【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
15 / 88
エアメールと離婚届

15

しおりを挟む
「これでよしっ……と」

 無くさない様に、離婚届をエアメールの封筒に戻したところで席を立つ。
 買い物した荷物を片付けようと、荷物が入った袋を取りに行こうとしたところで、やっぱり気になって、テーブルを振り返る。
 テーブルの上のエアメールに目が行ったところで、無意識に呟いていたのだった。

「本当に、これでいいのかな……」

 私は若佐先生の事をほとんど何も知らないままだった。家族を亡くしている事を除いては、若佐先生は自身について何も語ってくれなかった。
 好きなものや子供の頃の思い出など、何も分からない。夫婦以前に友達以下の関係性だったと言えばいいのだろうか。
 だからこそ、きっとここで離婚届を出してしまえば、若佐先生との繋がりは完全に消えてしまうだろう。
 お互いの事を理解し合えないまま別れてしまうのは、なんとなく寂しい気がしたのだった。

(あの日、私は若佐先生に救ってもらった。その若佐先生に何も恩返ししないまま、別れてしまっていいの……?)

 若佐先生と初めて会った日、自ら死を選ぼうとした私を若佐先生は止めてくれた。私の話を聞いてくれて、私の代わりに憤ってくれた。
 そんな若佐先生を見ていたら、自分の心が落ち着いて、モヤがかかっている様に重かった頭もスッキリした様な気がした。
 裁判は敗訴してしまったけれど、もうそれだけでいい様な気がしていた。 
 結婚して、仕事を辞めて、時間が出来た事で、ゆっくり考えられるようになった。そこでようやく気付いた。
 私は誰かに話しを聞いて欲しかっただけだった。
 苦しいんだと、辛いんだと、悲しいんだと、言いたいだけだった。
 これでは構って欲しくて我が儘を言う子供と何も変わらなかった。思い返すと恥ずかしいが、それだけ余裕が無かったという事なのかもしれない。

 私はテーブルまで戻って来ると、エアメールを手に取る。
 あの日以来、私は自ら死を選ぶ様な行為はしなくなった。
 若佐先生との結婚を機に、職場を離れたというのもある。
 でも一番は、若佐先生という心の支えが出来た事が大きかった。
 すれ違ってばかりいたけれども、若佐先生が側に居てくれたのは心強かった。何より、自分は一人じゃないと思えた気がした。
 そんな若佐先生の役に立ちたかったが、とうとうそんな機会には恵まれなかった。
 恩人の役にも立てないまま、私達の関係は終わろうとしている。

「きっと、後悔する……」

 これが最後になるのなら、せめて若佐先生にお礼くらいは言いたい。願わくは、最後に夫婦らしい事をさせて欲しい。
 離婚して、これから別々の道を進む為にも、心残りはないようにしたい。
 そうしなければ、いつまで若佐先生に心を捕らえられたまま生きて行く事になる。
 そうならない為にも、少しでも若佐先生の事を理解してから別れたい。
 どうして、初めて会った日に助けてくれたのか、目的を果たした後も解消しなかった夫婦関係を、どうして今になって解消しようとするのか――。

「よしっ!」

 私は覚悟を決めると、手早く買い物してきた荷物を片付ける。
 そして、スマートフォンに登録している電話番号の中から、パート先のスーパーの番号を選ぶと電話を掛けたのだった。

「若佐です。シフトの件でご相談したい事があるんですが――」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

処理中です...