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忘れ物を届けに
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エレベーターが三階に着いたので、楓さんの案内で降りてすぐの右手の部屋に入る。ここが応接室の様で、中には高級そうなテーブルとソファーセットが置かれ、壁際の本棚には洋書がずらりと並んでいたのだった。
(洋書がたくさん。全部法律関係の本かな……)
柔らかな日差しが差し込む窓辺にはパキラが置かれており、青々とした葉が応接室を優しい雰囲気にしていた。
「適当に座ってくれ」
先にソファーに座った楓さんに勧められて、私も対面に座る。楓さんはすぐに私が届けた手帳を開いて、中を確認し始めたので、私も静かに応接室の本棚を眺めていたのだった。
「小春」
名前を呼ばれて振り向くと、片手で手帳を振りながら楓さんは続ける。
「これの中、見たか?」
どこか不機嫌そうに聞こえなくもない声音に及び腰になりそうになるが、私はおずおずと頷く。
「すみません。見るつもりはなかったんですが、カバンに入れる際に床に落としてしまって……。その際に今月の予定が見えてしまいました。他のページは見ていません」
「そうか。いや、そこのページならいいんだ。連絡先のページに、他の弁護士仲間や仕事関係者の連絡先を書いていたから一応な」
そこで話が終わってしまいそうだったので、私は話しを続ける。
「今月の予定を見てしまった際に『帰国』って書かれていた日があったんですが……。その日って日本に戻って来ていたんですか?」
楓さんは今まで浮かべていた笑みを消すと、いつもの無愛想にも見える顔になった。
「……答える必要があるのか?」
これまでと同じ冷然とした声音と態度に私は俯く。心なしか部屋の室温まで下がった気さえした。
「いいえ……」
私はそう返したが、それでも楓さんのその態度が答えを表していた。ただ答える気は無いようで、そのまま黙ってしまったのだった。
(少しは距離が縮まったと思ったのに……)
呼び方や話し方を変え、声を掛けやすくなり、普通に会話も出来るようになった。それでも私達の間にはまだまだ距離があるようだった。
(これ以上の関係にはなれないのかな……)
私達の間にある溝に気づいてショックを受けていると、ノックの音と共にジェニファーが入って来たのだった。
「コーヒーメーカーにコーヒーが無くて時間かかかっちゃった。ごめんなさい」
お洒落なティーセットを乗せたトレーを持ったジェニファーの後ろには、体格の良いスーツ姿の中年男性がついていた。
「どれどれ、カエデの奥さんが来ているんだって」
「所長! 何しに来たんですか!!」
大柄な身体とスキンヘッドが特徴的な白皙の男性に流暢な日本語で話しかけられると、急に楓さんは声を荒げてソファーから立ち上がった。
「何しにって、ランチから帰って来たらジェニファーからカエデの奥さんが来てるって聞いたから見に来たんだ。いや~。別嬪だね! まさに日本の女性、大和撫子って感じだ!」
所長と呼ばれた男性に褒められて、ぽかんとしてしまった私だったが、はっと気づくと慌ててその場で立ち上がる。
「は、初めまして。若佐小春と言います。夫の楓がお世話になっています」
こんな挨拶でいいのかと思いながら、頭を下げる。すると、所長は野太い声で笑い出したのだった。
(洋書がたくさん。全部法律関係の本かな……)
柔らかな日差しが差し込む窓辺にはパキラが置かれており、青々とした葉が応接室を優しい雰囲気にしていた。
「適当に座ってくれ」
先にソファーに座った楓さんに勧められて、私も対面に座る。楓さんはすぐに私が届けた手帳を開いて、中を確認し始めたので、私も静かに応接室の本棚を眺めていたのだった。
「小春」
名前を呼ばれて振り向くと、片手で手帳を振りながら楓さんは続ける。
「これの中、見たか?」
どこか不機嫌そうに聞こえなくもない声音に及び腰になりそうになるが、私はおずおずと頷く。
「すみません。見るつもりはなかったんですが、カバンに入れる際に床に落としてしまって……。その際に今月の予定が見えてしまいました。他のページは見ていません」
「そうか。いや、そこのページならいいんだ。連絡先のページに、他の弁護士仲間や仕事関係者の連絡先を書いていたから一応な」
そこで話が終わってしまいそうだったので、私は話しを続ける。
「今月の予定を見てしまった際に『帰国』って書かれていた日があったんですが……。その日って日本に戻って来ていたんですか?」
楓さんは今まで浮かべていた笑みを消すと、いつもの無愛想にも見える顔になった。
「……答える必要があるのか?」
これまでと同じ冷然とした声音と態度に私は俯く。心なしか部屋の室温まで下がった気さえした。
「いいえ……」
私はそう返したが、それでも楓さんのその態度が答えを表していた。ただ答える気は無いようで、そのまま黙ってしまったのだった。
(少しは距離が縮まったと思ったのに……)
呼び方や話し方を変え、声を掛けやすくなり、普通に会話も出来るようになった。それでも私達の間にはまだまだ距離があるようだった。
(これ以上の関係にはなれないのかな……)
私達の間にある溝に気づいてショックを受けていると、ノックの音と共にジェニファーが入って来たのだった。
「コーヒーメーカーにコーヒーが無くて時間かかかっちゃった。ごめんなさい」
お洒落なティーセットを乗せたトレーを持ったジェニファーの後ろには、体格の良いスーツ姿の中年男性がついていた。
「どれどれ、カエデの奥さんが来ているんだって」
「所長! 何しに来たんですか!!」
大柄な身体とスキンヘッドが特徴的な白皙の男性に流暢な日本語で話しかけられると、急に楓さんは声を荒げてソファーから立ち上がった。
「何しにって、ランチから帰って来たらジェニファーからカエデの奥さんが来てるって聞いたから見に来たんだ。いや~。別嬪だね! まさに日本の女性、大和撫子って感じだ!」
所長と呼ばれた男性に褒められて、ぽかんとしてしまった私だったが、はっと気づくと慌ててその場で立ち上がる。
「は、初めまして。若佐小春と言います。夫の楓がお世話になっています」
こんな挨拶でいいのかと思いながら、頭を下げる。すると、所長は野太い声で笑い出したのだった。
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