【第三幕完結】奴隷から王になった少女が紡ぐ物語

香口 深衣

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第一幕

第十一章 旅民と雪

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「お前、王様だったのか…」
「こら!馬鹿!!」

 高秦が雪にそう言ったのは、場を納めてすぐ後の事。隣にいた葉蘭が高秦の頭を叩いて平伏させる。近くに人はおらず、この会話を聞いている者は誰もいない。

「大丈夫よ。葉蘭。」
「ですが…」

 雪はしゃがんで、二人の肩をポンと叩く。

「顔を上げて。ねっ。」

 高秦はパッと顔を上げ、葉蘭は仕方なくという様子で顔を上げた。

「あなたたちのお陰で、たくさんの命が救われた。ありがとう。」
「そ、そんな…」
「あなたたちは、玉廉に雇われているの?」
「いや、違う。」

 ゴンッ!と、こ気味の良い音がなる。葉蘭が高秦の頭に拳骨を落とした音だ。

「痛っ!」
「何て口の聞き方してんのよ!」
「葉蘭、良いのよ。あなたもそうして。」
「で、ですが!」
「雪が良いって言ってんだから、良いじゃん。」

 二度目の拳が落ちる。雪は見てて面白いと思う。

「葉蘭。」
「…わ、分かりました。」
「葉蘭?」
「あーもう!分かったわ。これで良いんでしょ!」

 本当に面白い二人だと、雪はクスリと笑う。

「で、違うってことは、雇われてた訳じゃないってこと?」
「ああ、俺ら旅民が玉廉様に恩があるんだよ。商売で失敗して、食うに困ってたときに、助けてもらったんだ。今回は、その恩返しって訳さ。」
「恩返しって…よくこの危ない橋を渡ったわね。」
「いやー、俺も蓮季が来たときにはダメだと思ったよ。」
「私も生きた心地がしなかったわ。」
「俺は雪が裏切ったんだと思ったぜ。」
「あはは…」

 雪は困ったように頬をかくと、翠がズイッと前に出る。

「雪はそんなことしない。」
「そんなの分からねーだろ。」

 翠が睨み付ければ、高秦は彼を馬鹿にするような挑発的な態度を見せた。だが、翠はその挑発に乗らなかった。

「いつも国のことを考えてる。」
「ふーん、お前にとって大切な主人って感じだな。」
「…ああ。」

 真面目に言われると、なんだかこそばゆい。と、雪は照れ臭くなって頬をかいた。

「じゃあ、しっかり守れよ。」

 こくんと翠は頷いた。それは言われなくても分かってる。という表情に雪は見えた。
 そう思ったらなんだか頬が熱くなってきたので、雪は話題を戻す。

「は、話がそれたね。つまり、今回の件だけ手伝っていたということかな?」
「そうだな。」
「じゃあ、もう自由に動けるってこと?」
「あっ、ああ。…雪、お前なんか企んでないか?」
「え?えーっとぉ。企んでるって程の事じゃないんだけど…お願い?」
「アッハハハ!お、王様がお願いだって?」
「えっ、あっ、ご、ごめん。嫌なら断ってくれて良いから。」

 慌てる雪を見て、さらに高秦は笑う。

「い、いや、雪のお願いなら断るつもりないけどよ。命令すれば早いのにって、思っただけだよ。」
「それじゃあ、あなたたちを縛っているようなものになるから、嫌なの。」
「お前、変わってるな。」
「そ、そう?」

 “そんなに変だろうか?”

 首をかしげれば翠が頷くのが見えて、ため息が出てしまう。反論の余地なし。諦めるしかなさそうだ。

「で、頼みごとってなんだ?」
「あなたたちは、これからまた色々な場所を転々とするでしょ?そこで、定期的に情報を売って欲しいの。」
「売って欲しいなの?ただ欲しいじゃなくて?」

 首をかしげて訪ねる葉蘭に雪は頷く。

「ええ、情報は買うわ。一定の額で。どうかな?」
「俺らはそりゃあ金も入るし、問題ないけどよ…そんなん、隠密とかに任せとけば良いんじゃねーのか?わざわざ、金払うなんて無駄だろ?」
「うーん、高秦と葉蘭には見たままの国の様子や民の言葉を聞いて教えて欲しいの。す…お、隠密ってそう言うことは不馴れなのよ。」
「はーん、なるほどね。」

 ギリギリで名前を出さなかったのに、高秦には意味が分かったようで、翠の方を見てニヤリと笑った。
 勝ち誇ったように見えるのは、見間違いではないだろう。
 翠が一歩前に出ようとするのを雪は手で制した。
 案外この二人は仲良くなるかもなぁ。なんて思うと、翠が思い切り首を振る。

「で、どう?葉蘭は?」
「それくらいなら問題ないわ。」
「じゃあ、羅芯の者を定期的に行かせるわ。…そうね、新月の時にしましょうか。」
「分かったわ。」
「紙と筆は必要?」
「いや、帳簿用の紙があるから大丈夫だ。」
「じゃあ、お願いするわね。」
「おう!任せとけ!」
「あ、そうだ。」

 雪は伝え忘れていたことを思い出して声を上げる。それに高秦が不思議そうにして首をかしげた。

「まだ何か頼みごとか?」
「ううん。違くて、二人はまだ空南にいる予定?」
「ええ。でも、暖かくなってきたから、そろそろ他の国に移動するはずよ。」
「旅民だからな。」

 葉蘭と高秦がそれぞれ答えるので、雪はうーんと悩んでから答える。

「…なら、工西は避けた方が良いよ。」
「何かあるのか?」
「きな臭いのよ。」
「きな臭い?」

 葉蘭が首をかしげて繰り返す。

「うん。武具の動きが、大きくなってるという情報が入ってる。」

 武具の流れがあるということは、近々戦が起こるということだ。戦の前には武具や金、人の動きが活発になる。工西はまさにそんな状況になっているのだ。

「詳細までは分からないのだけど、工西には行かない方が良いわ。忠告したからね。」
「ええ、ありがとう。」
「あっ、それと…」
「まだ何かあんのか?」
「これから、玉廉の所に向かうのだけど、紹介してもらえないかな?」
「はあ?お前、王様だろ?勝手に行けば良いんじゃねーの?」
「王様だからなかなかそれができないの。正式な形にしたらすごく手間…時間がかかるから。だから、お忍びってことで、お願い。」

 手を合わせて頼むと、葉蘭と高秦は顔を見合わせて諦めた顔をしたのだった。
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