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第293話 帰郷そして家族と食事
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馬車に乗って戻ってきただけだが、私は疲労困憊だった。肉体的だけではなく、精神的にも疲れ切っていたのだと思う。我が家に戻ってきたことで張っていた気が緩み、また眠くなってきた私は部屋で休むことにした。
きっとユリアも同様だろうと思い、王宮から持ち帰ってきた私物は部屋まで運ぶには運んだが、解かなくていいからゆっくりしてほしいと言った。
それでもユリアは片付けますと言ってきかなかったけれど、母にあなたも休みなさいと彼女の部屋へと強制連行されていった。
私は苦笑しながら連行されていく彼女を見守った後、ベッドに体を横たえた。
ところが、とても眠たかったはずなのにいざベッドに横になってみると、慣れ親しんでいたはずのベッドに少し違和感を覚え、頭が冴えてしまう。
ベッドの固さとか広さとか、匂いなどがそうだ。それだけ王宮の生活に馴染んでしまったということ。けれど王宮の生活に慣れたように、またすぐに違和感などなくなる。
……私は図太い神経をしているもの。
そんなことを思いながら目を伏せた。
夕方頃になって、私はユリアに起こされた。
目を伏せてからはいつの間にか眠っていたらしい。やはり私は図太い神経の持ち主のようだ。
「もう間もなく夕食ですから、そろそろ起きて体の準備をしておいた方が良いかと」
「ありがとう。そういえば、家に戻ってきてずっと眠り込んでいたから、お腹ぺこぺこよ」
私はお腹を擦ってみせる。
「ユリアも休めた?」
「はい」
「お部屋はどうだった?」
「いつ戻ってきても大丈夫なように、常に綺麗に整えてくださっていたようです」
「あ、えっと。そうではなく」
首を少し傾げるユリアに私は小さく笑う。
「その、違和感はなかった?」
ユリアは私をじっと見つめる。そして何か言おうとしたようだけれど、開いた口を一度閉じると首を振った。
「いいえ。自分の部屋ですから」
「そう。そっか。そうよね。わたくしたちの部屋だものね」
仮にそれが本心ではなくても、私と違ってユリアはもう気持ちを切り替えているのだ。すごいなと思う。
「ロザンヌ様、そろそろ参りましょう」
「ええ。そうね」
私はベッドから足を下ろして立ち上がると部屋を出た。
「ロザンヌ、ユリア。あらためてお帰り。大変な環境の中、本当にお疲れさまだったね。今日は君たちが好きな物ばかり用意したからね」
うちでは、普段は侍従さんや侍女さんたちと食事を別にしてはいるが、関係を大切にしているので、誕生日の人がいると皆で祝うために食事を一緒にすることをしきたりにしている。
本日は私とユリアが王宮での仕事が終わり、帰ってきた特別な日だ。だからユリアもテーブルに同席している。
「お父様、ありがとうございます」
「ありがとうございます、旦那様」
私に続いてユリアが礼を述べる。
「では、この食事に携わってくれた全ての方々と食材に感謝して頂くことにしよう」
父の言葉に感謝と祈りを捧げると夕食が開始された。
「ロザンヌ、学校生活はどうだね」
「はい。友人もたくさんでき、とても楽しい毎日を過ごしています」
「そうか」
頷く父に今度はアシル兄様が口を開く。
「授業には付いていけている?」
ここにいる時はずっと兄様が教えてくれていたから、心配してくださっているのだろう。
「はい。ありがとうございます。全く問題はありません……とは申し上げられないのですが、頑張っております」
「そう。良かった」
皆、私を気遣ってか、王宮生活の話題については避けようとしているようにも見える。それがかえって場が重くなりそうになるので、私は敢えて自分から振ってみる。
「王宮にいた時にも教えてくださる方がいらっしゃったのです」
すると場がほっと緩んだように感じた。王宮が禁句ではないことを分かってもらえたようだ。
さすがに殿下に教わっていたとは言えないけれど。
「そう言えば、あなたの所作も優雅になったものね。その方から?」
「いえ、その方は主に王宮でのマナーを嫌というほど徹底的に叩き込ま……お教えいただきました」
問いかけてきた母に思わず本音がぽろりと出つつも即座に回収する。しかしそれを摘み取ったのはシモン兄様だ。
「優秀な方のようだけど、口の矯正はその方でもできなかったんだなあ」
「あら。わたくしの性根を叩き直そうだなんて、百年早いですわよ」
「その変な自慢の仕方は何なんだ……」
胸を張る私にシモン兄様が苦笑いした。
「ユリアもありがとう。ロザンヌに付き合ってくれて」
取りなすように父がユリアに声をかけると、いいえと微笑む。
以前に増してとても柔らかな笑顔を浮かべるようになった彼女を見て、家族は少し驚いた表情を浮かべた。
「あなたもまた王宮で色々経験し、学んできたのね」
「はい」
母の言葉に頷くユリア。
王宮では彼女の過去も明らかになった。おそらく王宮に行くことがなければ生涯、口にすることはなかったのではないだろうか。まだ彼女は家族の者に言っていないと思うけれど、いずれ話すことになると思う。
そんな和やかな会話が続いていた中、ジョルジョ侍従長が落ち着いた様子で食事の席に入ってくる。
「お食事中、大変失礼いたします。ただいま王宮から」
ジョルジョ侍従長の視線が私に向けられた。
「ロザンヌ様はおられぬかと。――エルベルト殿下がお見えになりました」
きっとユリアも同様だろうと思い、王宮から持ち帰ってきた私物は部屋まで運ぶには運んだが、解かなくていいからゆっくりしてほしいと言った。
それでもユリアは片付けますと言ってきかなかったけれど、母にあなたも休みなさいと彼女の部屋へと強制連行されていった。
私は苦笑しながら連行されていく彼女を見守った後、ベッドに体を横たえた。
ところが、とても眠たかったはずなのにいざベッドに横になってみると、慣れ親しんでいたはずのベッドに少し違和感を覚え、頭が冴えてしまう。
ベッドの固さとか広さとか、匂いなどがそうだ。それだけ王宮の生活に馴染んでしまったということ。けれど王宮の生活に慣れたように、またすぐに違和感などなくなる。
……私は図太い神経をしているもの。
そんなことを思いながら目を伏せた。
夕方頃になって、私はユリアに起こされた。
目を伏せてからはいつの間にか眠っていたらしい。やはり私は図太い神経の持ち主のようだ。
「もう間もなく夕食ですから、そろそろ起きて体の準備をしておいた方が良いかと」
「ありがとう。そういえば、家に戻ってきてずっと眠り込んでいたから、お腹ぺこぺこよ」
私はお腹を擦ってみせる。
「ユリアも休めた?」
「はい」
「お部屋はどうだった?」
「いつ戻ってきても大丈夫なように、常に綺麗に整えてくださっていたようです」
「あ、えっと。そうではなく」
首を少し傾げるユリアに私は小さく笑う。
「その、違和感はなかった?」
ユリアは私をじっと見つめる。そして何か言おうとしたようだけれど、開いた口を一度閉じると首を振った。
「いいえ。自分の部屋ですから」
「そう。そっか。そうよね。わたくしたちの部屋だものね」
仮にそれが本心ではなくても、私と違ってユリアはもう気持ちを切り替えているのだ。すごいなと思う。
「ロザンヌ様、そろそろ参りましょう」
「ええ。そうね」
私はベッドから足を下ろして立ち上がると部屋を出た。
「ロザンヌ、ユリア。あらためてお帰り。大変な環境の中、本当にお疲れさまだったね。今日は君たちが好きな物ばかり用意したからね」
うちでは、普段は侍従さんや侍女さんたちと食事を別にしてはいるが、関係を大切にしているので、誕生日の人がいると皆で祝うために食事を一緒にすることをしきたりにしている。
本日は私とユリアが王宮での仕事が終わり、帰ってきた特別な日だ。だからユリアもテーブルに同席している。
「お父様、ありがとうございます」
「ありがとうございます、旦那様」
私に続いてユリアが礼を述べる。
「では、この食事に携わってくれた全ての方々と食材に感謝して頂くことにしよう」
父の言葉に感謝と祈りを捧げると夕食が開始された。
「ロザンヌ、学校生活はどうだね」
「はい。友人もたくさんでき、とても楽しい毎日を過ごしています」
「そうか」
頷く父に今度はアシル兄様が口を開く。
「授業には付いていけている?」
ここにいる時はずっと兄様が教えてくれていたから、心配してくださっているのだろう。
「はい。ありがとうございます。全く問題はありません……とは申し上げられないのですが、頑張っております」
「そう。良かった」
皆、私を気遣ってか、王宮生活の話題については避けようとしているようにも見える。それがかえって場が重くなりそうになるので、私は敢えて自分から振ってみる。
「王宮にいた時にも教えてくださる方がいらっしゃったのです」
すると場がほっと緩んだように感じた。王宮が禁句ではないことを分かってもらえたようだ。
さすがに殿下に教わっていたとは言えないけれど。
「そう言えば、あなたの所作も優雅になったものね。その方から?」
「いえ、その方は主に王宮でのマナーを嫌というほど徹底的に叩き込ま……お教えいただきました」
問いかけてきた母に思わず本音がぽろりと出つつも即座に回収する。しかしそれを摘み取ったのはシモン兄様だ。
「優秀な方のようだけど、口の矯正はその方でもできなかったんだなあ」
「あら。わたくしの性根を叩き直そうだなんて、百年早いですわよ」
「その変な自慢の仕方は何なんだ……」
胸を張る私にシモン兄様が苦笑いした。
「ユリアもありがとう。ロザンヌに付き合ってくれて」
取りなすように父がユリアに声をかけると、いいえと微笑む。
以前に増してとても柔らかな笑顔を浮かべるようになった彼女を見て、家族は少し驚いた表情を浮かべた。
「あなたもまた王宮で色々経験し、学んできたのね」
「はい」
母の言葉に頷くユリア。
王宮では彼女の過去も明らかになった。おそらく王宮に行くことがなければ生涯、口にすることはなかったのではないだろうか。まだ彼女は家族の者に言っていないと思うけれど、いずれ話すことになると思う。
そんな和やかな会話が続いていた中、ジョルジョ侍従長が落ち着いた様子で食事の席に入ってくる。
「お食事中、大変失礼いたします。ただいま王宮から」
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