【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
17 / 88
ニューヨークと三年振りに会う夫

17

しおりを挟む
 若佐先生の自宅と若佐先生が所属する事務所の場所はあらかじめ調べた。
 事務所の名前は緊急時の連絡先として、若佐先生がアメリカに行く直前にスマートフォンにメッセージを送ってくれていたので、三年前に受け取ったメッセージ履歴を遡って探した。
 どうやら自宅はセントラルパークの近くにあるようで、事務所はそこからバスで少し行ったところにあるらしい。せっかくなので、私もセントラルパーク近くのホテルを予約していた。日本にいる間に予約を済ませているので、後は夕方にチェックインするだけであった。

(若佐先生、どうしているかな……)

 会って事情を聞きたいという想いと、会うのが怖いという、二律背反する感情が胸の中で渦巻く。
 何の説明もなく、急に離婚届を送ってきたという事は、現地で新しい恋人を見つけた可能性もある。それなら、尚更、日本に住んでいるはずの私が会いに行くのは迷惑になるかもしれない。
 たまたま、若佐先生に拾われて、一時的に契約結婚をしていただけの私が訪れるのは。

(急に行ったら迷惑かもしれない。でも、あらかじめ連絡したら避けられるかもしれないし……)

 窓から移り行くニューヨークの街並みを眺めながら考える。
 今回、私がニューヨークを訪れる事については、若佐先生には何も連絡していなかった。もし日本で一緒に暮らしていた頃、若佐先生が意図的に私を避けていたのだとしたら、あらかじめ連絡する事で若佐先生が避けてしまうと考えたからだった。
 そうなってしまったら、あえてニューヨークまで来た意味がない。
 若佐先生の事を知って、助けてもらった恩を返して、納得のいく形で離婚する為にも、私は若佐先生と向き合い、若佐先生にも私と向き合ってもらわなければならない。
 何も若佐先生は私に恩を着せる為に助けてくれた訳ではないだろう。
 これはただの私の我が儘。私がこの四年間の契約結婚の日々に意味を見出したいだけ。
 ほとんど夫婦らしい事は何もしておらず、そもそも会話さえもほとんど無く、すれ違っていただけの形だけの夫婦の日々。
 そんな日々が無駄では無かったと思えるようにしたいだけ。
 こんな言い方をすると、若佐先生に恩を仇で返している気もしないでもない。ほんの僅かに、罪悪感に苛まれる。

(でもここで若佐先生に会う事を諦めて、日本に帰って離婚届を提出して他人に戻っても、きっと後悔する。若佐先生に何も出来なかった事、若佐先生の役に何も立てなかった事……)

 ニューヨークまで押しかけてきた事について、若佐先生に何を言われ、何をされても、私は我慢すると決めている。
 絶対に、怒らず、泣かないと――。

 旅行本を読んでいると、車内アナウンスで次のバス停留所の名前が案内された。音が悪くはっきりとは聞こえなかったが、聞いた事があるような気がして顔を上げる。
 私は旅行本にメモしていた降車予定のバス停留所名と車内アナウンスの内容を比較する。自分が降車予定の停留所だと気がつくと、降車ボタンを探してあちこちをキョロキョロと探してしまう。
 すると、後ろに座っていたキャリアウーマンらしき若い女性がクスクスと笑いながら、窓にぶら下がっていた黄色い紐を指差したのだった。

(そうだった……! アメリカは日本のバスとは違って、降車ボタンじゃなくて、紐を引っ張るんだった……!)

 恥ずかしさで耳まで顔を赤くしながらも、傍らの窓に下がっている黄色い紐を引っ張る。
 紐が固いのか、なかなか引っ張れず、停留所を行き過ぎてしまうかもしれないと焦ってしまったが、ぐっと力を入れると、バス前方に「STOP」と書かれたランプが点滅したので、ようやく一安心出来たのだった。
 バスが停留所に着くと、先程のキャリアウーマンらしき女性に小さく頭を下げて、他の乗客に続きながらスーツケースを持ってバスから降車する。摩天楼と呼ばれているだけあって、周囲は高層ビルが立ち並び、人の往来も多く、車もひっきりなしに走っていた。丁度昼時だからか、道端に停まる移動ワゴン車の前には数人が並んでいた。
 英語が苦手な私はなるべく手元のスマートフォンと標識だけを見て、声を掛けられないように移動ワゴン車や屋台に並ぶ列の後ろをすり抜けて、若佐先生が所属しているという事務所に向かったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

処理中です...