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閑話 月夜の誓い、紅髪は艶めく
月夜の誓い、紅髪は艶めく(1)
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その報告を受けた英秀礼は青ざめ、部屋を飛び出していた。
「秀礼様!」
廊下を駆ける秀礼の後を追いかけるは蘇清益だ。秀礼よりも慌てている。この報告によって秀礼がこんな行動を取るなど思っていなかったのだろう。
秀礼はというと、先の報告のせいで頭がうまく回らない。坤母宮に関する文はもらっていたがまさかこのようなことになると思っていなかったのである。
(やはり私も行けばよかった。文をもらってすぐに駆けつけていれば)
冬花宮からの文が届いた時は秀礼も坤母宮に向かおうとしていたが、それを止めたのが清益だった。『あまり華妃と親しくしていては、他の者の目がある』と忠告を受け、震礼宮に留まったのだ。
特に最近は何者かの尾行があった。それは永貴妃の宮で鬼霊祓いをした後からはじまり、先日、櫻春宮で瓊花の鬼霊と対峙した時も誰かの気配があった。
(だからあまり紅妍に近づいてはならぬと思っていたのだが……それが仇となったか)
それがこの結果だ。紅妍は坤母宮で花詠みを行ったらしいがその途中で倒れてしまった。異変に気づいた藍玉が人を呼び、冬花宮まで運んだそうだが、意識は戻らない。ひどい汗をかき、うなされているそうだ。
外は夜が更け、月は鋭く身を細めている。いやな三日月だ。月を見上げて睨みつける。後ろでは清益の声がしている。それでも秀礼は足を止めなかった。
冬花宮の門が見えたあたりで歩みを遅くする。息を切らせて追いかけてきた清益がようやく横に並んだ。
「何を考えているんですか。こんな夜に供もつけずに飛び出してどうするんです」
「……すまない」
秀礼も肩で息をするような状態だった。夢中で駆けていたのである。紅妍の話を聞いてからというもの無我夢中であった。いますぐにでも冬花宮に行かねばと思い、現に門の前まで来ている。
そんな秀礼に清益は呆れているようだった。
「夜半遅く妃の宮を訪問するなどおかしなことです。戻りましょう」
「ここまできたのだ、紅妍に会う」
「秀礼様!」
珍しく、清益が荒げた声で秀礼の名を呼んだ。ここまで感情の発露することは珍しい。それほどに清益は焦っているのだろう。
「最近の秀礼様はおかしくなっている。あなたが背負うべきは華妃ではなく髙でしょう」
「……わかっている」
「あなたは皇子で華紅妍は帝の妃。そう選出したのは秀礼様ですよ」
そうだ、と内心呟く。紅妍を妃に仕立てたのは秀礼である。
(あれが良い手段だと思った、といえ、後悔しているなど)
知れば知るほど、紅妍を華妃にしたことを悔やんだ。華仙術は頼りになるがそれを用いる紅妍という人が優しすぎるのだ。どうしたって目で追ってしまう。近づきたくなってしまう。
「まさか……好いているわけではないでしょう?」
細く小さく、恐れているような声だった。その問いかけを放った清益は、秀礼の答えを恐れている。
しかし秀礼自身も、その答えを持ち合わせていない。冬花宮の門を睨みつけたままである。
「華妃に会う」
そう告げて、歩いていく。清益が着いてきたのは少し経ってからだった。
宮女らは夜半の訪問に驚いていたようだったが、藍玉は意図を汲んだようだ。紅妍の寝所へと案内してくれた。
紅妍のそばに宮医がいる。彼は秀礼の来訪に驚きつつも膝をついて揖した。
「容態は?」
問う。宮医がそれに答えた。
「ひどい熱が出ていて、たびたびうなされているようです。まだ一度もお目覚めになっていません」
「原因はわかるか?」
「それもまだ。外傷は見当たりませんからそういったものではないと思いますが」
秀礼は紅妍のそばに寄る。紅妍は眠っていたが、あまりよくはないのだろう。眉間に皺を寄せ、額は汗をかいている。
紅妍が倒れたのは坤母宮で花詠みをしていた時だと聞いている。だが鬼霊が出たという報告はない。最も、そばにいたのは藍玉ら宮女たちなので、近くに潜んでいたとしても気配を感じ取れなければわからない。
(紅妍の近くにいればよかった)
あらためて思う。秀礼ならば鬼霊の気を感じ取れる。姿を見せなかったとしても近くに潜んでいればすぐわかっただろう。
それを今さら悔やんだとて遅い。紅妍は倒れ、目を覚まさない。
秀礼は宮医と、部屋の隅で控える清益や宮女らに振り返る。
「少し、席を外してくれ」
宮医と宮女らが動く。清益は訝しんでいる様子だったが、諦めたのか頭を下げた後、部屋を出て行った。
「秀礼様!」
廊下を駆ける秀礼の後を追いかけるは蘇清益だ。秀礼よりも慌てている。この報告によって秀礼がこんな行動を取るなど思っていなかったのだろう。
秀礼はというと、先の報告のせいで頭がうまく回らない。坤母宮に関する文はもらっていたがまさかこのようなことになると思っていなかったのである。
(やはり私も行けばよかった。文をもらってすぐに駆けつけていれば)
冬花宮からの文が届いた時は秀礼も坤母宮に向かおうとしていたが、それを止めたのが清益だった。『あまり華妃と親しくしていては、他の者の目がある』と忠告を受け、震礼宮に留まったのだ。
特に最近は何者かの尾行があった。それは永貴妃の宮で鬼霊祓いをした後からはじまり、先日、櫻春宮で瓊花の鬼霊と対峙した時も誰かの気配があった。
(だからあまり紅妍に近づいてはならぬと思っていたのだが……それが仇となったか)
それがこの結果だ。紅妍は坤母宮で花詠みを行ったらしいがその途中で倒れてしまった。異変に気づいた藍玉が人を呼び、冬花宮まで運んだそうだが、意識は戻らない。ひどい汗をかき、うなされているそうだ。
外は夜が更け、月は鋭く身を細めている。いやな三日月だ。月を見上げて睨みつける。後ろでは清益の声がしている。それでも秀礼は足を止めなかった。
冬花宮の門が見えたあたりで歩みを遅くする。息を切らせて追いかけてきた清益がようやく横に並んだ。
「何を考えているんですか。こんな夜に供もつけずに飛び出してどうするんです」
「……すまない」
秀礼も肩で息をするような状態だった。夢中で駆けていたのである。紅妍の話を聞いてからというもの無我夢中であった。いますぐにでも冬花宮に行かねばと思い、現に門の前まで来ている。
そんな秀礼に清益は呆れているようだった。
「夜半遅く妃の宮を訪問するなどおかしなことです。戻りましょう」
「ここまできたのだ、紅妍に会う」
「秀礼様!」
珍しく、清益が荒げた声で秀礼の名を呼んだ。ここまで感情の発露することは珍しい。それほどに清益は焦っているのだろう。
「最近の秀礼様はおかしくなっている。あなたが背負うべきは華妃ではなく髙でしょう」
「……わかっている」
「あなたは皇子で華紅妍は帝の妃。そう選出したのは秀礼様ですよ」
そうだ、と内心呟く。紅妍を妃に仕立てたのは秀礼である。
(あれが良い手段だと思った、といえ、後悔しているなど)
知れば知るほど、紅妍を華妃にしたことを悔やんだ。華仙術は頼りになるがそれを用いる紅妍という人が優しすぎるのだ。どうしたって目で追ってしまう。近づきたくなってしまう。
「まさか……好いているわけではないでしょう?」
細く小さく、恐れているような声だった。その問いかけを放った清益は、秀礼の答えを恐れている。
しかし秀礼自身も、その答えを持ち合わせていない。冬花宮の門を睨みつけたままである。
「華妃に会う」
そう告げて、歩いていく。清益が着いてきたのは少し経ってからだった。
宮女らは夜半の訪問に驚いていたようだったが、藍玉は意図を汲んだようだ。紅妍の寝所へと案内してくれた。
紅妍のそばに宮医がいる。彼は秀礼の来訪に驚きつつも膝をついて揖した。
「容態は?」
問う。宮医がそれに答えた。
「ひどい熱が出ていて、たびたびうなされているようです。まだ一度もお目覚めになっていません」
「原因はわかるか?」
「それもまだ。外傷は見当たりませんからそういったものではないと思いますが」
秀礼は紅妍のそばに寄る。紅妍は眠っていたが、あまりよくはないのだろう。眉間に皺を寄せ、額は汗をかいている。
紅妍が倒れたのは坤母宮で花詠みをしていた時だと聞いている。だが鬼霊が出たという報告はない。最も、そばにいたのは藍玉ら宮女たちなので、近くに潜んでいたとしても気配を感じ取れなければわからない。
(紅妍の近くにいればよかった)
あらためて思う。秀礼ならば鬼霊の気を感じ取れる。姿を見せなかったとしても近くに潜んでいればすぐわかっただろう。
それを今さら悔やんだとて遅い。紅妍は倒れ、目を覚まさない。
秀礼は宮医と、部屋の隅で控える清益や宮女らに振り返る。
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