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割れた腹筋と硬いボタンホール
しおりを挟む「ちょ……! ライ!」
乱暴に降ろされても柔らかなベッドが優しく身体を受け止める。
見上げるとライが私の上に跨り見下ろしていた。
首元の詰襟をグイっと引っ張って緩める姿に、……ドカンと胸を撃たれた気がした。
やめてやめてやめて、何その色気!
「俺がどんな気持ちで……」
ライは髪をかき上げてため息をついた。広い肩幅、厚い胸板が呼吸で揺れている。背後の灯りがライに影をつくり、見たことのない男の色気がぶわりと部屋中に広がった気がした。
「ライ、待って……」
「待たない」
「違うのそのまま! ちょっとそのまま動かないで! お願いだから!」
「……は?」
「何てこと、この画角! 体験したことがないと絶対に描けない画角! 下から煽るように見上げる、こちらを見下ろす騎士の隊服を着た男(注:ライ)! どうして私眼鏡してないの!? よく見えないじゃないの! ていうかスケッチブックが欲しいし今すぐ描き留めたい私の心の中だけじゃなくて絵に描きたい! どうしよう記憶するからちょっとそのままでいて欲しいし何なら今からでも家に戻ってスケッチブックを持ってきたいけどでもどうしようやっぱりそうするからちょっとライ待ってて!」
「落ち着け馬鹿」
ぺしっと額を小突かれた。
「お前……状況分かってんのか?」
「分かってる! 分かってるから戻ってきたらもう一回! もう一回この体勢になって!」
「そんなこと言われてするか馬鹿! やめろ鼻息荒くすんじゃねえよ!」
「そんなご無体な! ちょっと! ちょっとでいいから! お願いライ!」
「お前どんだけ飲んだんだよ!」
「一滴も飲んでません!」
「マジかよ!」
ライが天井を仰ぎ見て両手で顔を覆ってしまった。
ああ~、その体勢は求めてないの! もう一回こっち見下ろして!
でもせっかくだから、顔を覆うライの身体をまじまじと観察してみる。普段は大きいとしか意識していないライは、こうしてじっくり観察するとかなり鍛え上げられた身体をしていることが分かる。
丸太のように太いだけではない上腕二頭筋の盛り上がりや、脇から背中にかけて盛り上がる筋肉は隊服を纏っていてもはっきりと分かるし、私に跨りながらも体重をかけすぎないよう腰を浮かせている太腿なんて、ナニソレ縦に何筋も割れてる? 太ももの筋肉ってそんな風になるの?
「腹筋割れてる?」
「は?」
ライの隊服のベルトのあたりにそっと掌を当てると、ライの身体がびくりと揺れた。隊服の上からでも熱と硬い感触が伝わってくる。
「筋肉、隊服着ててもすごいから……ライ、腹筋とか背筋とかすごい?」
「……身体目当てかよ」
「どっちが」
「……」
ライは大きくため息をつくとベルトに手をかけシュッと勢いよく抜き去りベッドの外へ投げ捨てた。後ろでガチャンとベルトが落ちる音がする。
私を見下ろしながら、今度は隊服の詰襟を上から順にひとつずつ外していくライを見上げ、思わずごくりと喉を鳴らした。
「やめろ、生唾を飲むな。おっさんかお前は」
「どうしようだってなんかライがエロい……」
「あのなあ……」
「……ぬ……」
「ぬ?」
「脱がせたい!」
私が意を決してそう言うのを、ライは盛大に頬を引き攣らせて固まった。
「ホラ、やっぱ出来ねえだろ」
頭上から呆れた声音でライが言うのを無視して、私はライと向き合って一生懸命隊服の釦を外している。
ベッドの上に起き上がり、向かい合わせに座った状態でライが両腕を広げて「やってみろ」と許してくれたのだ。この機会を逃す手はない。
「ちょっと黙ってて……、ん、硬いし眼鏡なくてよく見えないんだもん……」
ぐっとライの胸に顔を近付けて釦を外しているけど、これがなかなか上手く外せない。
「俺はずっとこのままか」
「脱がせるまで待ってて」
「……そのあとはどうすんだ」
「どうって、筋肉を見る」
「……」
「もう! なんかコツないの?」
「コツって言うか……少し横に引っ張ってからこっちを下に下げてみろ」
「引っ張って……こう……あ! 取れた! あとみっつ!」
「はいはい、頑張れ~」
ライの投げやりな声を無視して次の釦に手をかける。ここまでくればあと少し! 隊服の下に来ているシャツは釦のないもので、V字に開いた胸元から盛り上がった胸筋が覗く。
もう! 期待! 大!
「鼻息を荒くするな」
「女の人の服を脱がせたくなる男の人の気持ちが分かる」
「……お前下品だぞ」
「みんなお店でそんな話ばっかりするんだもん」
「どんな店だよ……」
ライがため息をついて私の頭に顎を乗せた。
「ちょ、ライ重たい」
「俺は手持無沙汰なんだ」
「もう、邪魔しないで」
「競争するか」
「競争?」
「どっちが早く脱がせられるか。お前が俺の上着を脱がせるのが先か、俺がお前のワンピースを脱がせるのが先か」
「なにそれ……って、ちょっとライ!」
ライの大きな掌がするりと太腿を撫であげ、スカートの中に滑り込んできた。
慌てる私の耳元にライがそっと唇を寄せ囁く。
「お前が勝てば、好きなだけ俺の身体を触ればいい」
低い声でこの世のものとは思えない魅惑的な提案が耳に吹き込まれ、一瞬動きを止めると、ライが耳元でふっと笑った。
「そ、そんなの私の方が早いに決まってる! あと釦みっつだもん!」
「どうかな~。俺が勝てば俺の好きなようにお前の身体を触る。対等だろ」
「受けて立つ!」
「よし、じゃあ位置について……始め」
ライの言葉に合わせて目の前の一つ目の釦に手をかけた途端、目の前が真っ暗……じゃなくて、黄色に覆われた。
「!?」
呆然としているとすぐに開けた視界、目の前に座っているライの隊服はそのまま。顔を見上げると不敵に笑うライが私を見下ろしている。
両手を降参したように上げている私は、どうやら裾から頭まですっぽりとワンピースを脱がされたようだ。
「俺の勝ちだな」
ライが私の黄色いワンピースを後ろ手に投げ捨て、ニカッといい笑顔を見せた。
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