【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

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真実と想い

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 楓さんの言葉に息を呑んで、ただじっと食い入るように見つめる事しか出来なかった。思考が追い付かなかった。聞き間違えたのだろうか。楓さんは何を言っているのだろう。私と結婚したいなんて、そんな、夢みたいな事――。

「本当は日本に帰国した時、この指輪を渡して、今の言葉を伝えるつもりだった。それなのに、急に怖気づいたんだ。小春が知らない若い男と話している姿を見たから……」
「楓さんの知らない若い男の人と話して……いたんですか? 私……」
「ああ。帰国した日にマンションに帰ったら、マンションの入り口で見知らぬ若い男の車から降りてきて何か話していただろう。楽しそうに。男を置いて、先にマンションに入っていく小春の後ろ姿を見ていたら、急に自信がなくなったんだ。俺は小春より年上で、もう若いという年齢から遠くなってきたからな」
「楓さんが帰国した日に、何かあったっけ……?」

 頭の中で、楓さんが帰国した日にあった出来事を思い返す。そもそも楓さん以外の男性の知り合いなんていないに等しいので、心当たりがあればすぐに思い出せそうだけど……。

「俺以外に男の知り合いがいるなんて知らなかったからな。茶髪でどこか不良の様な見た目の男と一緒に居る姿を見て焦った。小春はあんな男が好みだったのかと」
「若くて茶髪で不良の様な見た目の男性……あっ、もしかしてお隣の関さんの息子さんかな!? 確か、楓さんが帰国した前後だったと思います。自転車がパンクして、関さんの車に乗せてもらった事があるんです!」
「隣の家の息子はまだ高校生じゃなかったか? それに茶髪じゃなくて坊主頭だった気がするぞ。身長も俺より低かった覚えが……」
「楓さんがこっちに来てから、もう三年が経っているんですよ。高校は卒業して、今は大学生です。高校生の間に身長が伸びて、大学に入ってからは髪を伸ばし始めたそうです。茶髪は……今の流行りに乗って染めてみたって言っていました」

 楓さんが日本に住んでいた頃、私達が住むマンションの隣室には関さん夫婦と高校生になる息子さんが住んでいた。高校の野球部に所属しているという関さんの息子さんはいつも礼儀正しく、会う度にきっちり剃られた坊主頭を深々と下げて挨拶をしてくれた。中学生の頃に一度身長が止まってしまったらしいが、高校で野球部に入部してからまた身長が伸び、出会った頃は私と同じくらいの高さだったが、今では楓さんと同じくらいの高さになっていた。

「この間、スーパーのパートから帰ろうとしたら、乗ってきた自転車がパンクしている事に気づいたんです。仕方なくマンションまで自転車を押して帰っていたら、丁度、関さんの息子さんが運転する車と出会ったんです。運転免許証を取得したので、お母さんの関さんについてもらいながら、運転の練習をしているって。
 それで事情を説明したら、練習ついでに近くの自転車屋まで乗せてもらう事になったんです。自転車を修理に出して、帰りもマンションまで乗せてもらいました」
「そんな事があったのか……。自転車がパンクしていた事については警察に相談したか?」
「してないです。もしかしたら、自分でどこかにぶつけたり、何か尖ったものを踏んづけたりしたのかもしれません。それに早く自転車を修理に出したかったんです。私は車を運転出来ませんし、数少ない移動手段が使えないままだと不便ですし」

 一応、運転免許証は持っているが、取得してから一度も運転していないので、すっかりペーパーになってしまった。車が無くて困るのはせいぜい重い物を買う時くらいで、それも最近はインターネット通販で買っていたのであまり困っていなかった。出掛ける時も自転車か公共交通機関で事足りたので、車が運転出来なくてもあまり不便に感じなかった。

「多分、楓さんが私達を見た時、車の助手席には関さんの奥さんが乗っていたと思いますよ。私をマンションまで送った後、運転の練習も兼ねて息子さんと二人でスーパーに買い物に行ったので」

 その時の練習の成果なのか、関さんの息子さんはすっかり車を乗り回す様になり、今では大学の通学を始め、友達との旅行やお母さんである関さんを迎えに区役所まで車を出しているらしい。

 事情を知った楓さんは、ただ天井を見上げると「なんだ。そうだったのか……」と力無く繰り返したのだった。

「車の中まで見ていなかったよ。ただただ、ショックだった。やっぱり何の役にも、力にもなれなかった俺には小春は相応しくないとばかり考えていた。そのままマンションを離れて、ホテルで頭を冷やしたが気分は晴れなくて、結局区役所に行って離婚届を入手して、逃げ帰る様にこっちに戻る前に送る事にしたんだ。……こんな事なら、あの時、声を掛けておくべきだったな」

 きっと区役所に離婚届を貰いに行った時に関さんに見られたのだろう。そんな理由だったとは知らず、私も「すみません……」と謝ってしまう。

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