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【番外編:ユリア編】
第315話 伝えている言葉。届かない思い(終)
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「あの。ロザンヌ様、この服は」
私はロザンヌ様に手を引かれてやって来たが、乗り込む前に準備が必要だと言ってある部屋に放り込まれた。
そこでさせられた一つが着替えだ。
「何って戦闘服に決まっているじゃない!」
「戦闘服」
「そうよ。戦う女の服!」
再び手を取られて小走りさせられるが。
「ロザンヌ様、走りにくいのですが」
「あなたの運動神経を生かして頑張って。急がなきゃ」
そんな無茶な。
だけど、ロザンヌ様の無茶振りは今に始まったことではない。何だか昔を思い出し、おかしくなりながらロザンヌ様の手に引かれるまま私は走った。
「さあ。この部屋よ。いざ行かん!」
ロザンヌ様は扉のノブをつかむと勢いよく開け放つ。
瞬間的に目に入ったのは、扉に背を向けていたジェラルド様と(おそらく)ご両親だけだった。相手の女性はまだ来ていなかったらしい。
何やら言い争いをしていたジェラルド様は、反射的に振り返るとすぐに礼を取る。
「本日はわざわざ足をお運びいただきましたが、ご無礼を承知で申し上げます。これから申し上げることに対して、どんな形の謝罪のご要求でも謹んでお受けいたします」
「ジェラルド!」
お父様に止められているのにも構わず、顔を上げると私を真っ直ぐ見つめた。
「私には心に思う方がおり、この縁談をお受けす…………ユ、リアさん?」
ジェラルド様は私の姿を認識し、言葉を切ると目を見張った。
それはそうだろう。本日の縁談のお相手だと思っていたら私だったのだから。私もまた自分が先に来てしまうことになるとは思いもしなかった。
顔には出ていないだろうが、内心焦っていると。
「いやー。うちの娘は気に入ってもらえませんでしたかなあ」
「残念だわ。とても良い子なんですよ。……と申しましても、わたくしは本日初めてお会いするのですけれどね」
男性と女性が背後からやって来て、私の前へと回る。
女性はどなたか分からないが、男性は。
「――デレク管理官!?」
陛下の元護衛騎士であり、現在の王族専用書庫室の管理者、デレク・オルソー様だ。
ジェラルド様がまた驚きで目を丸くされた。
「ど、どうしてこちらにいらっしゃるのですか。それにうちの娘というのは……」
私とデレク様を交互にご覧になるが、私自身も何が何やら分からない。
一体どういうことか。
「役者はみんな揃ったようね」
のんびりした女性の声が聞こえて、皆一斉にそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは王妃殿下と頭が痛そうな表情をなさっているエルベルト殿下、そして笑顔のロザンヌ様だ。
「王妃殿下。これは一体どういうことでしょうか」
ジェラルド様が困惑した様子でお尋ねになる。
「うふふ。実はわたくし、ロザンヌ様からのご要望でね、仲介人を演じてみましたの」
「……え?」
意味が捉えられぬジェラルド様を放置して、王妃殿下は頬に手を当てて小首を傾げた。
「もう。ドキドキしちゃったわー! ロザンヌ様に一芝居売ってほしいとお願いされたから、張り切ってみました。どう? どうだった? わたくしの演技。良かったかしら?」
「とても素晴らしい演技でした! 王妃殿下の熱演にわたくし、とてもドキドキハラハラしてしまいました! 特に殿下をぴしゃりとやり込める場面は」
「そう!? そう!? 格好良かった!?」
「もちろんです!」
二人できゃっきゃ、なさっているのを皆でぼんやり眺める。一方、エルベルト殿下はうんざりしたご様子で前髪をかきあげた。
「言っておくが、私は反対したんだからな」
「……ええっと、あの。それでこの状況は一体」
何やら分からぬが企画者だけで楽しむのは止めて、そろそろ説明が欲しい。
そこでようやく落ち着かれたお二人は私たちをご覧になった。口を開かれたのは王妃殿下だ。
「ジェラルドさんとユリアさんの関係がね。あまりにも焦れったくて、誰かの介入がなければ永遠に平行線だろうから、わたくしに協力してほしいと願い出てくれたのよ。もちろんそんな面白いお話だったら、乗らない手はないでしょ! そこでジェラルドさんの縁談のお相手にユリアさんを用意したってわけ」
王妃殿下は実に楽しそうにうふふと笑う。
つまり化粧を施され、華やかな服に着替えさせられたのはそのためだったのか。合点がいった。……合点はいったが。
私が視線を向けると、ロザンヌ様はさすがにはしゃぎすぎたという気持ちになったようだ。
「勝手な真似をしてごめんね、ユリア。でもあなたは身分差のことを気にしているのではないかと。何よりもあなた自身の気持ちを聞きたかったから。もしユリアがこのジェラルド様の縁談に対して何も言わないのなら、中止する予定だったの」
途端にロザンヌ様に口走った告白を思い出して頬に熱を帯びた。
ロザンヌ様は取りなすように、実は何日も前から計画していたのよと笑って話を続け、デレク様の方に視線を流す。
「それでデレク様はユリアと養子縁組してくださるの。デレク様はご出自が伯爵家なのですって」
本当はわたくしのお姉さんになってほしかったのだけれどねと、ロザンヌ様は付け加える。
養子縁組先にデレク様が選ばれたのは爵位が高く、王家の事情を知る者、そして私への償いからなのだろうか。
「私がユリアさんの親とはおこがましいとは思いましたが、妻にも相談したところ快諾してくれましたもので」
「うちは女の子がいませんからね。大歓迎よ」
デレク様の奥様は微笑んでいらっしゃる。優しそうなお方だ。
「もちろんユリアさんのご意志を尊重いたします。私はあなたの幸せを望んでいます。あなたの一番良い形を」
デレク様は私の未来を見つめてくれているのだろう。
「わたくしはロザンヌ様にね」
会話を引き継ぐように王妃殿下がお言葉を発したので視線を向けた。
「褒賞の代わりにユリアさんの養子縁組をお願いされたのよ」
「え……」
王妃殿下の言葉に私がロザンヌ様を見ると、言わないでくださいとお伝えしたのにと呟き、少しきまりが悪そうにしていた。
「それで、彼女は縁談相手としていかがかしら?」
王妃殿下がコンスタント伯爵に視線を移すと頷かれた。
「陛下の元護衛騎士官長だったお方が養女として迎えたいと思うお嬢さんなわけですから」
「わたくしはジェラルドが、息子が選んだ女性なら構いませんわ」
「お、お前ずるいぞっ! 私だって別に爵位など! ……と言うか、こんな綺麗な女性がいたなら、どうして私に言わなかったんだ」
最後はコンスタント伯爵がこそこそ何かを言って、肘でジェラルド様をつつく姿を皆で見ていたが。
「さて。ジェラルドさん」
場を切り替えるように王妃殿下が口火を切った。
「あなた、さっきこの縁談をお断りしようとしていたのかしら? だとしたら残念だわぁ」
「――いいえ。とんでもないお話です」
「そう」
きっぱり否定されたジェラルド様は、こちらに向き直ると一歩足を前に踏み出して私を見つめた。
いつになく熱に帯びた瞳に吸い込まれるように目が離せない。
「ユリアさん。私はあなたのことが好きです。どうか結婚を前提としたお付き合いをしていただけないでしょうか」
真っ直ぐに見つめてくるその瞳には今、私だけが映っているのだろうか。私だけが。
「もし……。了承したならば、これからもジェラルド様のお側にいられるのでしょうか。お話しできるのでしょうか。私に好きだと言ってくれるのでしょうか。私の」
届かなかった言葉を今、届けたい。今、届けなくてはいけない。
「私の胸に響くジェラルド様の好きという言葉の重みと同じくらい私も――ジェラルド様が好きだとお伝えしていいのでしょうか」
「っ!」
驚きの表情と共に、ジェラルド様の耳から首にかけてほんのり赤く染まる。
「よ、喜んで」
「そうですか。それならば謹んでお受けいたします。私はジェラルド様のことが好きですから。とても――とても好きですから」
「私もとてもユリアさんが好きです」
交わす言葉は陳腐なほどに代わり映えしないが、本日は面映そうに微笑むジェラルド様を目にして、私もまた自然と笑顔がこぼれる。
ジェラルド様の心まで届かなかった言葉が今、ようやく届いた。思いが伝わる瞬間はこんなにも胸が熱くなり、心を揺さぶるものだとは思いもしなかった。
ロザンヌ様と出会って穴だらけだった私の心が少しずつ埋まり、止まった心の時計の針がゆっくりと動き出した。そしてジェラルド様との出会いにより、好きという気持ちで穴が満たされた今、正確な時を刻み出したのだろう。
盗むために生きるのではない。父の意思を継ぐために生きるのではない。私は私のために生きる。生きたい。――そう思った。
すると周りから拍手が起こり、我に返る。
周囲を見渡すとロザンヌ様が号泣し、横で殿下が呆れた顔をしているのが目に入った。
「私と再会した時よりも泣いていないか?」
「はい」
「だから、はい言うな」
ロザンヌ様とエルベルト殿下の掛け合いで場が緩くなる。
「さあさあ。では仕切り直して、皆でお食事しましょう!」
「いえ。我々は不要でしょう。戻り」
王妃殿下がお声を上げたが、エルベルト殿下がたしなめるために振り返ると。
「なーにやっているの。早く皆いらっしゃい!」
解放された隣の部屋に準備されたテーブルに座っていた。
「もう座っている……。と言うか、人数分の料理があるし。最初から参加する気満々だったのか、あの人……」
椅子の数を数えて苦笑いするエルベルト殿下に、ロザンヌ様も少しだけ笑うと私に手を差し伸べた。
「ユリア。さあ、わたくしたちも行きましょう。――あ」
ロザンヌ様は何を思ったのか、照れくさそうに笑みを浮かべるとすぐにその手を下ろして背中に回す。
疑問に思っていると、次に差し出されたのはジェラルド様の大きな手だった。
「行きましょう。ユリアさん」
「……はい、ジェラルド様」
穏やかに笑みを浮かべるジェラルド様の手を取ると、私たちは歩き出した。
(完)
私はロザンヌ様に手を引かれてやって来たが、乗り込む前に準備が必要だと言ってある部屋に放り込まれた。
そこでさせられた一つが着替えだ。
「何って戦闘服に決まっているじゃない!」
「戦闘服」
「そうよ。戦う女の服!」
再び手を取られて小走りさせられるが。
「ロザンヌ様、走りにくいのですが」
「あなたの運動神経を生かして頑張って。急がなきゃ」
そんな無茶な。
だけど、ロザンヌ様の無茶振りは今に始まったことではない。何だか昔を思い出し、おかしくなりながらロザンヌ様の手に引かれるまま私は走った。
「さあ。この部屋よ。いざ行かん!」
ロザンヌ様は扉のノブをつかむと勢いよく開け放つ。
瞬間的に目に入ったのは、扉に背を向けていたジェラルド様と(おそらく)ご両親だけだった。相手の女性はまだ来ていなかったらしい。
何やら言い争いをしていたジェラルド様は、反射的に振り返るとすぐに礼を取る。
「本日はわざわざ足をお運びいただきましたが、ご無礼を承知で申し上げます。これから申し上げることに対して、どんな形の謝罪のご要求でも謹んでお受けいたします」
「ジェラルド!」
お父様に止められているのにも構わず、顔を上げると私を真っ直ぐ見つめた。
「私には心に思う方がおり、この縁談をお受けす…………ユ、リアさん?」
ジェラルド様は私の姿を認識し、言葉を切ると目を見張った。
それはそうだろう。本日の縁談のお相手だと思っていたら私だったのだから。私もまた自分が先に来てしまうことになるとは思いもしなかった。
顔には出ていないだろうが、内心焦っていると。
「いやー。うちの娘は気に入ってもらえませんでしたかなあ」
「残念だわ。とても良い子なんですよ。……と申しましても、わたくしは本日初めてお会いするのですけれどね」
男性と女性が背後からやって来て、私の前へと回る。
女性はどなたか分からないが、男性は。
「――デレク管理官!?」
陛下の元護衛騎士であり、現在の王族専用書庫室の管理者、デレク・オルソー様だ。
ジェラルド様がまた驚きで目を丸くされた。
「ど、どうしてこちらにいらっしゃるのですか。それにうちの娘というのは……」
私とデレク様を交互にご覧になるが、私自身も何が何やら分からない。
一体どういうことか。
「役者はみんな揃ったようね」
のんびりした女性の声が聞こえて、皆一斉にそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは王妃殿下と頭が痛そうな表情をなさっているエルベルト殿下、そして笑顔のロザンヌ様だ。
「王妃殿下。これは一体どういうことでしょうか」
ジェラルド様が困惑した様子でお尋ねになる。
「うふふ。実はわたくし、ロザンヌ様からのご要望でね、仲介人を演じてみましたの」
「……え?」
意味が捉えられぬジェラルド様を放置して、王妃殿下は頬に手を当てて小首を傾げた。
「もう。ドキドキしちゃったわー! ロザンヌ様に一芝居売ってほしいとお願いされたから、張り切ってみました。どう? どうだった? わたくしの演技。良かったかしら?」
「とても素晴らしい演技でした! 王妃殿下の熱演にわたくし、とてもドキドキハラハラしてしまいました! 特に殿下をぴしゃりとやり込める場面は」
「そう!? そう!? 格好良かった!?」
「もちろんです!」
二人できゃっきゃ、なさっているのを皆でぼんやり眺める。一方、エルベルト殿下はうんざりしたご様子で前髪をかきあげた。
「言っておくが、私は反対したんだからな」
「……ええっと、あの。それでこの状況は一体」
何やら分からぬが企画者だけで楽しむのは止めて、そろそろ説明が欲しい。
そこでようやく落ち着かれたお二人は私たちをご覧になった。口を開かれたのは王妃殿下だ。
「ジェラルドさんとユリアさんの関係がね。あまりにも焦れったくて、誰かの介入がなければ永遠に平行線だろうから、わたくしに協力してほしいと願い出てくれたのよ。もちろんそんな面白いお話だったら、乗らない手はないでしょ! そこでジェラルドさんの縁談のお相手にユリアさんを用意したってわけ」
王妃殿下は実に楽しそうにうふふと笑う。
つまり化粧を施され、華やかな服に着替えさせられたのはそのためだったのか。合点がいった。……合点はいったが。
私が視線を向けると、ロザンヌ様はさすがにはしゃぎすぎたという気持ちになったようだ。
「勝手な真似をしてごめんね、ユリア。でもあなたは身分差のことを気にしているのではないかと。何よりもあなた自身の気持ちを聞きたかったから。もしユリアがこのジェラルド様の縁談に対して何も言わないのなら、中止する予定だったの」
途端にロザンヌ様に口走った告白を思い出して頬に熱を帯びた。
ロザンヌ様は取りなすように、実は何日も前から計画していたのよと笑って話を続け、デレク様の方に視線を流す。
「それでデレク様はユリアと養子縁組してくださるの。デレク様はご出自が伯爵家なのですって」
本当はわたくしのお姉さんになってほしかったのだけれどねと、ロザンヌ様は付け加える。
養子縁組先にデレク様が選ばれたのは爵位が高く、王家の事情を知る者、そして私への償いからなのだろうか。
「私がユリアさんの親とはおこがましいとは思いましたが、妻にも相談したところ快諾してくれましたもので」
「うちは女の子がいませんからね。大歓迎よ」
デレク様の奥様は微笑んでいらっしゃる。優しそうなお方だ。
「もちろんユリアさんのご意志を尊重いたします。私はあなたの幸せを望んでいます。あなたの一番良い形を」
デレク様は私の未来を見つめてくれているのだろう。
「わたくしはロザンヌ様にね」
会話を引き継ぐように王妃殿下がお言葉を発したので視線を向けた。
「褒賞の代わりにユリアさんの養子縁組をお願いされたのよ」
「え……」
王妃殿下の言葉に私がロザンヌ様を見ると、言わないでくださいとお伝えしたのにと呟き、少しきまりが悪そうにしていた。
「それで、彼女は縁談相手としていかがかしら?」
王妃殿下がコンスタント伯爵に視線を移すと頷かれた。
「陛下の元護衛騎士官長だったお方が養女として迎えたいと思うお嬢さんなわけですから」
「わたくしはジェラルドが、息子が選んだ女性なら構いませんわ」
「お、お前ずるいぞっ! 私だって別に爵位など! ……と言うか、こんな綺麗な女性がいたなら、どうして私に言わなかったんだ」
最後はコンスタント伯爵がこそこそ何かを言って、肘でジェラルド様をつつく姿を皆で見ていたが。
「さて。ジェラルドさん」
場を切り替えるように王妃殿下が口火を切った。
「あなた、さっきこの縁談をお断りしようとしていたのかしら? だとしたら残念だわぁ」
「――いいえ。とんでもないお話です」
「そう」
きっぱり否定されたジェラルド様は、こちらに向き直ると一歩足を前に踏み出して私を見つめた。
いつになく熱に帯びた瞳に吸い込まれるように目が離せない。
「ユリアさん。私はあなたのことが好きです。どうか結婚を前提としたお付き合いをしていただけないでしょうか」
真っ直ぐに見つめてくるその瞳には今、私だけが映っているのだろうか。私だけが。
「もし……。了承したならば、これからもジェラルド様のお側にいられるのでしょうか。お話しできるのでしょうか。私に好きだと言ってくれるのでしょうか。私の」
届かなかった言葉を今、届けたい。今、届けなくてはいけない。
「私の胸に響くジェラルド様の好きという言葉の重みと同じくらい私も――ジェラルド様が好きだとお伝えしていいのでしょうか」
「っ!」
驚きの表情と共に、ジェラルド様の耳から首にかけてほんのり赤く染まる。
「よ、喜んで」
「そうですか。それならば謹んでお受けいたします。私はジェラルド様のことが好きですから。とても――とても好きですから」
「私もとてもユリアさんが好きです」
交わす言葉は陳腐なほどに代わり映えしないが、本日は面映そうに微笑むジェラルド様を目にして、私もまた自然と笑顔がこぼれる。
ジェラルド様の心まで届かなかった言葉が今、ようやく届いた。思いが伝わる瞬間はこんなにも胸が熱くなり、心を揺さぶるものだとは思いもしなかった。
ロザンヌ様と出会って穴だらけだった私の心が少しずつ埋まり、止まった心の時計の針がゆっくりと動き出した。そしてジェラルド様との出会いにより、好きという気持ちで穴が満たされた今、正確な時を刻み出したのだろう。
盗むために生きるのではない。父の意思を継ぐために生きるのではない。私は私のために生きる。生きたい。――そう思った。
すると周りから拍手が起こり、我に返る。
周囲を見渡すとロザンヌ様が号泣し、横で殿下が呆れた顔をしているのが目に入った。
「私と再会した時よりも泣いていないか?」
「はい」
「だから、はい言うな」
ロザンヌ様とエルベルト殿下の掛け合いで場が緩くなる。
「さあさあ。では仕切り直して、皆でお食事しましょう!」
「いえ。我々は不要でしょう。戻り」
王妃殿下がお声を上げたが、エルベルト殿下がたしなめるために振り返ると。
「なーにやっているの。早く皆いらっしゃい!」
解放された隣の部屋に準備されたテーブルに座っていた。
「もう座っている……。と言うか、人数分の料理があるし。最初から参加する気満々だったのか、あの人……」
椅子の数を数えて苦笑いするエルベルト殿下に、ロザンヌ様も少しだけ笑うと私に手を差し伸べた。
「ユリア。さあ、わたくしたちも行きましょう。――あ」
ロザンヌ様は何を思ったのか、照れくさそうに笑みを浮かべるとすぐにその手を下ろして背中に回す。
疑問に思っていると、次に差し出されたのはジェラルド様の大きな手だった。
「行きましょう。ユリアさん」
「……はい、ジェラルド様」
穏やかに笑みを浮かべるジェラルド様の手を取ると、私たちは歩き出した。
(完)
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