もし彼女が危害を加えようとしたらどうするつもりだったんだ。あの至近距離だったら、ジェラルドも間に合わなかったかもしれないぞ」
「それはジェラルド様に失礼ではないでしょうか」
ジェラルドさんに視線を向けると、彼は肯定も否定もせず微笑むだけに留められた。大人だー。
「つまり君はジェラルドを信じて一人入ったと言うのか? 私を王太子殿下呼ばわりまでして」
すごく不満そうに睨み付けるのは止めていただけませんか……。と言いますか、王太子殿下は間違っていないかと思うのですが。
私は少し苦笑しながら答える。
「ジェラルド様ももちろん信じておりましたが、殿下を医務室とは言え、鉄格子の中へと入らせるわけには参りませんでしたから」
「君なら良いと言うのか」
「良いというわけではありませんが、少なくとも王族が足を踏み入れていい場所ではありません」
王族の思惑が介入して良い場所ではない。
「それは」
一瞬、殿下は何かを口にしようとしたが、そうだなと頷く。
「一つの椅子のために無実の誰かを貶めたり、傷つけたり、王族が王族を処する時代は終わりを告げた。王家がすべきことは、民の幸せのために何ができるか考え、動くことだ」
「はい。平等ではなくとも民が皆、幸せで笑顔となるような国づくりを」
私は笑みを浮かべるとエスメラルダ様のお言葉で返した。
念の為にもう一日お休みを取った翌日。
殿下からの熱い抱擁は割愛させていただくが、私はいつも通り学校に行くことになった。マリエル様とは拉致された日から今日が初めて会うことになる。どこから切り出せば良いだろうか。
馬車の中で一人悩み、結論が出ないまま学校に到着し、ジェラルドさんとユリアに見送られながら別れる。
すると。
「おはよう、ロザンヌ嬢」
「セリアン様! おはようございます」
校舎入り口で壁に背を任せるセリアン様が声をかけてきたので、慌てて駆け寄る。
朝に出会ったことはないので驚きだ。
「いつもこのお時間でしたか?」
「いや、違うよ。君は俺にお礼を言いたいだろうと思ってね。待っていてあげたよ」
「は、はぁ……」
確かにセリアン様のおかげで助かったので、遠回しにさあ礼を言えと言われなくてもですね、ご挨拶に伺おうと思っていましたよ……。
――あ。そっか。
私がお休みだったのをご存知なかったのね。だからいつまで経ってもお礼に来ないと思っていらしたのかもしれない。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この度の迅速な解決はセリアン様のお力があってのこととお聞きいたしました。誠にありがとうございます。実はわたくし、その件で昨日まで学校をお休みしておりました」
「うん。そうみたいだね」
「え?」
セリアン様はしまったという表情を見せた。
もしかしてお礼待ちではなく、私の体を心配して登校してくるのを待っていてくださったということだろうか。
「あー。ほら。マリアンジェラも少し心配そうだったからね。ああ。でも、彼女には今回のことは何も言っていないよ。余計に心配してしまうだろうから」
「ありがとうございます」
「それと王家が絡んだ話のようだし、詳しい事情は何も聞かないことにする」
さすがに公爵子息だ。やはり弁える所はしっかり弁えられている。
「まあ、君がどうしても話したいと言うなら聞いてやらないこともないけど」
「……大丈夫です」
私は苦笑いを返した。
「あ、そう」
少しつまらなく口を尖らせたものの、セリアン様はそれ以上食い下がろうとはなさらなかった。
「まあ。俺への挨拶は確かに受け取ったから、もういいよ。次はあちらへどうぞ」
「え?」
セリアン様が視線を流す方向にいたのはマリエル嬢だ。少し離れた所で居心地悪そうに体を小さくされている。
「マリエル様……。わたくしは一体、彼女にどんな言葉をかければいいのでしょうか」
「ん? まずはおはよう、でいいんじゃない?」
そういう意味ではなくて……。
呆れて目を細める私の肩に両手を置くとセリアン様はポンポンと叩く。
「肩張っているねー。ほら。肩の力を抜いて。彼女は君のお友達でしょ? 君の思いを自分の言葉でただ正直に伝えたらいいだけじゃない?」
「わたくしの思いを自分の言葉で……」
「そう。というわけで頑張って。俺はこれで」
セリアン様はにっと笑って身を翻すので、無意識に言葉を繰り返していた私は我に返り、慌ててその背に声をかける。
「あ。セ、セリアン様! 本当にありがとうございました」
「うん。君が無事で良かったよ。――じゃあね」
最後にそう呟くとセリアン様は笑顔で去って行った。
「ロザンヌ様、お疲れではありませんか」
「はい、ジェラルド様。お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
馬車の中では、行きと同じく殿下と横並びで座っている。窓際にぴったりと身を寄せる不自然な座り方をしなくても良い。ただそれだけのことだけれど、嬉しさと共に王家の呪いはようやく終止符を打ったんだなという気持ちが実感できる。
正直、頑張ったのはエスメラルダ様とネロで、私自身が何かを成し遂げたわけでもないけれど、それでも少しでもお役に立てて良かったと思う。
と、一人満足している横で、さっきから殿下の突き刺さるような視線を感じるのですが……。
「あの、殿下。何か? ……ええっと。何か怒っています?」
ようやく殿下に視線を向けると、殿下は腕と足を組み、不愉快そうに目を細めていた。
「さっきのことだ」
「さっき」
「クラウディア嬢が眠るベッドに一人で近付いたことだ」
「はあ」
それが何か。
不満げではあったけれど、怒られる程のことをしたつもりはない。
「一人で入って、もし彼女が危害を加えようとしたらどうするつもりだったんだ。あの至近距離だったら、ジェラルドも間に合わなかったかもしれないぞ」
「それはジェラルド様に失礼ではないでしょうか」
ジェラルドさんに視線を向けると、彼は肯定も否定もせず微笑むだけに留められた。大人だー。
「つまり君はジェラルドを信じて一人入ったと言うのか? 私を王太子殿下呼ばわりまでして」
すごく不満そうに睨み付けるのは止めていただけませんか……。と言いますか、王太子殿下は間違っていないかと思うのですが。
私は少し苦笑しながら答える。
「ジェラルド様ももちろん信じておりましたが、殿下を医務室とは言え、鉄格子の中へと入らせるわけには参りませんでしたから」
「君なら良いと言うのか」
「良いというわけではありませんが、少なくとも王族が足を踏み入れていい場所ではありません」
王族の思惑が介入して良い場所ではない。
「それは」
一瞬、殿下は何かを口にしようとしたが、そうだなと頷く。
「一つの椅子のために無実の誰かを貶めたり、傷つけたり、王族が王族を処する時代は終わりを告げた。王家がすべきことは、民の幸せのために何ができるか考え、動くことだ」
「はい。平等ではなくとも民が皆、幸せで笑顔となるような国づくりを」
私は笑みを浮かべるとエスメラルダ様のお言葉で返した。
念の為にもう一日お休みを取った翌日。
殿下からの熱い抱擁は割愛させていただくが、私はいつも通り学校に行くことになった。マリエル様とは拉致された日から今日が初めて会うことになる。どこから切り出せば良いだろうか。
馬車の中で一人悩み、結論が出ないまま学校に到着し、ジェラルドさんとユリアに見送られながら別れる。
すると。
「おはよう、ロザンヌ嬢」
「セリアン様! おはようございます」
校舎入り口で壁に背を任せるセリアン様が声をかけてきたので、慌てて駆け寄る。
朝に出会ったことはないので驚きだ。
「いつもこのお時間でしたか?」
「いや、違うよ。君は俺にお礼を言いたいだろうと思ってね。待っていてあげたよ」
「は、はぁ……」
確かにセリアン様のおかげで助かったので、遠回しにさあ礼を言えと言われなくてもですね、ご挨拶に伺おうと思っていましたよ……。
――あ。そっか。
私がお休みだったのをご存知なかったのね。だからいつまで経ってもお礼に来ないと思っていらしたのかもしれない。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この度の迅速な解決はセリアン様のお力があってのこととお聞きいたしました。誠にありがとうございます。実はわたくし、その件で昨日まで学校をお休みしておりました」
「うん。そうみたいだね」
「え?」
セリアン様はしまったという表情を見せた。
もしかしてお礼待ちではなく、私の体を心配して登校してくるのを待っていてくださったということだろうか。
「あー。ほら。マリアンジェラも少し心配そうだったからね。ああ。でも、彼女には今回のことは何も言っていないよ。余計に心配してしまうだろうから」
「ありがとうございます」
「それと王家が絡んだ話のようだし、詳しい事情は何も聞かないことにする」
さすがに公爵子息だ。やはり弁える所はしっかり弁えられている。
「まあ、君がどうしても話したいと言うなら聞いてやらないこともないけど」
「……大丈夫です」
私は苦笑いを返した。
「あ、そう」
少しつまらなく口を尖らせたものの、セリアン様はそれ以上食い下がろうとはなさらなかった。
「まあ。俺への挨拶は確かに受け取ったから、もういいよ。次はあちらへどうぞ」
「え?」
セリアン様が視線を流す方向にいたのはマリエル嬢だ。少し離れた所で居心地悪そうに体を小さくされている。
「マリエル様……。わたくしは一体、彼女にどんな言葉をかければいいのでしょうか」
「ん? まずはおはよう、でいいんじゃない?」
そういう意味ではなくて……。
呆れて目を細める私の肩に両手を置くとセリアン様はポンポンと叩く。
「肩張っているねー。ほら。肩の力を抜いて。彼女は君のお友達でしょ? 君の思いを自分の言葉でただ正直に伝えたらいいだけじゃない?」
「わたくしの思いを自分の言葉で……」
「そう。というわけで頑張って。俺はこれで」
セリアン様はにっと笑って身を翻すので、無意識に言葉を繰り返していた私は我に返り、慌ててその背に声をかける。
「あ。セ、セリアン様! 本当にありがとうございました」
「うん。君が無事で良かったよ。――じゃあね」
最後にそう呟くとセリアン様は笑顔で去って行った。
32
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる