つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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【番外編:第302~303話の間】

第308話 ユリアのご両親にご挨拶(後)

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 ユリアのご両親が眠る地の墓苑は平地で、遠くにある緑であふれた山まで視界いっぱいに広がっていた。

 デレク管理官の先導のもと、私たちは墓苑の中を歩く。
 墓石は整然と見せるためなのか、全て同じ形で統一されている。とは言え、サンルーモとはまた違った整備された美しい墓苑だ。
 ユリアは私のすぐ後ろをいつもとは違って足取り重そうに歩いている。緊張感が私まで伝わってくるぐらいだ。

「――ここです」

 デレク管理官が足を止めた。
 まず目についたのはお墓に供えられたお花だ。鮮やかなオレンジ色やピンク色の可愛らしいお花が供えられている。次に墓石に目をやるとお父様の名、アルベルク・ジャンメール、お母様の名、クラリス・ジャンメールが刻まれているのが見えた。

 ユリアのお母様のお名前はクラリスさんだったんだ。それすらも私は知らなかった。……けれど、これから知っていこう。もっとユリアのことを知っていこう。お互いに話をしよう。

 私は気を取り直してスカートを広げると礼を取る。

「はじめまして。わたくしはロザンヌ・ダングルベールと申します。普段からユリアには大変お世話になっております。どうぞお見知りおきの程よろしくお願いいたします」

 ご挨拶をすると、お墓にお花を一本供えるべく身を屈めようとしたが、殿下に腕を取られた。

 ……あ。もしかして影が? まだここにユリアのご両親がいらっしゃるのだろうか。自分の娘の行く末をご心配に思い、留まっておられるのだろうか。
 見上げると殿下はただ黙って頷く。

 エスメラルダ様はおっしゃっていた。長く地に留まると望まなくても影になってしまうと。けれど影になっていたとしてもユリアに会わせてさしあげたい。ユリアにご両親と会わせたい。
 殿下もその思いを考えてくださっていたようだ。私は身を引き、ユリアを振り返った。

「いらっしゃるそうよ。お花はご一緒にお願い」
「――っ。はい」

 私の分のお花を一緒に供えてもらうために、ユリアにお花を渡す。
 彼女はお花を受け取ると、持っていたお花と合わせてお墓に供えた。
 屈んで身を低くするユリアの背中はどこか儚げで、いつもよりかなり小さく見える。

 すると殿下が私の肩にぽんと手を置かれ、少し顔を横に動かした。
 家族水入らずにしてあげようということだろう。頷くと、私たちはユリアから少し離れた所に移動する。

「デレク様」

 私はデレク管理官に話しかける。

「はい。何でしょう」
「お墓にはまだ新しいお花が供えられていました。あのお花はデレク様がご用意してくださったのですか?」
「あ、はい。毎日ではないのですが、できるだけ訪れております」
「そうですか。デレク様」

 私はいまだに屈んでご両親とお話しするユリアの背中を見ながら言った。

「以前、デレク様に申し上げたことに対して、わたくしは謝罪するつもりはありません」
「はい。もちろんです」

 デレク管理官に放った言葉は間違っているとは思わない。だから訂正するつもりも謝罪するつもりも一切ない。

「けれど。ユリアのご両親を慰霊してくださったこと、ご両親とユリアを再会させていただいたことは感謝を申し上げます。誠にありがとうございました」
「…………はい」

 デレク管理官は言葉詰まるような返事をなさった。


 お話が終わったようだ。ユリアは立ち上がる。

「影を……祓うか」
「そう、ですね」

 尋ねるような、指示しているような曖昧で色々な気持ちが混じったような殿下の問いかけに私は頷くと。

「少しお待ちいただけますか」

 これまで沈黙を保っていたジェラルドさんが言葉を発した。

「私もご挨拶をさせていただきたいのです」

 私と殿下は顔を見合わせると頷きあい、どうぞと声をかける。

「ありがとうございます」

 ジェラルドさんは足早にユリアの元へと向かうと、こちらに戻って来ようとしていた彼女と途中で合流した。
 何とお声をかけているのだろう。ユリアは少し困惑気味に頷いていたが、二人でまたお墓の前に立った。

 まるで結婚報告みたいだと自分都合でこっそり思っていると。

「影が消えた」
「え!?」

 殿下のつぶやきを確認しようと慌てて仰ぎ見る。

「ユリアのご両親の影が消えたのですか?」
「ああ。影が光となって天へ昇って行った」
「っ。そうですか」

 またユリアらに視線を戻した。
 私には先ほどと何ら変わっていないように見えるけれど、それでもユリアの側に立つジェラルドさんのお姿を見て思う。きっとご両親も同じお気持ちになられたのだろう。

「ユリアのご両親はきっとご安心されたのですね」
「そうだな。ジェラルドは誠実で真面目で心身ともに強い男だ。彼ならご両親も安心するだろう」
「はい…………ん?」

 まるで殿下が何かを察しているようなお言葉に聞こえるけれど。
 殿下の物言いに私はまた見上げると殿下は得意げに、にっと笑う。そして身をかがめて私に耳打ちする。

「――ええっ!?」

 私の高らかな声が、ユリアのご両親がいる天まで伸びるように響き渡った。
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