【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
18 / 88
ニューヨークと三年振りに会う夫

18

しおりを挟む
 しばらく大きな道を歩くと、小さな路地に入る。

「地図だと、この辺りになっているけど……」

 日本語名での事務所の名前は、ロング法律事務所。
 ネットで調べた時は、裏路地にある小さなビルだったけど――。

「あっ! このビルかな……!」

 路地に入ってすぐ、大きな看板が目に入る。さすがに、英語が不得意な私でも「ロング」は読めた。
 お洒落なエントランスまでスーツケースを引っ張って行くと、綺麗に磨かれた自動ドアから中の様子が見えた。

「あっ……」

 思わず声を漏らしてしまう。自動ドアから入って正面にある受付らしき場所に、三年振りに姿を見る契約夫の姿があったからだった。

「若佐先生……」

 私の場所からは横顔しか見えないが、若佐先生は最後に会った三年前と何も変わっていないように見えた。
 銀縁の眼鏡も、きっちり着こなしたスーツも、短く整えた黒髪も。まるで三年前からやって来たかのように、そのままの姿で自動ドアの先に立っていたのだった。

(何も変わってない……良かった……)

 そっと胸を撫で下ろして自動ドアに近づいて行くと、中の様子がはっきりと見えてくる。若佐先生の視線の先に気がついた時、私の足はピタリと止まってしまったのだった。

「あの人は……?」

 若佐先生の視線の先には、ウェーブのかかった長いブロンドヘアを背中に流して、オフィスカジュアルな格好をした見目麗しい若いアメリカ人の女性がいたからだった。

(誰、あの人……)

 若佐先生は先程からその女性と話しているようで、時折、笑顔を見せていた。

「そんな……」

 愕然として掠れた声が漏れる。重く苦しい感情が胸の中を満たす。
 日本で一緒に暮らしていた頃、いつだって若佐先生は厳しい表情か苦々しい表情しか見せてくれなかった。あんな楽しそうな表情など、滅多に見せなかった。
 それなのに、ブロンドヘアの女性とは仲睦まじい様子を見せて、笑顔さえ浮かべている。

(やっぱりそうだったんだ……)

 私をニューヨークに連れて来なかった理由。それはあの女性と特別な関係だったからだ。離婚届を送ってきたのだって、きっと結婚が決まったからで――。

(私、もう邪魔なんだ。本当にもう要らないんだ……)

 胸を満たす重苦しい感情で息が苦しくなる。スーツケースの持ち手をぎゅっと握りしめると、私は事務所に背を向ける。
 そうして、足早に来た道を戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

処理中です...